第12話【序章の詐欺】疑惑のゴンザレス裏話

 ども! アレスです!

 生きてます! 生きてますとも!!


 大岩の近くの大木の裏に飛び込んで、なんとか助かりました。

 危ない橋を渡ってもそれだけのものは得た気がするが、所詮自己満足。

 あの後、村に戻ったけど女Aと女Bは居なかった。


 もう一回楽しみたかったなぁ〜。

 蹴り飛ばしたから恨まれてるかも知んないけど。


 まあ、仕方ないとトボトボと帝都にやって来た。





 昼間から入った酒場の看板娘のメメちゃんがとっても可愛かったので、現在、一生懸命口説き中。


 首元までの茶色のサラサラのショートヘアに、全体的に小柄で可愛らしい。


 クリっとした黒い目が宝石のようで、朗らかで温かい雰囲気の看板娘で、街娘らしい素朴さも魅力だ。


「メメちゃん! 俺と一晩!

 ね! ちょっとだけ!

 ちょっとだけだから!」


「ご遠慮致します。では、他のお客さんもおりますので」


 酒場娘にしてはやけに丁寧な口調で、可愛く愛想笑いをしつつ、でも返事はつれない。


 ああ〜ん、メメちゃーん!!


 でも、そんなつれないところも魅力的なメメちゃんを眺めつつ、ちびちびと安酒を飲んでいた。


 そんな中、あのソーニャちゃんが突然、その酒場に来店して来た。


 それから俺の対面に座り、俺をジロジロ見てくるので、俺も全身を舐め回すように見返しておいた。


 顔も身体も良〜い女なんだよなぁ。

 目の保養〜。


 足を組みながら、こっちを見てくるんだが、これがまた色っぺえのなんのって。

 一晩お相手してくれぇ。


「ねえ、あんた。No.0なんでしょ?」

 ソーニャちゃんが突然、そう言った。

 当然、俺は即座に答える。


「違うけど?

 ていうか、No.0なんて居ねぇんじゃねーの?」


 とりあえず、エールの追加。

 疑ってはいたがソーニャちゃんの一言で察しがついた。

 恐らくこの店は……。


「私の目の前にいるわよ」

 ソーニャちゃんはなおも続ける。

 俺を雇いたいそうだ。


 なんでまた?

 軽口を言いながら内心ため息。

 この店に上手く誘導されたか、それとも偶然か。


 俺は今回は偶然と判断した。

 そうでないと、対応があまりに急過ぎる。

 例の世界ランクNo.0『らしき』男が急遽来店したから、応用を効かせて接触した……ということかな?


 店内をエールまだかなぁ、などと言いつつ店内を見回す。

 会話に聞き耳をあからさまに立てている者は居らず、ソーニャちゃんほどの美人を奥のテーブルに居る男は見もしない。


 まあ、間違いないな。

 この店は第3諜報部もしくは、それに近い部署直営の店。


 話の流れで逃げるフリ。


「じゃ!」

 素早く立ち上がるが、ソーニャちゃんにガシッと手を掴まれ一切振りほどけない。


「は、離せ……」

 帝国の諜報部に関わるなんて冗談じゃない!


「逃げるなら、私の権限で無銭飲食で即時逮捕するわよ!」


 ぐぐっ!

 ここでサラッと金を出して、立ち去ればいいんだが肝心の金が本当にない。

 エールを持ってきたメメちゃんがジト目で見ている。


「こ、これは誤解だよ? 誤解だからね、メメちゃん?」

 まだ無銭飲食じゃないからね!

 このエール分のお金は無いけど!!


 ならなんで頼んだって感じだな。

 まあこの段階なら、どうせ逃げれんよ。


 それでも俺は言い訳じみたことをメメちゃんに言う。

 ジト目のまま、メメちゃんはエールを置いて離れる。

 俺はため息をつく。


「幾らなんでも、流しの人間雇うっておかしいよな?

 なんでまた、そんな事態になってんだ」


 むくれたように、ソーニャちゃんはそっぽを向く。

 純真らしく『素直』で可愛い反応だった。


「……人手不足なの」


 うん、チンケな詐欺師を雇う理由にはならんよね?


 この間の邪教の件で人手不足なんだと。

 そりゃそうだろうが、尚のこと他所の人間関わらせるなんて危ない橋渡らんよな。


 ため息を吐きながら、凝った肩を解すようにぐるっと首を回しさらに何気に店内を見る。


 さっきまでいた客はもう居らず、周りに人気はない。

 それで帝国諜報部の意志を感じる。

 逃がす気はない、ですか。


「いつまでだ?

 いつまでも拘束されては敵わん。期限を決めてくれ」


 ソーニャちゃんは俺があっさり話に乗りそうなことが予想外だったのか、少し戸惑う。

 その反応に、やっぱりだよな、と確信を持つ。


「あ、そうね。有用な情報が出るまでと言うのは?」


 俺を第3諜報部のメンバーにするつもりか!?

 もちろん、ソーニャちゃんかメメちゃんをくれるなら、考えなくもない。

 是非!! 是非下さい!!


「それってずっとじゃないか?

 有用の具体性が無さ過ぎる。

 2ヶ月以内とか期限を切ってくれ」


「2ヶ月ね。じゃあ、それでいきましょ」

 随分、あっさりだな。

 まあ、『どうでもいい』から、いいんだが。


「それだけじゃない。

 有用な情報が出ればそれで良いなら、俺が『性行』したお金をあんたが払ってくれたら、そこでこの依頼は達成。

 俺は無罪放免にしてくれるってのを付け加えてくれ。


 後、俺が活動した経費は全てそちらで持ってくれ、俺は金が無いからな」


「良いわよ。

 成功したなら、解放してあげる。

 活動資金は……当然ね。お金が無いと活動しようがないものね」


 いやにあっさりだな。

 まあ、いいけど。

 どうせ逃げられない。

 チンケな詐欺師にどうこう出来るとは思えん。


「これ、あんた(たち)は幾らでも契約を反故ほごに出来るがなんとかならないか?」


「良いわ。

 公爵家令嬢であり、帝国第3諜報部隊、もう一つ付け加えるなら、世界ランクNo.10ソーニャ・タイロンの名において約束するわ。

 名誉の誓いってやつよ?」


 俺、貴族じゃないから名誉の誓いってなんの約束にもならないよ、ソーニャちゃん。

 まあ、この娘、約束破りそうにないけど。


 店内を見回す。

 メメちゃんと目が合い、手を振ったら軽く頭を下げてくれた。

 メメちゃ〜ん♡


 宜しくね、『本物の隊長』さん?


 ソーニャちゃんは諜報部隊の隊長にしては素直過ぎる。

 故に彼女は表の隊長に過ぎないということだ。

 では、本物の隊長は誰か。


 俺が『本当に』偶然、この店に訪れ、突然の事態であろうと対応して、ソーニャちゃんに指示が出来る人間がこの場に居ると言うわけで。


 隊長ともなれば世界ランクナンバーズでなくとも、それなりの実力者の可能性が高い。


 そうすると世界ランクに次ぐ帝国ランクに入っている人物。

 その中で女性は2人だけ。

 さらに帝国ランク5位バーリス・レモアは筋肉隆々の30代の女将軍で、しかも黒髪。


 残るは、帝国ランク1位。

 メリッサ・レイド。

 元レイド皇国皇女。

 アンタだよね? 第3諜報部隊長さん。


 目の前の人物がどちらであるにせよ、俺に選択の余地は無いけどね。

 このままだと無銭飲食で捕まるから……。


 2人の道が重なるのは、この少し後のこと。

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