第11話【序章の詐欺】罪人ゴンザレスと冒険者ゴンザレス裏話

 宗教集団に限らず、こういった集会の演説やらは無駄に長い。


 本当に無駄に無駄に長く、危うく逃げ出すところであった。

 でも、縛られたソーニャちゃんが祭壇に連れて来られ、周りを囲まれた時には素直に逃げときゃ良かったと心から思った。


「逃げなさい!

 私のことはいいから逃げて、このことをカレン姫様にお伝えして!」


 ソーニャちゃんは縛られてイタズラし放題の状態で叫ぶ。


 うん、状況を見て言おうね?

 俺、囲まれて逃げられないから。


 ソーニャちゃんが言うことには、目の前で偉そうにしているジジイが持っている杖により動きを封じられているらしい。


 良いなぁ〜!!

 あ・れ・さ・え・あ・れ・ば!!!


 No.8の小娘にも手を出せるはずだ!!


 ……いやいやいや、手は出して良いのよ?

 その後がとんでもなく怖いだけで。


 それはともかく、なんとかこの場を逃げないとなぁ……。

 しかし、曲がりなりにも帝国の公式部隊を壊滅させられるなんて、随分とでーっかい邪教集団だったことがよく分かる。


 今は発禁処分になったような本もいっぱい持ってそうだ。

 隙あらば、いつか手に入れたいものである。


 そんなことを考えてると、教祖のジジイがアレスの名を呼んで無警戒で近づいて来たので、杖を奪って壊した。

 勿体無いけど仕方ない。


 その瞬間にソーニャちゃんが。

「キシャー!!!

 よくもやってくれたわねぇぇええええ!!!!」

 と暴れ回るので、ドサクサに紛れて逃げておいた。





 そうして無事に邪教集団と第3諜報部隊の魔の手から逃げ出した俺は、現在、帝国の奥で冒険者として活動している。


 現在、俺の名はアストだ。

 アレス?

 ふ……封じられた名だ。

 ほとぼりが冷めるまで名乗りません。


 田舎娘だが、可愛い2人の仲間も色々な意味でゲットした。


 この地方では100年以上に渡り、姫巫女という若き力のある女性を生贄にして、魔王の配下とされた暗黒の暴龍を封じてきた。


 その嘆きと魂が散りばめられ、光の魔石となってこの地方で産出されるとか。

 また、時には巨大な光の魔石のかたまりまで産出されることもあるとか。


 そのため、暗黒の暴龍は別名、嘆きの暴龍とも呼ばれている。

 元々、力ある巫女が産まれやすい土壌にあるだけだろうな。


 まあ、嘆きと魂とかはただの作り話だが、生贄と光の魔石が産出されるのは本当の話。


 その暗黒の暴龍が長いこと放置された背景には、単純に強いからだ。

 世界ランクナンバーズでも限られた者が、生命を賭けて戦わねば討伐出来ないだろう。


 帝国で言えば、世界ランクNo.2カレン皇女だけだ。

 ソーニャちゃんでは多分無理。

 帝国として皇女の命と生贄の命は等価ではない。





 そんな今代の巫女とされたのが……此処にいるどちらか、だろうな。

 はい、どうもそれに手を出してしまいました。


 そうかなぁ〜とは思ったのよね。

 なんだかそんな雰囲気になったから、つい手を出してしまった。

 初めてには手を出さない俺の主義はどこかに行ってしまった。

 だって可愛かったから。


 とにかく巨大な黒い巨体がその巫女を狙って、昨日俺たちが活動した森の向こうから突っ込んで来ている。


 俺たちは逃げた。

 さあて、どうするか?


 方法はある。

 俺は以前、この地方に来た時にある物を見つけておいた。

 それを使えば……。


 一緒に必死になって暗黒の暴龍から逃げる女Aと女Bと俺。

 一晩、ベッドで一緒に過ごしながら……名前忘れた。


 どうやら女Aが巫女で女Bが友人らしい。

 どっちも可愛いけどな。


 ま、これも美味しく頂いた代金ってことで覚悟しようかね。

 逃げながら、内心諦めにも似たため息を吐く。


 もちろん、俺は死ぬ気はかけらも無い。

 崖になっているところで、2人を川に向けて蹴り出した。


「あばよ!」

 驚愕に染まる2人の顔、笑顔で見送る。

 生きていればまた抱かせてくれよな!


 2人が下の川に落ちるのを確認して、俺はまた走り出した。


 チンケな詐欺師のくせに可愛い子に対しては、俺はどうも無駄に格好を付けてしまう性分らしい。


 あー、やだやだ。

 それでも決して死ぬ気なんかねぇけどよ!!


 暗黒の暴龍は川に落ちて匂いの消えた2人を無視して、狙い通り俺を追いかけて来る。


 姫巫女ではないのは見たら分かるんじゃないのか?


 そんなふうに思うかもしれないが、この龍は目が退化し反対に異常に嗅覚が鋭くなっている。


 故に川に落ちて匂いが薄まった方ではなく、より匂いが濃い俺の方を追って来るのだ。

 ……昨日の夜に色々と俺に匂いが移っちゃってるのよ。


 俺が書物で読んで集めた情報によれば、暗黒の暴龍はそのまま闇属性を持つ龍である。

 そして生贄の姫巫女とは力の塊である。


 それが長いこと混じり合わずに、蓄積されて暗黒の暴龍の体内に残っている可能性がある。

 それを示した例が数十年前にあった。


 なんでもその時代生贄となった姫巫女が身に付けていた小さな光の魔石が、暗黒の暴龍の中で爆発するような現象を起こした、と。


 それを正しく伝えることが出来ていれば、暗黒の暴龍はもっと早くに討伐出来たかもしれないだろうに。


 俺はそう思わずにいられなかった。

 魔力が多く洗練された者はより美しくなる。


 さぞや歴代の姫巫女も美人であったことだろう。

 是非ともお相手して欲しかったものである。

 ……今代の姫巫女は頂いちゃったけど。


 暗黒の暴龍がもうすぐ後ろまで迫って来たところで、目的の物は見えた!


 光の魔石は特徴がある。

 単純に夜、仄かにではあるが光るのだ。


 目的とした大岩は古くから迷いの道標と呼ばれ、夜に旅人に道を示したと言われる大岩だ。


 要するに巨大な光の魔石なのである。


 悪食あくじきな頭の悪い暗黒の暴龍は、見事にそれを誘導されるがままに喰らった。


 それが暗黒の暴龍の身体の中の闇のエネルギーと激しく反発し合い大爆発を起こした力の奔流は、辺り一面真っ白に染めた。





 100年よりも更に前から、周辺の人々の恐怖の代名詞である暗黒の暴龍の討伐。

 帝国第3諜報部すらも追い詰めた邪教集団の壊滅。

 いずれも世界ランクNo.0が関わったとされる。


 世界ランクを刻む世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。



 なお、これだけの出来事を引き起こしておきながら、とある詐欺師はやっぱり、自分のやらかしたことについて気付いてはいない。


 世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。

 彼はそういう男である。

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