第3話【序章の詐欺】詐欺師ゴンザレス裏話③

 目的の本も手にしてホクホクしながら、夜の店に入ったのは覚えている。

 店のかわい子ちゃん並べて、じゃんじゃん酒を飲んでたことも覚えている。


 薬でも仕込まれたかな?


 拉致されて連れて来られたのは、どうやら昼間に元王女の小娘を案内した時に来た建物のようだ。

 No.8帝国の黒き獣オーレンと部下がそう話していた。

 どうやら、彼らも俺をNo.0と勘違いしているご様子。


 なんでやねん。


 建物の外でしていた会話を誰かに聞かれてたらしい。

 いや、そう簡単に信じないで?

 俺は己の運命を賭けて帝国のNo.8と交渉をすべく目をカッと開いた。


 そこにタイミング良く、元王女の小娘No.10イリス・ウラハラが突入してきた!!


 なんでこのタイミングで!?


 狙ったのか!

 狙ってたのか、貴様ぁぁああああ!!


「来たかNo.10。いずれは来ると思っていたが、存外早かったな」

 帝国のNo.8はロングソードを構える。


「貴方は帝国の……世界ランクNo.8……。

 No.0を返してもらいに来ました」


 やめてー!!

 わたくしを巻き込まないでーー!!!


 No.0じゃないから!

 俺、ただのチンケな詐欺師だから!!!


 俺の(心の中の)叫びを無視して両者が交差、互いの剣が全く見えない速度で2人は剣をぶつけ合う。


 そういうのいいから!

 もう2人で勝手にやりあってくれたらいいから、まーきーこーむーなー!!!!


 とにかく俺も逃げないと、いつ巻き込まれて切られるか分かったものじゃない。

 周りにある物で切られてないもの無いんじゃないか?


 キョロキョロと安全地帯を探す。

 あった。


 No.8の男の後方に木箱が積んである。

 そこは未だに無傷だ。


 とりあえずそこまで逃げようと、芋虫のようにヘコヘコと進む。


「む? なんだと!? 貴様!」

 構わなくていいのに、No.8の男は俺の動きに反応した。


「0様!?

 ……そういうことか!」


 0は数字だから名前じゃないのよ、小娘ぇぇええ!!

 こっちくるなぁぁあああ!!


 俺が心の中で嘆いている間に、女が風の刃を飛ばし木箱に命中。


 白いと思うほどの光が見えて、遅れて…激しい爆発音!


 吹き飛ばされ、あちこちぶつけながら自分が落下するのが分かる。

 落ちながらも身体のロープを外そうと建物の端に引っ掛けながら。

 同時に落ちる速度が弱まる。


 ぶちぶちとロープが千切れて、また落下するが地面が近かったらしい。


 なんとか頭から落ちないように体勢を整えケツから着地!!


 いっってぇぇぇええええええ!!!!

 ケツが割れたぁぁぁあああああ!!!


 俺は痛みで悶えて逃げたくても逃げられない。

 そしたらそんな俺を見て何故かコイツら……。


「……No.0、何故に動かん!?

 ……そうか、そういうことか。

 貴様はこの戦いで勝った方に与する。

 そういうわけだな?」


「0様……見てて下さい。

 これが私の覚悟です」


 何か勝手に覚悟を決めたぁぁあああ!?

 俺の居ないところでやれよー!?

 巻き込むんじゃねぇよ!


 俺は心の中で滂沱ぼうだの涙を流す。


 そんな中、2人は勝手に殺し合う。

 2つの黒と緑の閃光がぶつかる。


 小娘の左腕に大きな裂傷。

 帝国のNo.8は小娘のショートソードに胸を貫かれ。


「み、見事だ……。

 口惜しいが……これで、貴様が、No.8……だ」

 ガクっと帝国のNo.8から力が抜ける。

 小娘は帝国のNo.8を横たえ、血だらけの姿で俺に満面の笑みを見せる。


 夜に映える血塗れの小娘、血塗れショートソード持ち。


 こぇぇえええよぉぉおおお!!!!


 小娘は俺の前にひざまずく。

 俺は思わず何故、あんなタイミングよく小娘が姿を現したのか尋ねた。


 おかしいし!

 タイミング良すぎだ!

 もしやストーカー!?


 詐欺師へのストーカーって何!?


「どうやって来た?」

「へ? あるじ様の匂いを追っていたらここへ」


 ええ〜? この女、姫じゃなく犬だったか!?

 あと、あるじ様ってなんだ、あるじ様って!!!!


「俺はお前の主人じゃない!!」

 俺は心からそう告げた。


「叶いますならばそう呼ばせて下さい。私の忠誠ゆえに」


 なんでだよ!?

 いらねーーーーー!!!!!!


 付きまとってくんな!

 まっぴら御免だ!

 俺は心の中で盛大に叫んだ。


 血塗れで恍惚な顔で笑う小娘は怖かったので、口に出して言えなかった。


 この日、世界の叡智の塔にてNo.8の黒き獣オーレンの名が消え、No.10疾風のイリス・ウラハラがNo.8となり世界に衝撃を与えた。


 それに関わったとされる世界ランクNo.0。

 だが、世界の叡智の塔にはNo.0という番号は、ない。


 世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。

 チンケな本好きなだけの詐欺師のクセに、ガラにもなく可愛い小娘に情けをかけたのが運のツキ。


 彼の受難はこうして始まった。

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