第2話【序章の詐欺】詐欺師ゴンザレス裏話②

 契約ってものを俺はないがしろにはしない。詐欺はするけど。


 こんだけ良い宝石を頂いたのだ。

 ちょっと危ないところで得た情報を提供してあげようと、俺には珍しく優しさを発揮。

 元王女の小娘が可愛いかったからなのは無関係のはずだ。

 そのはずだよ?


 帝国のエストリア国侵攻のための情報拠点がこの街にあるらしい。

 そこぐらいには案内してあげましょう。

 偶然辿り着くだけだけどね?


 ま、これからもエストリア国内で帝国から逃げるなら、その拠点は潰しておいた方がいいんじゃない?


 潰せるかは知らんけど。

 元王女の小娘が生き残るためにはその拠点を潰すしかないのだけどね。


 時々、元王女の小娘が付いてきている気配を感じながら、建物の下。

 人通りの多い場所を通ったのは、当然理由がある。

 入り組んだ道を進んだのも。


 途中、スラムで絡んで来た奴を小娘が始末したのには、あちゃー、やっちゃったな、と。

 だから、その後は駆け足で目的地まで急いだ。


 この小娘、帝国に今も追われてる訳よ。

 だからこんな目立つマネをすれば、居場所がバレてしまうということだ。


 追われるのは当たり前っちゃあ当たり前。

 帝国が滅ぼしたウラハラ国の正統後継者にして、実力者。


 権力とか政治力とかは皆無だが、それがエストリア国と結び付けば、帝国に攻撃を仕掛ける大義名分になる。


 小娘自身はそのことに気付いてないようだがね。


 ま、そうは言っても俺が出来るのはここまで。


 追手を撒いて、偶然を装って、ここに連れてくるだけ。

 俺は腕はからっきしだしね。

 チンケな詐欺師に国家間のアレやこれやなんざ、荷が重過ぎる。


 そうして小娘に振り返ろうとすると、突然、切りつけやがったこの小娘!!


「やっぱり避けたわね。

 私の必殺の一撃を……」


 いきなりショートソードで斬りつけられ、すっご〜く奇跡的に剣を避けたら、俺がNo.0だと思い込まれた。


 必殺の一撃って、必ず殺すと書いて必殺よ!?


 こここここ、こけーっこっこ、殺す気か!!??


 その時にしてようやく気づいた。

 小娘の境遇に同情なんかして、詐欺師がちょっと小娘が可愛いからって手助けなんてするんじゃなかったぁぁあああ!!


「No.0、貴方に頼みがあります」

 女はショートソードを地面に置き、女自身も両膝を付くとそのまま土下座した。


「私を……私の国を救って下さい!」


 ヤダ!!! 絶対、断る!!!!!

 斬りつけてきたくせに、なんて都合のいいことをほざいてんだ!!


 だいたい国って何だ、国って!

 滅びた国は救えないの!

 滅びてるんだから!


 じょじょじょじょーだんじゃねぇ!!

 命あっての物種だ!


 もうちゃんと断って帰ってもらおう。

 もうゴンザレスはこれだけでお腹いっぱいよ!!!


「断る。俺に何の得もないからな」

 得があっても無理なものは無理!


「私はこれでもウラハラ国の王女です!

 出来る事は何でもします!

 それにこれでもランクNo.10です!

 国を救って頂ければ、命をかけて貴方に尽くします!」


 元だろ! 知ってるよ!!

 出来る事は何でもっていらんよ!

 こんな自爆女。


 それにだ、もし仮に手を出そうものなら、一生涯何を言おうと付きまとわれる。


 そもそも、ランクとは世界の叡智と呼ばれる時計塔に勝手に刻まれるナンバー制度だ。


 中でも世界共通ナンバーズのランクNo.10位以内はすでに人外。

 化け物にしかなれない。


 国からのランク認定だと名誉職に使われたりするので、国のランクはNo.10位以内でも人としての強さでしかないのとえらい違う。


「やっと、やっと巡り合えたのです。

 帝国から逃げながら噂を辿りエストリア国に入り、ようやく……ようやく巡り会えたのです!


 全てを見通す千里眼を持つ貴方様は、私のことをご存知だったはず!

 でなければ!

 あの沢山の人の中から、わざわざ私に貴方様から声をお掛けになるはずがありません!!!」


 千里眼でなくてもお前はバレバレなんだよ!!

 気付けよ!


「……他を当たれ」


 そうして俺は今しも小娘が猛ダッシュで追いかけて来ないかドキドキしながら、その場を去った。


 もうほんと、あとは自分でなんとかして?









 小娘から無事に逃げられた高揚感と何より高値の宝石をゲット出来たことで、ウキウキとスキップしながら質屋にその宝石を持ち込む。


 危ない目にはあったが、結果的には無事に詐欺成功だ。

 この宝石を売り、目的の物を買った後で余ったお金で、夜のお店のお姉ちゃんとイケナイことをするのだ!


 身なりを整え、没落貴族が代々の家宝を売りに来たという筋書きで。


 当然、幾らかは買い叩かれるだろう。

 それはそれで仕方がない。

 第一は足が付かないこと。

 安全第一!


 宝石は金貨1000枚になった。

 なんでもウラハラ国だけでしか取れないウンタラカンタラ……ウンチクかます質屋。


 知ってるよ!


 実際、これウラハラ国の家宝だからね?

 金貨1000枚って買い叩き過ぎだからな!

 それなりのしっかりしたルートのなら5000枚、いや、その倍はいくね!


 そうは言っても、いわく付きの品でもある。

 かつてウラハラ国の王族がこの秘宝を巡り殺し合ったとか色々。

 変な魔力があるとかではなく、それだけ有名で高価な宝石ってだけ。


 ただね、あの小娘がこれを持っていたのが問題。


 通常なら、世界ランクナンバーズなんて帝国の暗部とかでもなければ、危なくて普通の奴は狙わん。


 だけど今回は可愛い小娘と高価な宝石が同時に手に入るという状態。

 つまり、ただでさえお尋ね者なのに、文字通りカモ(小娘)がネギ(宝石)背負ってるわけよ。


 ま! 今回はお陰で大金と、その金で目的にしていた滅びたレイド皇国の歴史書を手に入れた。


 ゴンザレス、本が大好きなの。

 それを目的に世界を詐欺して回ってるほど。

 しかしながら本は高い!

 安い物でも金貨1枚。


 一般人の夫婦2人が頑張れば銀貨5枚で1ヶ月生活出来るのに対し、金貨1枚!!


 感覚的には銅貨=小銭、銀貨=よく使われるお金。

 金貨は貴族が使うお金って、感じだ。


 歴史書もなかなか見つからない。

 まるで誰かが歴史が進むのをワザと止めているような印象すら受けるほど。


 そうでなくても金持ちが本を美術品のように抱え込んで世に出回らないこともよくある。

 そんなやつ相手に詐欺を引っ掛け、本を頂いていくのが俺の日常だ。


 本は読まれてこそだ! 美術品じゃねぇぞ!!

 本の発展を邪魔する奴が居るなら許すまじ!


 だからこそ俺は戦争とか大っ嫌いだ。

 本を燃やされたりするし。


 さてそれはともかく、あぶく銭は得た街で景気良くばら撒くのも詐欺師として生き抜くコツさ!

 早速、夜の街と洒落込みますか!





 ……そんなわけ(?)で、現在簀巻きにされています。


 なんでじゃぁぁあああ!!!

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