第1話【序章の詐欺】詐欺師ゴンザレス裏話①

 俺の名はアレス。


 突然だが、俺はケチな詐欺師だ。

 年は20を越えたところで数えるのを辞めた。

 どうせ生まれて物心着くまでも、自分が本当はいくつかも数えちゃいない。


 チョット頭を働かせて小銭を巻き上げる。

 そんな詐欺師。


 大それた騙しなんて出来ないし、そんな度胸もない。

 腕っ節も大したことなければガタイもいい訳じゃない。

 スラム出身の詐欺師である。


 過去はゴンザレスと呼ばれたが、過去は捨てた。

 真名を隠す?

 いやいや、そんな訳ないじゃん。

 単純にゴンザレスよりアレスと名乗った方が、飲み屋の姉ちゃんにモテるのよ。


 それはともかくとして詐欺師稼業は楽じゃない。

 地道な情報収集に慎重な行動が何よりだ。

 街のやばいシマに入り込んだら、俺みたいな奴は上手くいかねぇ。


 市場が立ち並ぶ大通りなんかで、おのぼりみたいな丁度いい〜カモを探して、口車で小銭をせびるのが俺のやり方よ。


 この街に入って手頃な詐欺にかけられる相手は居ないかと情報を収集すると、とっても良さげなカモの話を入手出来た。


 帝国に滅ぼされた世界ランクNo.10元王女イリス・ウラハラ。


 その女はウラハラ国の再興のために、虚ろな目で世界最強と呼ばれる世界ランクNo.0を探しているらしい。


 いやいや、世界最強と国の再興なんの関係もないから。

 何処かの大貴族でも捕まえて、その貴族との子供にウラハラ国継承を国に認めさせた方が早いから。


 そんな訳でくだんのイリス・ウラハラ。

 そのどう見ても田舎からのお上りっぽい女が、虚ろな目で通りを物珍しそうに辺りを見渡している。


 年の功は10代後半といったところ。

 亜麻色の髪を肩まで伸ばし、田舎っぽさを感じる綺麗より可愛い系の女だ。

 ソフトレザーにショートソードらしき剣を腰につけている。

 格好に関して言えば、村から出たての駆け出し冒険者ってところだな。


 上手く口車に乗せて一晩のお相手としてもて遊んでも良いが、やはりここはいつものように小銭を巻き上げて、都会の厳しさってやつを教えてあげるのが優しさってもんさ。


 ……なぁんてな。

 噂を探れば、この娘。

 自分の足跡を隠せてないんだよなぁ。


 帝国から逃げてエストリア国に入り込めたのは奇跡に近い。

 もっとも、それが小娘でしかない彼女の限界だろう。

 それでも今、生きてこの街に辿り着いたのは、弛まぬ努力の成果と言ったところか。



 俺は頭をガリガリと掻く。

 はっきり言って、こういうのは苦手だ。

 虚ろな目をして、『いない』世界最強ランクNo.0を探しているときた。


 しかも本心から探しているならともかく、『いない』ことを本人も気付いている節があるときた。


 簡単に言うと、この若い身空で絶望しちまってるときた。


 俺は詐欺師だ。

 それもチンケな詐欺師だ。

 世界最強No.0とは違う。


 もっとも、過去のNo.0は誰かを助けたりなんかしなかった訳だが。


 止せばいいのに俺はそいつの目の前で転けたフリをすると、そいつは大丈夫ですか?

 なぁんて言いつつ、手を差し伸べてくれた。

 虚ろな目をしておいて、存外優しい。


 元が世間知らずの優しいお嬢様、王女様なんだろうな。

 ゲヘヘ、その優しさは都会ではカモですよ、てね。


 絶望しちゃってどうでも良いんだろうな。

 安心して詐欺らせろよ!

 居たたまれなさ過ぎて、詐欺出来ねぇじゃねぇか!!


「いやいや、失礼失礼。

 あー、これは実に美しいお方だ。

 この街には、どのようなご用で?」


 お世辞ではない。

 田舎っぽくはあるが本当に可愛い。

 魔力が強く洗練されると、必然的に可愛くなるのが世の常だ。

 だからナンバーズは美男美女ばかりだ。

 声を掛けると早速、問われた。


「……ええ。ここには今日来たばかりで。

 ……貴方はランクNo.0をご存知ですか?」


 いきなり見ず知らずの男に声を掛けられて、自分の用を話す奴が居るか?


 目が死んでるなぁ、可愛いのに。


 そんな訳で早速俺は答えた訳よ。

「……ランクNo.0、ですか。

 知っていると言ったらどうしますか?」


「知ってるんですか!?

 教えて下さい! お礼はしますから!」


 世間知らずの元王女様の反応は早かった。

 俺の言うことを容易く信じるのだから。


 まーったくよー!

 No.0なんて居る訳ないだろ?

 世界ランクナンバーズはNo.1〜10までだっつーの!


 あんた本人がナンバーズなのにそれでも言うか?

 どう聞いてもあんなの酒場の与太話よたばなしだろうに。


 世間知らずはこれだから。

 通常、この手のお嬢ちゃんには常識をサポートする使用人なんかが付いているが、ウラハラ国は帝国に滅ぼされた小国で、この嬢ちゃんは、ただ1人。


「そうですか。

 簡単に逢える存在ではありませんが、逢える方法ならあります。

 付いて来てください。

 そうだ、貴女お金はお持ちですか?

 彼に逢うために、ある人にお金が必要なのです。

 金貨1枚ほどですが」


「お金……ですか?

 すみません、今、手持ちがなくて……代わりにこの宝石なら」


 女は宝石を俺の手に渡す。

 俺は内心、ため息を吐く。


 こんなに簡単に見ず知らずの人に宝石渡すか?

 よく今まで生きてこられたな?

 すっかりヤケになってるな。


 普通に詐欺をするならここからあの手この手で雰囲気出しながら、罠にかけてお金を引き出すんだが、もう目的達成だ。


 あとちょこっと言葉巧みに誘えば、この娘も頂くことが出来そうだ。

 でもなぁ〜、俺は処女には手を出さない主義なのよ〜。

 やるせないでしょ?


 覚悟出来てたり自ら望んでとかならともかく、本気で好きな相手が出来た時に、スラム上がりの詐欺師に騙されて初めてを捧げてたなんて。


 どうせなら、気兼ねなく楽しみたいしね!


 まあそんなのもベテランのおねぇ様方からすれば、余計なお世話!

 女はそんなに弱くない、だそうだが。


 そりゃそうか、と。

 ま、結局、俺がそんな主義な訳よ。


「分かりました。

 付いて来なさい」


 さぁーって、どうすっかなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る