最後まで、詐欺にご注意しましょう。
「良かったのですか、バラしてしまって?
貴方様なら全てを隠し切ることは可能だったはずでしょう」
イリスはたった今、城から出て来た俺にそう尋ねた。
「なるほどね、お前も詐欺に掛かったな?
虚言で脅しただけだ」
大体、何が邪神だ。
そんなもん信じる訳ねーだろ。
ま、これでもまだ覇道を諦めないなら、別の方法で止めるだけだ。
帝国王宮潜入については今の王宮は何処もそうだが、魔力を感知することを優先している。
だから魔法を使わない技術で潜入するなら穴が存在してしまう。
嘘を見破る技術も同じように、潜入防止対策も魔力に依存していることが多いからだ。
……だから誰もが詐欺に掛かるんだ。
世界最強なんて幻の詐欺に、な。
「お前らにも教える気なんか無かったがな。
だがそうしないと、お前たちをS級美女と呼ぶなと、どっかのエルフ女が言うからな」
「貴方様はそうやってずっとお優しい。
私の時もお気になさらず見捨てても良かったでしょうに……」
「田舎出の可愛い女が、ちょっと騙されやすそうな顔してたから引っ掛けただけだ」
イリス・ウラハラは俺のそんな回答にクスクスと笑う。
「そうやって弱った女をなんとかして救ってしまうから、ホイホイなんて呼ばれるのですよ?」
俺はふんっと顔を逸らす。
「俺はチンケな詐欺師だ。
それは変わらん」
「ええ、それで結構ですよ?
ただチンケな詐欺師の貴方様の女は、ほぼナンバーズ入りしておりますが」
「何?」
「エルフィーナは例外としてメリッサ姉様がNo.3、カレン姫がNo.4、ナユタがNo.5、ツバメがNo.6、チェイミーがNo.7、ソーニャさんはNo.8ですが貴方様の女でしょうか?
……後、私はこの度、No.2になったハムウェイさんを抑えNo.1となりました。
その頂点が貴方様です。
これで名実共に世界最強、ですね」
俺はため息を一つ吐く。
「化け物集団だな」
世界の叡智の塔は邪気を集める一切の機能を無くし、ただ再び世界ランクを刻むのみの存在となった。
今、イリスが言ったナンバーズたちの名を変わらず刻むことだろう。
「……ええ。
その化け物集団のご主人様が貴方様です」
「どいつもこいつも詐欺に引っ掛けられただけだ。
詐欺には十分注意するこった」
「あともう一つ。
勇者について、ですが」
ん?
ああ、キョウちゃんか。
「何故、お帰しに?
自分の女にするつもりで女性にした訳ではなかったのですか?」
そういや、キョウちゃんを女にしたあの時はイリスが一緒だったな。
「あれは歪みを正しただけだ。
帰ったのも、キョウちゃん本人が強く望み、さらには元の世界の誰かと繋がっていないと無理だ。
……元々、異世界勇者のほぼ全てがその世界から逃げたい願望によって、こっちの召喚に引っかかる訳だからな。
それでもキョウちゃんについては、元の世界を
まっ、だからだろうな。
異世界転移で帰還した勇者なんてのは、ほんのマレなんだよ。
キョウちゃんも帰れなかったらそのまま俺の女にしたさ。
S級美女だしな」
「マレ……ですか?」
俺はため息を吐く。
「異世界転移なんて、どうやったら出来ると思う?
どの世界のなんであるかは、ともかく。
一つの事象を法則を無視して飛ばす、なぁんてことは本来、不可能だ。
それを無理矢理行うから邪気が一緒に入り込んだりもした訳だが、無理矢理行うにも初めから世界から歪んでないと引き抜けない。
そして、肉体ごとなんてさらに無理だ。
だから魂のみが移転する」
「歪み、ですか?」
質問ばかりだな。
まあ、仕方ないことだ。
「この世界の過去の異世界勇者は、多かれ少なかれ歪んでいた。
多くが性格破綻者、巨大な力に酔うもの、常識という物の欠如。
もしくは、獣の中で育てられ人としての認識がない、とかな。
キョウちゃんはそのいずれでもなかった。
恐らく千年前と召喚の方法が少し違っていたのだろう。
だが、それでも歪みがない訳ではなかった。
最強になりたい虚栄心と……」
「……性の不一致、ですか」
イリスが言葉を引き継ぐ。
俺はそれに肩をすくめる。
「本来、何が正しいかまでは流石に俺も分からない。
分からないが、せめて魂の歪みだけは修正した。
まあ、元の世界に帰れたということは、あながち間違いでもなかったってこった。
虚栄心についても……エルフ女が良い師匠だったんだろうな」
「よく女だと分かりましたね?」
ふん、と俺は鼻を鳴らす。
俺の嗅覚をバカにするなよ?
S級美女は匂いでわかる。
分かりすぎて、男の娘に接吻する衝撃的なミスもあった訳だが。
心から女なら俺のS級美女レーダーが反応してしまう!
そんな俺を見て、イリスはため息一つ。
「そうですね。もしも……私たちとの出会いから見ている人が居たら、詐欺だと言うかもしれませんね。
いいえ?
もしかすると、『そうだと思った』と言うかもしれませんね」
ふん! それなら上々だ。
詐欺をそんなに最初から疑えるなら、詐欺にもかからないことだろうよ!
「いずれにせよ、私は……、いえ、私たちは幸せです」
「……勝手に幸せになってろ」
ほんと、詐欺みたいなお人ですね、とイリスはクスクス笑う。
「うるせ。ベッドで懲らしめてやる」
「ええ、喜んで」
そこで俺は今更ながら、『ある事』に気付いて足をぴたっと止める。
「あ、あれ……?
もしかして、俺、本当に強いと思われて……る?」
迷いもなくイリスは頷く。
「ええ。世界最強かと」
俺は必死に首を横に振る。
「ないよ? ないからね?
詐欺に掛けれるところは詐欺したけど、他は全部、ただの偶然だからね?
それを口で
これは本当に、本当なんだ、よ……?」
「さあ? どうでしょうか?」
イリスはたおやかに、ふふっと笑う。
「逃げていい?」
「ふふふ、もちろんダメですよ?
貴方様はこれから世界最強にして大国の王として君臨しますから」
お、お願い! 見逃してぇぇえええ!!!
「ふふふ、もう世界規模で追跡出来ますので逃げてもす〜ぐ捕まえますので、逃げないで下さいね?
あ・る・じ・様」
「い、いやだぁぁあああああああ!!!」
この日、皇帝の元に世界最強No.0が姿を現したと言うが、その真実は世界の誰も知ることはない。
最後に残った世界の叡智の塔。
新たなナンバーズの名を刻んだその塔に、誰もが認めた世界最強ランクNo.0の名が刻まれることは、ない。
同時にその日、人々はゲシュタルト連邦王国の方に流れる星を見た。
それはまるで世界を駆け抜けた一つの伝説のように。
世界の人々は世界の叡智の塔に、決して刻まれることのないその名を心に刻む。
その名は……。
世界最強ランクNo.0彡☆
同じ日の夜、何処かの詐欺師の大絶叫が響いたが、それはやはり世界最強No.0とはなんら関係が……ない。
完
「ところであるじ様?
最後までNo.0とはお認めにならないのですか?」
「絶対に、絶対に違う!!!!
俺は認めない!
認めるものかぁぁああああ!!!!」
今度こそ。
完
これも詐欺だけど。
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