最終話『全ては詐欺である』
「一つ分からぬことがある。
ナンバーズで狙われた者、狙われなかった者、この差はなんだ?」
皇帝は杯を口にせず、目の前の男に尋ねる。
目の前の男は反対に、
「コルランにあった世界の叡智の塔で、認識を
世界の叡智の塔のナンバーズ認識は魔力だ。
強者、それも……より洗練された魔力を持つ者を認識する。
それを世界の叡智の塔の機能を使い逆転させ、世界に誤認させた。
魔王も同じ理屈で強者を見分けていたのだろうな。
そのおかげで魔王のターゲットから外すことが出来た。
あと誤認させるためにも、俺が実際にその人物の魔力を一度でも目で見て、質を見極めてないと誤認させることが出来なかった。
それだけだ」
男は何でもないように口にする。
皇帝は震えながらワインを口にする。
味は……分からない。
この男はしれっと、とんでもないことを口にした。
解明し切れていない世界の叡智の塔の操作し、圧倒的強者であるはずの世界ランクナンバーズを助けたことを。
そんな圧倒的強者を
「話を続けていいかな?」
皇帝は頷く。
頷くしか出来なかった。
「その後、世界は無事に魔王を討伐出来た。
途中、ある人物にとっては予想外な事もあったが、結果としては最上のものとなった。
ここである人物はこの『チャンス』を利用することにした。
世界に残った邪気を利用し、世界を再び戦乱にして覇を唱えようと。
ある人物は世界の叡智の塔を使い邪神の名を騙り、世界の人々を詐欺に掛けた。
もちろんオーバーテクノロジーである世界の叡智の塔は、分からないことだらけ。
また魔王が復活するようなことがあっては、今後もどうなるか分からないと考えた。
……ああ、安心して欲しい。
魔王城跡に聖剣と対になる魔剣を撃ち込む事で、魔王は復活しなくなる。
聖剣で魔王の肉体を滅ぼし、魔剣でその存在を消し去る。
元々、聖剣と魔剣はそのようにしてセットとして使う物だ。
それを知らないある人物は、世界の叡智の塔が魔王復活の鍵になっているのではないかと誤解していたからな。
だから邪気を暴走させて、自国の世界の叡智の塔をいち早く破壊させた。
後は各地の主要都市にある世界の叡智の塔により、各国が自滅するのを待つだけで良かった。
何も手を下す必要はない。
それどころかホワイトナイトを気取るだけで、世界に自身の影響力を、これ以上ないぐらい広めることが出来るのだから。
……そして、その通りとなった。
コルランだけは持ち堪えたが、他の2大国、ゲシュタルト連邦王国とエストリア王国には大きな被害が出た。
特にエストリア王国はレイド皇国のことが無くとも、帝国の仇敵とも呼べる存在。
そのエストリア王国に至っては解体されたも同然であるし、帝国もそれに多大な貢献をしている。
土地の譲渡も容易い。
しかも、だ。
そのエストリア国を治めることになるのは、箸にも棒にもかからないチンケな詐欺師。
娘も嫁ぐ事で縁戚となる。
後見として帝国がその全てを手にする事も可能。
全てがある人物にとって理想的とも呼べる結果だ」
そこで
皇帝は落ち着くように息を吐く。
暫しの沈黙。
「……それで? 貴殿は何を言いたい?
それを街に降りて言いふらしでもするのか?」
誰がそんな骨董無稽な話を信じよう?
皇帝は強がりでしかないが、そう口にしようとした。
だが、男は表情も変えずに言った。
「別に? 何も?」
「何?」
ならば何故、わざわざ男はそれを言いに来たのか?
男はフッと笑う。
「ただ、何だな……。
ここまで来たんだ。
もう良いだろう?
これ以上戦乱を望むというなら……」
『消えてもらおうと思ってな』
絶望的なまでの死の予感が皇帝を襲う。
男は初めから皇帝に認識させることなく、皇帝を消すことが可能だった、そうはっきりと気付かされた。
十分にそれを認識した瞬間、死の予感から解かれ、ハッとして皇帝が顔を上げると……目の前には誰も居なかった。
「結局、貴様はなんなのだ……」
皇帝は呟きながら、世界の誰よりも実感する以外他なかった。
世界最強と呼ばれる存在がいる。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。
曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。
曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
だが、その正体は一切不明。
男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵様だとか、転生者とか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、数え上げたらキリがない。
それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。
それが、世界最強ランクNo.0
それは、本当に実在するのだと。
夜空に流れ星のような光が、ゲシュタルト連邦王国の方に向けて飛んで行く。
それと同時に風に乗って、皇帝の耳にある言葉が届く。
『全ては詐欺である』と。
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