第165話ゴンザレスと年貢の納め時⑤

「エ、エルフって人と子供出来るんだ……?」

「私も意外だったけどね、出来ちゃったからそうなんでしょ」

 エルフ女はいつも通りあっけらかんと。


「あ、ご主人様。私も妊娠致しましたので」

「ゴンザレス様、私も……」

 エルフ女の宣告に続いて、メリッサとナユタも妊娠宣言。


 ハハハ、急に、だね……?


「邪神事件の間、あんたすっかり見境い無くなってたじゃない。

 あんなにいつもなら、そりゃあ出来もするわよ」


 そして、ここまで俺の死亡フラグをぶち込まれたが、流石はメリッサ、ここでさらに超特大の爆弾を投げた。


「あと、カレン姫様もご懐妊されました。

 お子の名前をお願いします」


「だ……誰の?」


 つい先程までの慈愛の微笑みから一転、絶対零度の怖いジト目で。


「もちろん、ご主人様の」


 そりゃ、そうだ。

 他に居ないよね。


 ハハハ(゚∀゚)


 嘘だぁぁああああああああ!!!!!!!



「あ、ご主人様。そんな訳で、早急に国を取って下さい。

 幸いシュナ様及びゲシュタルト首脳部とは話はついておりますので」


 は、話?


「ゲシュタルト連邦王国第3王女の王配として新王となって頂きます。


 ゲフタル代表シュバイン殿の賛同並びに、グリノアもゲシュタルトとゲフタルからの圧力により、賛同しております。


 帝国並びにコルランからも、お祝いの品がカストロ公爵領に届いているそうです。


 あと、これはもう少し落ち着いてからになりますが、エストリア国セレン王女ともご結婚して頂きます。

 これにてエストリアとゲシュタルト連邦王国を合わせた大国の王となります」


 そんなんで王になって良いの?

 何故か各国の首脳部が率先して段取りしてくれているそうで……。


 ははは……


 どうしてこうなった。







 その日、邪神の野望は絶たれ世界は救われた。

 世界を救った者の名は世界最強ランクNo.0。

 その名が世界の叡智の塔に刻まれることは終ぞなかった。


 だが、人々は忘れない。

 世界最強が居たことを。


 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0
















 帝国皇女カレン・シュトナイダーがカストロ公爵兼ゲシュタルト連邦王国王兼エストリア王というよく分からない肩書きの男に嫁ぐ事が、正式に決まった夜。


 皇帝は1人、テラスにてワインを口にしていた。

 ふと気付くと……そこに居て、ワインを自らの杯に注ぐ。

「良い夜、ってところかな」


 絶対的な警備の夜の王宮の最も警戒の厳しいその場所に……いつの間にか。


 皇帝はその男を知っていた。

 世界最強No.0……の名を騙った詐欺師。


「おっとお静かに。

 まあ、せっかくの夜だ。

 静かに酒を飲もう、あの日と同じように」


 男は杯を掲げ皇帝にニヤリと笑う。

 皇帝は、震える手で自らの杯にワインを注ぐ。


「世界の叡智の塔は

 これからもナンバーズを刻むだろうが、それだけだ。

 もう人の欲望を刺激することもない。

 昔話に付き合ってくれますかな、皇帝陛下?」


「……聞こう」


 皇帝は気付かされた。

 聞くしかないのだと。


「1000年前、魔王大戦と呼ばれる戦いがあった。

 それは当初こそ魔王と勇者の戦いであった。

 だが、それは禁忌である勇者召喚により、世界にあらゆる歪みをもたらした。

 聖剣という名の『ミサイル』という存在。

 剣聖の担い手という『ミサイル』制御装置。

 勇者召喚の次元の歪みからもたらされる邪神、この場合は邪気と呼ぶべき人の心へ影響されるエネルギーの存在。

 ……そして、来るべき魔王復活の時、そのエネルギーを制御し操る装置を『世界の叡智の塔』と呼んだ。


 1000年前の善神と邪神の戦いは、その時の魔王と勇者の戦いのことを宗教風に纏めたものだ。

 同時にレイド皇国はその『世界の叡智の塔』を監視する役目として建国された。

 世界が魔王により滅びを迎えないように。


 すまないね、少し再確認したくてね?」


 男はクイっと杯のワインを空け、手酌で注ぎ……皇帝にも勧める。


「……構わんよ。聞かせてくれたまえ」

 出来るだけ平静を装いながら、皇帝は杯にワインを注がれる。


 赤い血のようなワインを。


「世界の叡智の塔には役目があった。

 誰かが禁忌である勇者召喚を行った場合、邪気による世界の歪みを正す役割が。

 塔は勇者召喚が行われた場合、世界に現れる。

 そのもたらされる邪気を制御するために。


 だが、邪気を制御出来るということはつまり、世界の叡智の塔を使えば邪気を使い、人の精神にも影響を及ぼすことが可能でもあるということ。


 その事を知っていたある人物は、世界の叡智の塔の存在について、世界の人々から誤認させた。

 ナンバーズを刻む以外、であると。

 世界の覇権を手中に収めたい、そのある人物によって。


 その時はただそれだけだった。

 やがて解明されれば、有効利用する方法も分かるだろうと、ある人物は考えた。

 事実、邪気を操る方法は少しずつではあるが研究が進んでいたから。


 そんな時、ある人物にとっても予想外なことが起きた。

 魔王の復活だった。


 当初、世界の叡智の塔は正しくその機能を起動させた。


 魔王復活を即座に世界の人々が知る事で、人々は『魔王覚醒前』に行動することが出来たのだ。


 だが、覚醒前でありながらやはり魔王は脅威であった。


 魔王は覚醒前でありながら、魔獣の不意打ちによりナンバーズ……つまり勇者となり得る存在を、片っ端から始末すべく動き出した。


 本能的に強者を狙いに行ったのだろう。

 かつての勇者召喚が、何故行われたのかそこにある。


 認識の違う世界の存在であるが故に、異世界勇者だけは魔王に、近付くことが出来る。


 まあ、魔王出現の度に勇者召喚を行ったせいで、皮肉ながら次元からの邪気が流れ込む要因となったわけだが。


 ある人物はその時ばかりは焦った。

 世界を征服するにしても、その前に世界を滅ぼされては堪らない。


 大軍も動員し帝国を守ろうとした。

 ……世界ランクNo.2カレン姫を犠牲にしてでも。


 まあ過程はどうあれ、結果は帝国もNo.2カレン姫も無事に救われた」

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