第162話ゴンザレスと年貢の納め時②
「分かんないと思ってた?
そりゃあ、あんた、アタシらのこと馬鹿にし過ぎよ?
アタシらS級なんでしょ?」
な、なんのことでござりましょう……!?
ソファーに座り直し足を組んで、こちらを見るエルフ女はS級美女の名に相応しい美しさ。
だが俺には死刑執行を言い渡す処刑人のように見えてしまう。
「密林の中の結界……、偶然で行ける場所じゃないのよねぇ〜」
いえ……偶然です。
砂漠を迂回しようと思って……。
俺の言い訳を受けて半目で俺を見返すエルフ女。
美女が足組んで半目で睨むと色気がすげぇ。
でも、追い詰められてる感もすげぇ。
ゴクリんこと俺の喉が鳴る。
「……ふ〜ん。
アタシさぁ、魔王対策の装置みたいなもんで、1000年間をいつか来る勇者を鍛えて、自爆するだけの役目しかなくて、それを疑問に思うことさえなかったのよ。
元々、そういう存在なんでしょうね。
それをあんたが覆した。
契約っていう方法で」
それはエルフ女が詐欺に掛かっただけです。
ご馳走様です。
「……ふ〜ん、まあ良いけど。
楽しかったわ。
1000年で初めて自分が生きてることを知ったわ。
だから役目の呪縛が剥がれてもこの世界なら、あんたが居る世界を守るためなら、魔王と共に消し飛んでも良いかなと思ったわ。
……まあ、それもあんたに覆されたけどぉ〜?」
それも詐欺にかけただけですが?
「ついでの話。
この世界は1000年前に出現した魔王のせいで滅びかけた。
そのため、やがて復活する魔王に備えて人々は聖剣装置を作り、そのナビゲーターとしてアタシを作成した。
エルフなんて種族はこの世にアタシ1人。
アタシは作られた存在って訳。
だからアタシは邪神なんて知らないし、世界の叡智の塔もどうしたら良いか知らない。
知ってたでしょ?
今まで、聞きもしなかったし」
全く興味がなかっただけです。
「……ふーん、ま、最後までそう言いはるなら良いわよ?
クズに惚れた馬鹿な女って事で我慢しといたげる。
でも今後、アタシたちをS級美女と言うのやめてよね?
……本物の見る目のある良い女に失礼だからね?」
俺にウィンクを飛ばしエルフ女は立ち上がる。
それは何処からどうみても良い女のそれだ。
「あっ……、あと、あんたさぁ〜。
アタシらを助ける時、目付きがね……」
目付き?
目付きヤバいか?
エロい目はしているのは自信ある。
その俺を見てエルフ女はニンマリと笑う。
「気付いてないみたいね?
目付きが、ね。
すんごく優しいの。
アタシら全員、あんたのその目にやられてんのよ?
ホイホイしたくなかったら気をつけな!」
バイバイと手を振ってエルフ女は部屋を出て行った。
呆然としていると、ナユタが食事を持って来てくれた。
「どうされたのです? ゴンザレス様。
エルフィーナ先生が何やら嬉しそうにされておりましたが」
食事を並べてくれるナユタ。
なんだか、お屋敷でお世話されてる偉い人な気分。
「いや、特大の死亡フラグがね……」
「死亡フラグ、ですか?」
お盆を胸に抱え小首を傾げるナユタ。
この娘も可愛くなったなぁ〜。
立派なS級美女と言って良いレベル。
つまりとんでもなく強くなってる。
エルフ女すげぇー。
「いやさぁ、俺って詐欺師じゃん?
すげぇ買い被られて命が流石に危ないかなぁ〜っと」
ナユタは強い意志を込めた綺麗な瞳で俺を見つめ返す。
「ゴンザレス様は私がお守りします。
いえ……、私だけではなく、エルフィーナ先生も、ここにはいらっしゃりませんがイリス様も、ゴンザレス様のことを命賭けでお守りする所存でしょう」
ああ、うん、きっとそんな気がする。
俺への献身ぶりがすげぇ〜。
お、俺、ほんと……色々やり過ぎちゃったんだなぁ……ハハハ。
「誤解、なんだけどね……」
俺はつい詐欺師にあるまじき一言を言ってしまった。
辛うじて詐欺を誤解と言い替えたが、言っていることは罪の自白!
ゴンザレス、ついに逮捕!?
ナユタの父である棟梁に悪いと思ってしまったのか、最近、詐欺らしい詐欺をしていないのでヤキが回ったか。
だがナユタは怒りもせず、クスリと笑う。
「……あの日、里が終わりを迎えた日。
ダムからゴンザレス様は里の様子が見えたのではありませんか?
見えたのなら迫る魔獣の大群が里を襲う様子……見えぬはずはないかと。
まあ……、それが本当に誤解だったとしても。
あの後、山を降りて私たちを実にタイミング良くイリス様たちが迎え入れてくれました。
毛布など食事など実に都合良くお持ちで。
カストロ公爵様からご連絡頂いたそうですよ?
身に覚えはございませんか? お館様」
うぐっと息を飲んでしまった俺。
否定しても肯定しても、俺的に苦しい立場だ。
「あの日から、……いいえ、あの日より前からゴンザレス様をお慕いしております。
もしもゴンザレス様が真に自身を詐欺師と仰るのならば、最後まで騙されとうございます。
私はそれで十分にございます」
あうあう、となんとも言えず戸惑う俺に、ナユタはまたクスリと笑みを見せて。
これ以上、お調べもののお邪魔をしてはいけませんね、と立ち上がり部屋を出て行った。
エルフ女だけではなく、ナユタからも特大の死亡フラグをぶち込まれた俺は、心の中で叫ばずにはいられなかった。
な、なんでこうなったんだぁぁあああ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます