第157話ゴンザレスVS世界最強No.0⑧

 準備を終え、決戦の地へ移動。

 ヒャッハー!!

 無理無理!


 ゲシュタルト連邦王国の戦争の流儀で、決戦の前に名乗りを上げるのだそうで。


 眼下に見える軍は、人人人。


 ヒャッハー!(2回目) 大軍だー!


「そして、何故俺が中央?」

「総司令官なので、当然でしょ?」

 妖艶娘も付いてきているからお前が代表でいいんじゃないの?

 結構、お強いよね?


 それといつから俺が総司令官になった?


 指揮については1日1金貨で契約したけど、総司令官?


「指揮するんだから総司令官に決まっております」

 傍にはマッチョセバスチャン。


 逃げる時になったら、真っ直ぐあの大軍が俺を追ってくるってことよね?


 死ぬじゃん?


 妖艶娘は片目をウィンク、ピンクのむしゃぶりつきたくなる舌をチロッと出して、頑張れ、と親指を立ててきた。


 ちっくしょう……。

 里長にならなくて良くなったら、即ベッドに連れ込むからなぁ!

 覚えてやがれ!


 こちらは300、相手は万。

 あ〜、やだやだ。


 味方のマッチョ集団が緊張で固くなってるから、柄じゃ無いが声を掛ける。

 こいつらにNo.0をやっつけて貰わないと俺が逃げ切れない。


「大丈夫。

 世界最強と言ったところで人だ。

 どれほど強かろうとも限界があるから人なんだ。

 訓練通りの手順で進めればまず間違いない」


 No.0がどれほどの強さかは、本当のところ分からない。

 確実に落としたければ、万の兵が必要かもしれない。


 なんせ相手はNo.1より強いわけだから。

 想定上、No.1と同程度の強さで見込んだ。

 それを大きく超えるならお手上げだ。


 即座に見捨てて逃げるか、土下座だ。

 多分、土下座では許してくれないだろうから逃げる方かな。


 シュバインたちがこっちに付いてくれれば、2倍ぐらいの強さでもギリギリなんとか対抗できたんだが。


 見学するとかよく分からない連絡を寄越しやがった。


 負けたら匿えよ!


 エルフ女たちも姿が見えないし、ゲフタルには行かなかったのか?

 居れば心強かったんだが。

 誰か俺を守って?


 それとも第3王女と一緒に王都に居るのかもな。


 向こうの軍も準備が出来たらしくラッパや太鼓の音が聞こえる。

 祭り?


 ゲシュタルト連邦王国の戦争とはこんなものらしい。

 付き合ってらんねぇ。


 代表者がまず名乗りを上げる。

 それから、ウンタラカンタラ宣言して突撃するらしい。


 それでこちらを根絶やしにする気らしい。


 もう、はぁそうですかとしか言えない。

 馬を引っ張りながら代表者として前に出る。


 作戦はこうだ。


 No.0を挑発する。

 逃げる。

 山に引き摺り込む。

 罠に掛ける。

 疲れさせる。

 さらに挑発。引き摺り込む。

 罠に掛ける。

 罠に掛けてトドメを刺す。


 罠ばかりじゃん!

 そんなふうに言われかねないが、当たり前だ。

 化け物ナンバーズを超える化け物なんて、まともに相手してられるか!

 300の兵なんて瞬殺だ、瞬殺!


 噂通りの千里眼ならば、見破られる可能性もある。

 いや、すでに見破られている可能性もある。

 そしたら別の手で引きづり込まないといけない。

 もしくは見破られても、追いかけたくなるような挑発をしなければならない。


 そんな訳で、詐欺師なので口が上手いでしょ、と代表者1人としてNo.0の前に出る。


 挑発したら速攻で逃げるために馬を用意。

 挑発後の反撃が怖いからだ。


 逃走馬のトウソウくん。

 俺の運命をキミに託す!


 相手は世界最強なので数十メートルぐらい一足飛びで来そうだから、そこが問題。


 一応、足掛け用のロープにまきびしに油に唐辛子に砂に、切り札にちょっと危険な薬品も持って来ている。


 それでも駄目そうなら、マーカー投げてスイッチだな。

 自爆攻撃なので絶対に使わないけど。

 これを見せて俺の命だけは助けてもらえるように交渉する。


 No.0ならスイッチの存在ぐらい知ってるはず! 知っててくれ!!


 もう少し罠を用意したかったが時間が足りなかった。


「ゴンちゃん。よろしくね」

 妖艶娘は緊張をにじませた顔で、真っ直ぐ前を見る。


 俺は頷く。

 任せろとは言わない。

 いざとなったら逃げるしか考えていない。


 向こうの見渡す限りの大軍が少しざわついている。

 俺たちを指差しながら、何か言い合っているが何を話しているかは聞こえない。


 口の動きから、世界最強No.0とか言ってる。

 自分たちの上司の世界最強No.0を褒め称えているのかな?


 ……いや、今は気にするべきではない。


 互いの距離は30メートルといったところか。

 近いな……。

 逃げれるか!?


 ゲシュタルト側が出て来た代表者は3人。

 中央がゲシュタルト軍総指揮官のなんとか伯爵の息子だろう、面影がある。

 なんとか伯爵の息子から1歩、いや3歩下がって、馬を引いている明らかな従者な小太り。

 従者っぽいのに、何処か偉そう。


 そして伯爵息子の隣に居る銀髪のイケメンが……。


 こいつが世界最強No.0!


 腕組みをしてニヤニヤしている。

 ちぃ! このクソイケメンがぁ!

 ニヤニヤしてるくせにイケメンとは何事だ!


 自然と睨みつけてしまう。

 こいつさえ! こいつさえ、もっと早く表に出て来ていれば!

 俺がこんなキツい思いもせずに、今も悠々自適な詐欺師生活をしていられただろうに!!


 ……ま、まあ、お陰でS級美女と良い思い出来たのは、ちょっと感謝しなくもなくてよ?

 ちょっと贅沢も出来たし。


 でも、あれ? 俺がカストロ公爵なのは変わらない?

 いやいや、最初にNo.0の誤解が無ければ、あんな誤解も無かった訳で、いやいや……。


 おっと、気を取り直して。


 中央の伯爵息子がなんか言い出した。

 残念だが、ここでウンタラカンタラ、次に銀髪イケメンが俺にかかればウンタラカンタラ。


 そんな中、俺は特に緊張で手が震えたりすることもなく、懐から拳サイズの石を取り出す。


 とっても手のひらにフィットする、いーい感じの石。

 これを投げつけてNo.0を挑発する。


 引っかかれよ?


 今も機嫌良く高笑いする銀髪イケメンに向けて石を投げる。

 真っ直ぐ吸い込まれるように石は銀髪イケメンの眉間に。


 ゴッと人が出してはいけない音がして、高笑いの表情のまま、銀髪イケメンは後ろに倒れた。


 世界最強No.0が、倒れた。


 ……あれ?

 これ、どうしよう?


 万の人の沈黙がとても痛い。

 ひゅるるーと悲しげな風の音だけが俺の耳に届く。

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