第153話ゴンザレスVS世界最強No.0④

「逃げ出したいのは山々なんだけど、そういう訳にもいかないのよねぇ〜」

 妖艶残念娘ことミランダはため息を吐きながら、そう言った。


 なんでも星見の里は別名、星守りの里と言って、古来から世界の守護を司っている聖地であるとか。

 あと邪教認定だから、ここから逃げてもずっと迫害の未来しかないのだ。


 ふ〜ん。


 グリノア天文と言って1000年前などは、日にちの基準にもなったそうな。

 それにはちょっと興味がある。


 古文書などあったら是非読ませて頂きたい。

「あるよ?

 でも里を守らないと読んでいる時間ないと思うよ?」


 ぐぬぬ!?

 本を人質に取るとは卑劣なやつだ!


「それにさ、特に古文書なんて向こうからしたら邪教の教えそのものだから、真っ先に狙われると思うよ?」


 ムムム……。


 どんな本なのか案内して貰った。

 日の当たらない、さりとて湿気に気を付けてよく管理されてはいるが、やはりぼろぼろの本たちである。


 気になる本だけかっぱらったとしても、選別するのも持ち運ぶことも難しそうだ。


 読みたければ、守れと。


「……仕方ない。

 報酬に追加だ。

 里を守れたら好きに読ませてもらう」


「もちろん、いいよー。

 守れなかったらどうせ全部燃やされるんだし、あげるよ」


 そんな軽くで良いのか?

 まあ、確かに守り切れなければどうにもならないし、守り切れる公算も少ない。

 なんと言っても相手は世界最強だ。


「多くは期待するなよ?」

「もちろん、残って考えてくれるだけ上出来だよ!

 戦える人はいるんだけど、軍事的なことなんて誰も分かってないからね!」


 ニカッと笑う。

 妖艶な容姿と違って、随分、天真爛漫てんしんらんまんな娘だ。

 酒場での雰囲気はどうした?


「容姿がこんなだからね。

 母様から雰囲気を作るように教えられてるんだ」


 ほほー!

 お母上には是非お会いしたいですな。


「残念ながら、随分前に流行病で星に還って行ったよ」


 残念だ。

 ベッドで是非お相手して欲しかった……。


「人の母上を狙わないで欲しいけど。

 何年かしたら中身も年も妙齢の妖艶美女になれるから、そしたら考えても良いよ?」


 少し寂しそうに笑う。

 それはこのままでは叶わない約束だからだ。


「本当だな? 約束だぞ?」

「考えるだけね」


 妖艶娘はそう言って小さく笑う。

 どれほどヤバい状況か、本当は理解してるんだろうな。


「里の人には最期まで希望を、ね。

 同じ終わるにしてもさ……」


 そういうのは好きではないな。

 例えどのような絶望であれ生きてこそ、だ。


「指示には従ってもらう。

 少なくとも俺は本を読むことを諦めては居ないからな」


 妖艶娘は泣き笑いの表情をして俺の顔を見つめる。


「ほんとだぁ……。

 自分で詰んでると言っておきながら本気で諦めてない。

 なんとか出来るの?」


「さあな。諦めるのはとりあえず死んでからにしてくれるか?」


 その言葉で妖艶娘は了解、と嬉しそうに笑った。


 里の周りを案内してもらいながら、妖艶娘とスキンヘッドの3人で話をしつつ、いくつか前準備について話をする。


 防衛するにしても援軍がないなら守り切れるものではない。

 粘れば状況が変わるかもしれない、そう思わなければやってられない。

 そのためには周りへのアプローチが大事だ。


 よってグリノアの本隊とゲフタルへ手紙を送る。


「そもそも、なんでゲシュタルトはそんな野心を持ち出したんだ?

 あそこのお姫様そんな感じに見えなかったぞ?」


「会ったことあるの?」

 そんな風に聞かれて少し躊躇ったが、あるとだけ答えた。


「う〜ん、私もそんなに詳しくないけど。

 聞いた話では、お姫様と婚約したNo.0の意思だって。

 あと司令官に前任者の息子が就任してその人がイケイケらしいよ?」


 前任者?

 俺の息子か!


 そんな訳ない。

 あの魔獣に名乗りを挙げてた、なんとか伯爵の息子か。

 馬鹿そうだな、見たことないけど。


 父親は魔獣の前で名乗りをあげて散っていったし、きっと息子も名乗りをあげるタイプだろう。

 血は争えぬのだ。


「とりあえず地形を利用するのが大事だな。

 戦闘要員を集めてくれ」


 分かりました、とスキンヘッドは走って行く。

 ちなみにスキンヘッドは妖艶娘の叔父に当たるそうだ。

 全く似てない。


「どうするつもり?」

「少数が大多数にぶつかっても消しとばされるだけだ。

 だったら取れる手なんて一つしかない。

 頭を潰す」

「お姫様暗殺するの?」


 首を横に振る。

 なんで美女を殺さねばならんのだ、言うことが野蛮ね。

 わたくしのようにお上品になりなさい。


「あんな小娘を暗殺しても仕方ない。

 それに流石に暗殺は警戒しているだろう。


 そもそも、こちらには王宮での協力者のツテがない。

 だったら戦場で討ち取るしかない」


「討ち取るって誰を?」


 そりゃあ、決まってる。


「世界最強No.0だよ」

 俺のあっさりとした言葉に、妖艶娘は驚愕の顔をする。


 そして。


「そんなの無理だぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!」

 涙目で叫んだ。


 諦めるの早ぇえよ!

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