第149話ゴンザレスと海③
「まさか、本当にあそこで立ち去るとは思わなかったわ」
次の日の朝そう言いながら、気怠げにエルフ女は俺の隣でベッドから身体を起こす。
「それは懇切丁寧に説明したろ?
世の中、ナンバーズだろうと拘束する魔道具なんてあるんだ。
世間知らずのエルフ女なんてどうとでも出来るもんだ」
海岸沿いを歩き小さな港町で宿を取り、ご休憩。
なお、じいさんと話をし数時間後には、早速盗賊集団の襲撃があったが、エルフ女が完膚なきまでにあっさりと撃退した。
100%来ると見込んでいたので、しっかりと罠に掛けさせてもらった。
「ああいう小さな町や村では世間知らずの他所の人を、そのまま売るルートがあったりします。
ゴンザレス様のおっしゃる通りかと」
一緒のベッドでゴロゴロしていたはずのナユタは既に服を隙なく着て、背筋をビシッとし椅子に腰掛けそう付け加える。
流石に諜報に関わっていただけによく知っている。
この娘は俺にいつの間にか騙されてる割にはしっかりしてるわね?
いや、単にエルフ女が迂闊なだけだろう。
それにあの一帯自体がそういう縄張りなのは間違いない。
じいさん連中が似たり寄ったりの顔をしていたのも、結局のところ血が近いのだ。
「それにしてもその魔道具ってのは気になるわね。
邪教の教祖が使ってたのよね?」
「伝承系の本の神話に出てくるようなものと一緒だろ。
俺からすれば聖剣も同じ感じだがな」
「それよ!
あんたスイッチ持ってるでしょ?」
あ〜、そういや、エルフ女はそれの専門家だったなぁ。
スイッチとマーカーを見せる。
「……本物ね。
恐らく失われたとされている、もう一つの魔剣ね。
これがあるということは、何処かに魔剣は存在しているということよ」
そりゃあ、マーカーは目標と一緒に消し飛ぶもんだしなぁ。
「運び屋としては何処に持っていく予定だったのよ?」
何処って……。
「グローリー宰相に決まってんだろ」
正確には、そこに至るルート手前だがね。
こんなのはルートを辿られないように、中継点がいくつもあるもんだからな。
最終的に『偶然』グローリー宰相が手に入れる筋書きだろうな。
「呆れた。
そこまで読んでてなんであんた単独行動してんの?
結構、ヤバい案件じゃない」
そりゃあ、ヤバいから逃げたんだけど?
対抗馬の公爵なんて、グローリー宰相からしたら真っ先に狙いに来るに決まっている。
暗殺は怖いんだぞ!
世界最強? 何それ、美味しいのという感じだ。
俺に英雄願望はない!
「その割に英雄まっしぐらじゃないの?」
主にお前らのせいだろ!?
「ベック伯爵領で単独、革命を成功させておいて何を言う」
「お見事な手腕でした」
エルフ女は呆れ顔、ナユタは感服した顔で。
ぐぬぬ……。
「……偶然だ」
「偶然で革命が成功するなら、世の中革命だらけよ?」
成功したんだから仕方ない。
関わる気なんかなかったけど、ナユタに引っ掛かったから仕方がないのだ。
男は美女で身を滅ぼすものだ。
だから美女怖い。
「……どう考えてもあんたが簡単なだけでしょ?」
うるさいやい!
港街で船が出ていたので俺たちはあっさりそれに乗った。
この日、この地域一帯を根城にしていたサーカナ団が壊滅した。
なんでも、かなりの美女を連れた男に叩き潰されたそうだ。
サーカナ団は長い間、この地域一帯で無法を働き旅人たちを食い物にしてきた。
特に中心となっていたのは、白い魔獣と呼ばれた3人の老獪なじいさん。
そのある男はその3人に漏れなく接触し、最後に極上の女2人を連れて、白い魔獣とサーカナ団を誘い出した。
そして完膚なきまでに叩き潰した。
それにより海に出ることも許されず貧困に喘いでいた町は救われた。
しかもそのタイミングに合わせるかのように、すぐそばのベック伯爵領がカストロ公爵に吸収され、海洋の拠点としてこれらの町が活気を取り戻していくこととなった。
この鮮やかな手並みに、人々はある人物を思い浮かべずにいられなかった。
世界最強ランクNo.0。
その名が世界の叡智の塔に刻まれることは、今もない。
なお、この噂を聞いた1人の詐欺師。
「なんでだぁあああ!!!」
それに対し、連れのエルフが。
「やっぱり、あんた仕掛けたわね……?」
「違うぞ!
断じて違うからなぁぁああ!!」
と言ったとか言わないとか。
それはNo.0の伝説とは全く関係がない話であろう。
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