第148話ゴンザレスと海②
「んで、海出るんでしょ?
なんでまだウロウロしてんの?」
「老人がな、繰り返し出て来て舟は出せないって言うから、次に行くところ」
ねえ? そろそろ、首根っこ離してくんない?
「え? 詐欺しなくていいの?」
いや、なんでだよ!?
引っ掛ける対象の前で詐欺しますと言ってどうすんだよ。
「大体、エルフ女の前で詐欺したことないだろ?」
「なかったっけ?」
なかったと思うけど、自信はないな。
あっ、そもそもこのエルフ女自体詐欺で引っ掛けて連れて来たんだった。
はっはっは、詐欺ってるな。
エルフ女本人は忘れているようだ。
そのまま忘れさせておこう!
「あんた息を吐くように人を引っ掛けるからなぁ……。
ほら、ここにも犠牲者が」
ナユタの頭をナデナデするエルフ女。
ダム崩壊による里壊滅事故の犠牲者だけど詐欺った気はないんだがなぁ……。
「もうあんた、存在自体が詐欺だからいいじゃない。
詐欺師にこだわんなくても」
「失礼な!
俺は至って普通のチンケな詐欺師だ!」
大体、イリスに引っ掛かるまではせいぜい小銭稼ぐしか出来なかったし、美女と良い思いもしたことねぇよ。
だから、この現状が怖い!!!
「あ、あの〜。お2人とも……。」
なんだい? 心の癒しナユタ。
チェイミーといい、ナユタといい、A級からS級に登る途上の娘は中身が良いな。
A級だろうがS級だろうが俺からしたら高嶺の華なんだが。
ナユタが示す先には。
モリを手入れするじいさんが睨んでいる。
「用がないなら、とっととけぇれ!」
「そういえば、お爺さん。
舟はどこも出せないと言ってたけど、何があったの?」
「わ! 馬鹿! エルフ女!」
土地の厄介ごとには関わらない。
常識だぞ!?
エルフ女のツッコミが常識的なのでまた忘れてたが、この女、世間知らずだった。
基本的にその土地の厄介ごとに旅人が入りこむのは望ましくない。
その旅人がその土地の人に騙され餌食になるか、現状を掻き乱して皆が迷惑するか。
どれにしたところで誰も救われない。
冒険者が村の厄介ごとに関わるのは依頼という契約の元で行われなければならない。
そうでなければ、その冒険者そのものが村を荒らす無法者になり代わりかねないし、村人も金を浮かすためにありとあらゆる方法で冒険者に金を払わずに済むように企むのだ。
俺ならそれを利用して詐欺に掛けるがね。
今回はグリデンの財布から貰った金で懐が暖かい。
この爺さんを無理して詐欺に掛ける気もなかった。
1番の理由はどう見てもこの爺さんが貧乏そうだから。
儲からない。
「……ふん。よその者には関係ねぇ」
「よし、行こう、エルフ女。
じゃあな、じいさん! 邪魔したな!」
じいさんがそう言うや否や、エルフ女の腕を引っ掴んでさっさとその場を去ろうと。
「……だが、そこまで言うなら、話してやらんでもない」
「いいえ、結構です」
俺は首を横に振る。
じいさんは無視してスタスタ。
振り返り早く来いと手招きしやがる。
「ほれみろ!
あれ絶対厄介ごとだぞ!
エルフ女、あとでベッドで責任取れ!」
「あー、うん、ごめん。
とりあえず、気になるから行こう」
エルフ女は俺の腕をぐいぐいと引っ張る。
俺はズルズルと引かれるがまま。
好奇心旺盛だなぁ。
騙されるから好奇心に従うのは注意しろよ?
ナユタは特に何も言わずに静々ついてくる。
(ナユタ?
少しは自分の意見言った方が良いぞ?
エルフ女グイグイ来るから)
ナユタはちょっとビックリした顔をした後、少しだけモジモジした。
(トイレか!?)
(違います、ゴンザレス様にお声がけして頂いて嬉しかったのです)
ヤバい、なにこの可愛い生き物。
もういいじゃん、じいさん無視して3人で寝れる宿行こうぜ!
じいさんはそんな俺たちを不気味に観察している。
(どうすんだよ! エルフ女!
あれ、やっぱりヤバいじいさんだぞ?
お前みたいな世間知らずは、ちょっと口車に乗せられてベッドに運ばれるぞ!)
エルフ女はジト目。
(その手口使ったの、あんたでしょ?)
俺のことはいいんだよ。
気をつけるより、まずは関わらないようにしましょう。
こういうパターンは一方的に奪われるだけで得は必ず無いから。
「あれはもう何年前になるか……」
俺たちが声の届く範囲に来ると、じいさんは1人雰囲気を出しながら語りを始める。
少し距離があるのに話しだすから不気味である。
平和な海に大きな白い魔獣が現れた。
それから舟を出すと、食べられちゃうから舟を出せなくなった。
おしまい。
それをじいさんの想い出話と、飲み屋のクラリッサちゃんに貢いでいる話と交えて熱く語ってくれた。
特にクラリッサちゃんにお金が無いなら、お店に来ちゃダメよ?
そう言われた時の話は俺の胸を打ち、俺はじいさんと共に泣いた。
「じじい……辛かったなぁ……。
分かる、分かるぞぅ……」
俺も貢いでた飲み屋のキャリーちゃんに金が無いと告げた時の、あの虫けらを見る目で見られた時は流石に心が折れるかと思ったもんだ。
「分かってくれるか、若造。
貴様も色々あったんだなぁ……」
今は美女2人連れて万死に値するがな、とボソリとじじいは付け加える。
同情してやってんのに、なんてじいさんだ!!
俺もこういうの見たらそう思うけどな。
本とかに出て来る勇者みたいな生活している奴は特に注意するように。
そういうハーレム野郎は罠に掛けて地獄を見させてやろうと思うのが一般的だから、迂闊に閉鎖的な村とかで頼みとか聞いたらダメだぞ!
ひとしきり同情をしたところで、俺はクルッとじいさんに背を向ける。
「じゃあな!」
後ろからじじいが、待たんかい、と叫んでいるがこれ以上はダメです。
本当に危険が危ないので。
今度こそエルフ女とナユタの手を引いて、華麗にスタイリッシュに、さりとて競歩のスペシャリストの実力を発揮して、スタスタとその場を去った。
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