第147話ゴンザレスと海①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵様だとか、転生者とか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0





 いやあ、とんでもない目にあった。


 どうもゴンザレスです。

 違う! アレスです!


 逃亡者だったり革命家だったりしましたが、今度こそ詐欺師生活頑張ります!


 あのグリデンから頂戴した金で、ふらふらしながら街をの〜んびり移動して海に出る。


 海沿いの田舎町の舟屋にて。


「海〜出てぇってのはオメェかい?

 やめときな」

 白ヒゲのつるっ禿げ老人がモリを磨きながら、こちらを身もせずに言い捨てる。


「あ、はい。分かった」

 クルッと背を向ける。


「奴がいる限り、この辺りじゃあ舟は出せねぇぞ?」

 ふ〜ん、そうなんだ。


 とりあえず俺はこの漁業の町から出て行った。

 途中、美味そうなスルメが売ってあったので、詐欺して半額で買って食べた。

 美味しかった。


 そして、次の町の舟屋でも。

「海〜出てぇってのはオメェかい?

 やめときな」

 顎ヒゲのこれまたつるっ禿げ老人がモリを磨きながら、こちらを見もせずに言い捨てる。


「あっそ」

 俺は立ち去る。


「奴がいる限り、この辺りじゃあ舟は出せねぇぞ?」

 はいは〜い。


 そして次の町の舟屋。

「海〜出てぇってのはオメェかい?

 やめときな」

 ヒゲのないつるっ禿げ老人がモリを磨きながら、こちらを身もせずに言い捨てる。


 この老人、俺を追いかけてない?

 それとも聞かないと終わらない感じ?

 ループ? ループなの?


 でも、どう聞いても厄介ごとだし。

 厄介ごとなんて解決なんて出来んよ?


 なので前回同様、ああそう、と言って老人に背を向ける。






 そして振り返るとそこには、口を三日月状にして笑うエルフ女が居た。






 ひぃぃぃやぁぁぁああああ!!!





 ダッシュで砂浜を逃げる。


「おほーほほほほー!!!」

 く、来るなー! エルフ女!

 お前そんな喋り方のキャラじゃねぇだろぉぉおおおお!!!


 当然、あっさりと捕まった。


「あんたさぁ、メリッサなんて激おこよ?

 なんで逃げたりしたのよ?」

 首根っこ掴まれてお説教です。


 何故かナユタも一緒です。

 しかも、それほど時間が経ってないのに、ナユタの美女度が上がっている……だと!?


 エルフ女のこの手腕に俺は驚愕せざるを得ない。

 エルフ女を娼館の主人にしたら、超大人気娼館が出来上がるんじゃないか!


 どうやって騙してやろうか?


 クックック……、とにかく首根っこ掴まえて振るのやめて?

 細身なのに馬鹿力よね?


 とりあえず俺は詐欺師らしく言い訳を口にしてみる。

「いやぁ〜、ちょっと仕事したくなって……」


「あんたの仕事、公爵でしょ?」

「ち、違う! 俺は詐欺師だ!」

「それ、もう認める人居ないから」


 ぐぬぬ、人に詐欺師と認められない詐欺師は詐欺師とは呼べん!


 何故だ! 何故、騙されているのに誰もが俺を詐欺師と呼ばんのだ!?


「ゴンザレス様は詐欺師……なんですか?」


 おうふ、ナデシコ娘のナユタに純真な目でそう言われると肯定し辛い。


「あ、あの! 私一生懸命働きますので、詐欺師は出来ればやめて頂ければ……」

「あ、理想のヒモ生活?

 それならいいかな?」


 俺がナユタのヒモ生活に大いに惹かれると、それをエルフ女がジト目で。

「なら、なんでカストロ公爵領から逃げたのよ?

 完全ヒモだったじゃん?」


「え……、だってあのままじゃ、なんか怖いことになりそうだったし」


 総司令官とか訳分かんないこと言ってたでしょ?

 前からずっと言ってるけど詐欺師は司令官とかならないから。


 そもそも公爵になる詐欺師とか見たことないし。

 お〜、怖っ!


「こいつ、こんなだけどいいの?

 今からでも見捨てて帰った方が良くない?」


「あはは……。私、間違ってるかも知れませんね。

 でも、あの時助けてくれたのは間違いなくこの方ですから」


 また何か勘違いされてる?

 里を救ってくれて、とか言ってたけど救ってないからね?

 むしろ見捨てて逃げたよ?


 素直な良い娘だねぇ……。

 美女なのにそんなんだから、現在進行形で悪い男に引っ掛かるんだよ?

 俺に都合が良いから教えないけど。


「あんたねぇ〜。

 こんないい子まで引っ掛けて、いい加減にしないと刺されるよ?」


「だから逃げたんだけど?」

「クズが!」

 怖い顔で睨み付けるエルフ女を困り顔でまあまあ、と宥めるナデシコ美女ナユタ。


 流石になんでこんな良い娘が俺なんかに引っ掛かるの?

 良い娘ほど詐欺にかかりやすい?


 俺の中で新たな説が出来そうだ。

 ナユタには俺からも忠告しよう。


「詐欺には気をつけるんだよ?」

「貴様が言うな!」


 その通りだけど、エルフ女酷い!

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