第146話革命家ゴンザレス⑨

 ベック伯爵領陥落後、早馬により報告をウスタから、受けたカストロ公爵名代イリス・ウラハラはため息を一つ付いた。


「アレス様らしい。

 本当に仕事に行ったのですね。

 まさか単独でベック伯爵領を制圧に行かれるとは……。

 すぐにメリッサお姉様にも伝えないといけませんね」


 相変わらず無茶苦茶だ。

 軍も動員せずにどのようにしたらそんなことが出来るのか。


 彼にとってしてみれば、ナンバーズのイリスですらも足手まといなのかも知れない、と寂しく笑う。


 ……いや、事後を任せてくれる事がまさに信頼の現れである。

 今までならそんなことはなかった。

 今までなら、アレス様は全て自分で片を付けていたのだから。

 ならば、イリスたちはその信頼に応えねばならない。


「あ、あの〜。

 ゴンの奴は一体……?」


 その報告を届けてくれたウスタの戸惑う様子は、流石にイリスも慣れっこになってしまった。


「ゴンザレス様はカストロ公爵アレス様ご本人で御座います。

 そして……」

 そこは軽い笑みで留める。


 それでも、関わった者はある存在を浮かべる。

 ウスタもまた、世界最強と呼ばれる誰かを頭に思い描いていた。


「……さて。

 貴方からの伝言、確かに聞きました。

 少々そのままでお待ちなさい」

 イリスは部屋から出て行った。


 そしてしばらくして……。

 ウスタは、その時の事を生涯忘れないだろう。


「お父さん!」

「ターナー!!」

 娘と妻は生きて、カストロ公爵家に保護されていたのだ。


 ウスタは唐突に気付かされた。

 全ては偶然などではなかったのだと。


 あの男、いや、あのお方は全て分かった上で3人に接触したのだ、と。


 ベック伯爵領の民の未来を案じ、ただ、全てをカストロ公爵領の者が助けるのではなく、自らの力で立ち上がるように促しながら。


 その名は!


 世界最強、ランクNo.0!!!








 イリスからの手紙を受けたメリッサは、図らずもイリスと全く同じようにため息をついた。


「本当に仕事をしに行っていたとは……」

 しかし、どこまで本気だったのかはあやし〜ところだ。


「イリスさん、なんて?」

 気怠げなカレン姫にも手紙を見せる。

 それを読んでカレン姫も吹き出す。


「ははは……アレスさん。相変わらず無茶苦茶だよねぇ〜」

「全くです。さあ、カレン姫様。帝国までもう少しかかります。

 あまりご無理なさりませぬよう」


「んー、メリッサもね。

 ……お父様には、なんて言おうかなぁ」

 カレン姫は、たはは、と笑う。

 それにはメリッサもこめかみを抑える。


 まあ、なんとか考えるしかない。

 なんと言って良いかは全く分からないが。


 帝国を上げて、アレスを血祭りに上げようとすることだけは、何としても止めなければならないのだから。






 その日、元ベック伯爵領はカストロ公爵領に併合された。

 それもカストロ公爵側はただの一兵も使わずに。

 仕掛けたのは無論、あの男。

 カストロ公爵アレス。


 カストロ公爵領に居たはずの男が、突然転移でもしたようにその街に現れた。


 そのような存在を人々は知っている。

 世界最強ランクNo.0。

 やはりカストロ公爵アレスはNo.0なのだろうか?

 事実、エストリアが誇る10剣の1人、グリデン・ベックを無手にて制したという。


 むしろNo.0の数々の逸話から見れば当然で、挑んだグリデンの方が愚かだと言わざるを得ない。


 ナンバーズであっても誰一人No.0には敵わないのだから。


 世界の叡智の塔、邪神の作ったその塔にNo.0の名は、ない。











 報告をカストロ公爵領とケーリー侯爵に送り、ある程度の目処が付いた。

 私、ナユタは主人であるゴンザレス様の居ない元ベック伯爵の館で、これからについて考える。


 ここからは私よりも他の人の方が適任なので私については一旦、カストロ公爵領に戻るかどうかといったところ。


 そんなある日、土煙をあげて何者かが元ベック伯爵領のこの街に接近していると知らせがあった。


 私はグリデンに敗れはしたが、それでも元革命軍では最高戦力。

 警戒も兼ねてその何者かを城門にて出迎えた。


 土煙を上げてやってきた人物は私の前で急停止した。

 そして私の顔を見るなり、合点が言ったとばかりに叫ぶ。


「チクショー!! アレスの奴!

 まんまと奪っていきやがった!!」


 美しいエルフの女性。

 剣聖の担い手と呼ばれる伝説の1人、エルフィーナという名だとか。

 その実力はナンバーズに匹敵するという。

 アレス、つまりゴンザレス様を追って来たのだろう。


「いいえ、あの方は何も奪っておりません

 むしろ、皆に希望を与えて行かれました」


「え? 奪われたでしょ?」

 キョトンとした顔で、上から下まで私の全身を見る。

 私のことで言うなら……。


「え、ええ、まあ、奪われましたけど……」

 奪われたというより捧げたのですが、という言葉は飲み込んだ。


「ふ〜ん」


 さらに私をジロジロ見る。

 そして手を差し出す。

「行く?」

「え?」


「あんた、一緒に行く?

 アイツが手を出したんなら見込みあるわ。

 ナンバーズ並に強くなれるわよ。

 それに……アイツはクズだから、追いかけないとさっさと逃げるわよ?」


 私はその言葉に……。


「はい!」

 頷き、彼女の手を取る。


「私はエルフィーナ。あんたは?」

「ナユタと申します」


 そして、私は元革命軍の皆とブレンたちに笑顔で見送られエルフィーナさんと共に旅立った。

 あの方を追いかけて。

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