第144話革命家ゴンザレス⑦

 領主館の扉が開き、おざなりに俺は指示する。


「はーい! 皆さーん、制圧急いでー!

 時間との勝負だよー」


 捕らえられていたフリをしていたヒゲオヤジたちも、ヒモをつけたけまま剣を抜き駆け出す。


「降伏する者は命は助けるが、抵抗する者は皆殺しだー!!

 ヒャッハー!」

 ヒゲオヤジが興奮しながら突撃して行く。


 やあねぇ、野蛮で。


 すると1人の男が音もなくやって来て、俺の前でひざまづく。

「お館様、お待ち申し上げておりました。

 領主館の見取り図にございます。

 領主代行はおそらく西の離れの塔に逃げ込んだと思われます」


 この人もカストロ公爵領の、というか里の人か。

 有能そうな匂いがプンプンする。


「カストロ公爵領とケーリー侯爵への連絡は?」

「委細ご指示の通り」

 ちゃんとこの後始末、押し付けないといけないからね。


「ゴンザレス様。参りましょう」

 ナユタに案内されて移動。

 何故か、ブーフーウーも付いてくる。


 逃げたい……。

 どう見ても逃げさせてくれなさそうな雰囲気である。


 ううう……。

 ベック伯爵領にて反乱に御座ります!

 何!? 首謀者は誰だ!

 ゴンザレスなる詐欺師であります!

 なぁにぃ! やっちまったなぁぁ!!!

 ……である。


 しかも、成功しそう。

 情報戦にしても噂流すにしても兵の配置にしても、ベック伯爵領はザルも良いところであった。


 なんでだ〜、もっとしっかりしろよー。

 そんなんだから詐欺師に領地を攻め落とされるんだ。

 詐欺師は普通、反乱なんかしないけど。


「領主代行は頭は残念ですが、剣の腕前はエストリアの10剣の1人に選ばれるほど。

 ご注意下さい。

 私でも少々難しいかと」


 エストリア10剣はナンバーズと同じ制度。

 帝国ランクと似たようなもの。

 つまり、エストリア国を代表する10人の内の1人ってこと。


 いやいや、最高戦力より上ならどうしようも無いでしょ?

 逃げようよ。


「ですので、数で追い込みましょう」

 それならまあ、妥当か。

 近寄らないように注意しないと。


 西の離れの塔では領主の私兵が抵抗を続けている。

 奴らに関しては甘い蜜を吸い過ぎて、降伏しても先がないからだろう。


 それでも領主代行が捕まれば諦めるだろうけど。


「はっはっは! コッパども!

 俺をエストリア国10剣が1人、グリデン・ベックと知ってかかって来ているのか!


 俺を討ち取りたければ、忌々しきカストロ公爵に籠絡された小娘イリス・ウラハラでも連れて来るがいい!!」


 俺がここに居ると知ったら、本当に来そうだからそんなこと言うのやめて?


「不味いですね。

 囲みを突破して逃げるつもりです。

 逃すと厄介なことになります」


 よし! それに合わせて逃げよう。

 俺はタイミングを図る。


 グリデンが囲みを突破してこっちに突っ込んでくる。


 こ、こっちに来るなぁぁああああ!!!!


「ゴンザレス様!」

 ナユタがグリデンの前に立ちはだかる。

 ブーフーウーも加勢。


 俺は応援する!

 が、がんばれー!!!


 ウーが蹴られ跳ね飛ばされる。

 そこから少しずつ押され出す。

 何やってるんだ! ウー!

 娘のターナーに手を出すぞ!


 フーが頭突きされて崩れ落ちる。

 根性で耐えろよー!!


 ブーが顔を捕まれ投げられその先で木にぶつかり崩れ落ちる。

 どんなパワーしてんだよ……。


 最後はナユタが首根っこ捕まれ吊るされる。

 負けんなよ! 根性出せよ!!!!


 ……というかグリデンは10剣という割に、全然剣を使ってないじゃん。


「ご、ゴンザレス様……、お逃げ、下さい……」

 ナユタが健気にもそう言う。


 大丈夫、俺はナユタが捕まった時点でとっくに逃げ出しているから。


 だがしかし!!

 ナユタを放り投げグリデンは猛烈な勢いで俺を追い掛けてきた。


「貴様が首謀者だなー!!!

 貴様の首を城門に掲げて、その目の前でさっきの娘を甚振いたぶってくれるわー!!」


 く、来るなー!!!

 さっきの娘は甚振いたぶっても俺は殺さないでー!!


 俺の全力ダッシュを猛然と追いかけて来る。

 その距離がグングン縮まる。


 ひー!!


 俺は何か武器は無いかと手持ちの物を探るが、あの時、街で小道具に使った木しかない。


 すぐに街を出たのでなんとなく持ったままだった。


 後はマーカーとスイッチ。

 使ったら100%死ぬ!

 使えるか!!


 というか、俺は剣も持ってません。

 だって逃げるのに邪魔だから。


 もう一足飛びの距離にまでグリデンは接近。


往生おうじょうせいやぁああ!!」


 グリデンはジャンプして俺に剣を叩き込もうと。

 俺は無様に木を振り回す。


 グリデンが俺の目の前に着地……しようとして、ツルンと何故か足を滑らせる。


 仕掛けに使った木の中に入っていた油が俺が振り回したせいで、グリデンの足元に少量ではあるが溜まっていたのだった。

 着地地点ピンポイント。


「「あら?」」

 俺とグリデンの声が重なる。


 まるでスローモーションのように目を丸くしながら後ろに倒れるグリデン。

 俺も目が点になって、それを見守る。


 ゴンッと出てはいけない音がグリデンの頭の方から聞こえる。


 倒れた後頭部の位置に、大きな石が。


 目を回し、グデーンとグリデン。

 そこにこちらの兵がやって来て……。


「グ、グリデン討ち取ったりー!!!!」

 ……と叫ぶ。


 いや、討ち取ってないから。

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