第143話革命家ゴンザレス⑥

「なぁあんでこうなったかなぁ……」


 馬で領都へ移動中。

 作戦はこれ以上ないほどに上手くいった。


 簡単に言うと、口で騙した。


 中央府は攻めるフリ。

 丸太や柵も油を仕込んだのは、前面……つまり処刑場とこちらの間の分だけ。

 いざとなったら、火だけを着けて逃げるために。

 牢獄だけは1番手薄だったので本当に解放。


 こちらにそれなりの訓練された兵が居れば、中央府を潰しても良かったが、軍としての訓練をしていない民兵では数が居ても難しかった。


 敵側も兵士としては微妙だったので、革命軍だけで直接武力で制圧も不可能ではなかっただろうが、被害はかなり大きかっただろう。


 カストロ公爵の兵?

 呼び寄せる訳ないじゃん。

 捕まるし。


 そんな訳で頭を潰すのが1番楽そうだった。

 その一言に尽きる。


 んで、口が最も上手い俺が矢面に立ったという訳だ。

 確かに詐欺師の俺が1番口が上手いだろう。

 やっぱり詐欺師って名乗ってないけどオーラで分かるのかな?


「お館様が前面に出れば、勝利は疑い無いですから」

 ナユタはキラキラした目でそう言った。

 うん、疑おうね?


 実際に行った策はこうだ。

 カーラにご執心のフーに伝令兵として、敵陣の中に入ってもらう。

 失敗したら自分でカーラをなんとかしてね、という感じで。


 俺が適当なことを言って代官と兵が戸惑っている間に、代官にフーが接近。

 剣を突き付けて脅す。


 降伏に応じなければ切って捨てて戦闘。

 俺は逃げる!


 ……まあ、抵抗する気骨もない代官様で良かった。


「お見事でした。ゴンザレス様」

 ロープに亀甲縛りされた(ように見える)ヒゲオヤジが、感心してしきりに俺を褒める。


 まあ、どうも。

 オッサンに褒められてもなぁ……。


 んで、俺たちがどうしているかと言えば、領主代行の居る街に移動中である。

 ヒゲオヤジと首謀者の男女を20名ほど連れて、全員亀甲縛り……して見えるように。


 大体100名ぐらいの大所帯。

 反乱軍を警戒するという名目。


 何をするつもりかは見れば分かる通り、領主代行を成敗に向かう予定です。


 大将、俺。


 いつもだが、なんでだ?

 なんで俺は領主代行の街に攻め入る暴徒の親玉になっているんだ?

 君らなんで俺を信じるの?

 おかしくない?


 詐欺師オーラ出てるでしょ?

 溢れんばかりのイケメンオーラに騙された?

 じゃあ、仕方ないな。


 いやいやいや。


 すぐに逃げ出したいが逃げれる感じがしない。

 ナユタ乗馬上手いのよ。

 馬の上に片足で立つぐらい。

 曲芸師?


 それはともかく、これがどういう状況かというとあの混乱の最中、伝令兵を領主代行へ送っていた。

 反乱軍が決起したが返り討ちにして捕縛したので連行します、と。


 道中、反乱軍の残党を警戒しますので、それなりの数にて移動します、とも。


 街の内部には人が入り込み、領主代行の街の反乱勢力とも繋ぎを取っている。


 また併せて噂もばら撒く。

 ベック伯爵の失態に宰相側は憤慨ふんがいしている。

 この街は見捨てられるかもしれない、と。


 カストロ公爵は抵抗しなければ、民を保護する旨を領主代行に伝えたが、領主代行は愚民への気遣いは不要と突っぱねたらしい、と。


 流した噂をまとめて言うと、宰相側からの援軍は期待が薄いこと、カストロ公爵に付けば保護されるが、領主代行は自分のことしか考えていないこと。


 これらは皮肉なことに事実でもあった。

 そこにもう一つ、抵抗すれば街を蹂躙じゅうりんすると。


 さらにさらに先のベック伯爵との戦いにおけるカストロ公爵の軍の強さも流す。

 あの時の軍の中身は帝国軍だったけど。


 これを流しておかないと日和見主義者が増えるからだ。


 本当は革命をしたあの街にも似たような噂は流していたが、活用せずにあっさりと終わった。


 なんだかなぁ。


「ゴンザレス様、街が見えて来ました」


 は〜い。









 ブレンは緊張を滲ませ、その門を潜った。

 まるで地獄の門をくぐるかのような緊張を持って。


 街で編成されていた兵から参入した者が手続きを行う。

 この時点では疑われてはいないようだ。


「兵の皆様、かなり緊張されてるようですが?」

 門兵がいぶかしげにゴンザレスに尋ねる。


 バレたか!?


 ブレンたちはさらに緊張してしまう。

 ゴンザレスの合図一つで、すぐに戦闘だ。


 領主館まではまだ距離がある。

 駆け抜けられるか?


「そうなんだよねぇ……。

 もうね、道中、反乱軍がいつ来るか分かんないでしょ?

 それで全員、無駄に警戒して疲れ切っちゃってさあ……。

 ほんと、早く休みたいよ」


 門兵にゴンザレスはゆる〜く答える。

 心からそう思ってるのがよく伝わる。


 上手い!

 ブレンはそう思わずに居られなかった。


 多少の訓練経験者もしくは帰還兵を優先して選んでいるが、それでも民兵に毛が生えた者たちばかり。


 そんな連中が街から街への移動中に反乱軍を警戒し過ぎてピリピリしてしまうのは、むしろ当然とも言えることだ。


「はあ……。

 ですがもう街の中ですし、そんなに緊張なさらなくても……」

 そこでもゴンザレスが間髪かんぱつ入れず答える。


「君さあ……、領主代行に緊張なく会える?

 あの領主代行なら、なんで反乱軍が出たんだ、と怒りそうじゃない?

 良かったら代わってくんない?」


 またしても、心の底からそう思っているようにしか聞こえない。


「いえ! 結構です!

 皆様のお役目を奪うわけにはいきません!

 どうぞ、お通り下さい!」


 早口で大きな返事をして門兵は下がる。

 それはそうだろう。

 領主代行もベック伯爵同様、どんなことを言い出すか分からない相手。

 本当にそう言って怒り出しそうだ。


 その考えが門兵たちに伝わり、むしろ緊張するのが当然という雰囲気で見送られる。


 バレる心配がなくなり、ブレンたちも少しだけ緊張が和らいだ。


 そして道の先にある一際大きな贅沢な建物。

 領主館兼伯爵邸。


 解放するのだ、この街を、この領を。

 ブレンたち全員の心は今一つになった。


 とある詐欺師以外。

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