第142話革命家ゴンザレス⑤

 作戦決行の日。

 結局、俺は逃げられなかった……。


 革命軍が居並ぶ前で立ち尽くす。


 ナユタの隠れ家で至れり尽くせりされながら寝泊まりして、眠い目を擦りながら気付いたら決行の日を迎えてしまった。


「ゴンザレス様お言葉を」


 何言えちゅうねん。

 集まった革命軍の代表たち。

 全体では何人居るんだ?

 結構な人数が居そうだ。


 とりあえずこの場を誤魔化すためにそれっぽく何か言っておこう。

「諸君、皆の未来を掴むぞ! 革命を!」

「革命を!!」


 全員が真剣な顔で拳を高く挙げ叫び返してくる。

 全員ノリ良いね?


 決行の日は西の代表カーラの公開処刑日。

 その日に合わせ各重要拠点を攻撃。

 本命を狙う。


 決行の日が公開処刑日になったのは、単に準備に時間がかかったせいだが、そのおかげで敵は分散状態。


 狙うポイントは3つ。

 西の代表カーラの処刑場。

 街の中央府と牢獄。

 あともう一つ、領主代行の居る街へ走るだろう伝令の阻止。


 処刑場は物々しい雰囲気。

 本日、革命軍の襲撃がある予定と噂……鼻毛のおっさんが情報を流したからだ。


 丸太や柵による防衛陣地が構築されている。

 設置は街の者を奴隷のように酷使して行われた。


「では、ゴンザレス様。参りましょう」

 ナユタに護衛についてもらい俺も現場に移動。


 行きたくないなぁ〜。

 なんで俺まで行くの?

 革命軍のリーダーだから?


 どうしてこうなった!


 ナユタはこの街の中でも抜きん出て強いようだ。

 カストロ公爵領の奴等って皆異常なほど強いよね……?


 理由は知ってる。

 エルフ女、本当に教えるの上手いんだ。


 究極なんとか勇者コースみたいなの、志願制でさせたみたい。

 志願者で溢れ返ったそうな。


 すげぇな。

 俺、絶対やらない。

 キョウちゃんに押し付けたぐらいだし。


 そして作戦時間が来た。








 ベック伯爵領の街の一つ、マルンド。

 その街の代官ゴッドワルドは焦っていた。

「反乱軍の動きはまだ掴めんのか!」


 革命軍と自称する反乱軍。

 その西区の代表のカーラという中年だが、なかなかに美しい女を内通者を使い捕らえたまでは良かった。


 今度はその内通者より、処刑場に反乱軍が襲撃をかけると連絡があった。


 そのため防備を固め反乱軍を待ち構えていたが、奴等が姿を現す様子がない。


 それならばそれでカーラの処刑を済ませてしまえば良かったのだが、ここまで動きが読めないと不気味で仕方がない。


 今まで反乱軍がこのような動きをしたことはない。

 カーラ捕縛の際もそうであったが数こそいれど反乱軍は所詮、一般庶民の烏合の衆。


 統率された動きもなければ、少し突いただけでとても分かりやすく、滑稽こっけいに踊ってくれた。


 今日は、いや、ここ最近はむしろ真逆。

 何か巨大な存在の手のひらの上で踊らされているような……、そんな感覚すらしてしまう。


 そこに火急の知らせと、兵が走って来た。

「申し上げます!

 中央府が襲撃に遭い……捕らえていた者どもに逃げられました!」


「なんだと!?

 守備隊は何をしていた!」

「そ、それが……、反乱軍の奴等はカストロ公爵の兵を街に呼び込み忍ばせていたようで!」


「ぬぬぬ! 急ぎ援軍を送るように……」

「はーい、そこまで〜」


 処刑場の外にどう見ても胡散臭そうな男と、この街では見ないほどの楚々そそとした美しい女性。


 呆気に取られかけたが、すぐにゴッドワルドは怒鳴る。

「なんだ貴様は!」

「いいからこれ見てね〜」

 胡散臭い男は懐から木を取り出し、美女から火を受け取る。


 それに火を付けると木はボワッと一瞬で燃え上がる。

 その燃え方は木の中に油を仕込んであることが分かる。


「アチー!! アチアチ!!」

 ぽいっと木を放り捨てる男。


 沈黙が流れる。

 ゴッドワルドは驚愕する。


 な、なにをしたいんだこの男!?


 手を冷ますように振りながら、男は話を続ける。


 ゴッドワルドは思わず思った。

 あ、話続けるんだ、と。


「そこの丸太やら柵、これと同じ材料で作ってるから。

 火を付けたら君たち蒸し殺されるから」


 ゴッドワルドは、処刑場の全方位にある丸太や柵を見る。

 だが、出入り口にしている場所にはそれはない。

 簡単に逃げ出せる。


「逃げれると思うよね。そこで!」

 処刑を見学していた街の者たちが、武器を取り出し入り口の方へにじり寄ってくる。


 一触即発。

 そんな空気の中、さらに男は続ける。


「はいはい、慌てない、慌てない」


 男が緊張感のない声でさらに続ける。

 民衆の中から縛られた1人の文官が出てくる。


 その文官に美女が剣を突き付けて見せる。

 抵抗しようとするが、文官は力の無さそうな美女を振り解けないようだ。


 そして男は言った。

「こちらは人質が居ます!

 大人しく兵を引きましょう!」


 それは昨日、姿を見せなくなった高級文官の1人だ。


 ゴッドワルドは叫ぶ。

「卑怯だぞ!」


 それにやる気の無さそうな男がまたしても答える。

「美人の女性を処刑しようとする男よりマシでしょ?

 もう中央府も陥落するから投降しようか!」


「そんな訳にいくか! 者共……」


 文官を見捨て、民衆どもを血祭りにあげようとゴッドワルドは声を上げるが、それを男が遮り兵たちに高らかに呼び掛けた。


「いいのか!

 次に見捨てられるのは自分だぞ!

 それでもこんな奴の元で戦うか?

 さらに自らの守るべき人々を殺してか?

 兵士諸君!

 それで良いのか!!!」


 それは自らの行いを問い正す響きがあった。

 そして、その声は兵たちに届いてしまった。


 兵たちが戸惑い動きを止める。

 ゴッドワルドは歯噛みする。

 兵はこの街での徴用兵だ。

 忠誠心など期待出来ない。

 従えるならば恐怖ぐらいしかないのだ。


 ゴッドワルドはさらに兵を脅す言葉を告げようとして……出来なかった。



 喉元に剣を突き付けられていたからだ。

 それは報告に来ていた兵。

 反乱軍の手の者だったのだ!


 火急の報告とあの男の妙な行動のせいで、報告しに来た兵の所属確認が遅れたことが致命打となったのだ。


 突き付けられた剣から目が離せないゴッドワルド。


 そこに男から先程と変わらぬ口調で告げられる。


「……さて、お分かりかな?お分かりになりましたら、降伏を。

 それとも、そんな訳にいくか、と首と胴が離れますかな?」


 革命が成功しようとする中で興奮するのでもなく、ただ淡々と。


 民衆どもの中央、まさに舞台の中心に居ながら、まるで自らは部外者でしかないとでも言うように。


 それがより一層ゴッドワルドには不気味だった。

 戸惑う内に兵から迫る圧力。


 ゴッドワルドには為す術が浮かばなかった。


 こうして、この街は革命軍の手に落ちた。

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