第140話革命家ゴンザレス③

 たっぷり時間が経ってブーはフーウーを連れてニヤニヤしながら帰って来た。


 そう、俺は完璧に逃げるチャンスを失ったのだった。


 じ、自業自得じゃないぞ!

 俺のせいじゃない!

 疲れて頭が働かなかっただけだ!

 それに忘れるな!


 A級も美女だ!!

 逃げれるわけないじゃないかー!

 ゴンザレス悪くない!


 ……最近、不味いなぁ。

 飲み屋の姉ちゃんを口説いてた頃にはこんなことなかったのに、なんでこうなっちまうんだ?


 未経験者は相手にしないように注意してたのに……。

 第一、A級以上の美女がこんなに簡単に引っかかること自体があり得ない。


 こ、これが世界の叡智の塔の力か!?

 ……って、なんでやねん!


 考えると怖くなってくるから、考えるのをやめよう。

 カストロ公爵にさせられるのと同じぐらい訳わかんない。

 過ぎたことより今からだ。


 ゴンザレス、未来を見るのよ!


 俺が事態を飲み込めずに考え込んでいた間に、ブーフーウーに対してナユタが丁寧に状況を説明していた。

 すると3人の盗賊は感極まったように泣き出す。


「俺はよー、妻と娘を伯爵一族に拉致されて……必死に探したんだが、奴隷商に売られた後だって聞いて、ちくしょう……。

 俺はやるぞ!

 やってあいつらに目に物を見せてやるんだ!」

 ウーが何やら言っている。


 娘が美女なら俺が頂いてあげるよ?

 奴隷としてね? ゲヘヘへ。


 ウーの娘だから期待してないが。

 ちなみに娘の名前はターナーというらしい。


 ……ターナー?

 さ、最近、何処かで聞いた名前の気がするなぁ。

 髪色とか風貌とか聞くとますます同じっぽい。


 へ、へー……。


 お、落ち着いたらカストロ公爵領の屋敷を訪ねてみるといいよ?

 うん? いやいや、観光観光。


「へへ……。

 ゴン、慰めてくれんだな?

 気が向いたら行ってみるさ」


 う、うん、是非行ってみるといいよ?

 良い事あるかもよ?

 か、カストロ公爵領の屋敷にも孝行娘が居たりするからね……。


 あ、ゴンザレスはちゃんと仕事してるから怒らないで、と言ってくれると嬉しいかな?


 誰に?

 ハハハ、誰にだろ?

 忘れて忘れて、わたくし、疲れてるの。


「俺たちはこの領地で生まれて育った。

 一度は捨てたがこの街が……この領地が生まれ変わる可能性があるなら。

 それに賭けてみたい」

 ブーフーウーは俺にそう言った。


 それを何故俺に言う?

 1番の部外者は俺だぞ?


 なのにそんな俺の動揺に気付くことのないナユタは、胸を張り嬉しそうに微笑む。


「分かりました。

 ならば、私たちは仲間です。この領地を変えましょう!

 お手伝い願えますか?」


 ブーフーウーは意志のこもった目で頷いた。


 なんでこうなった?






 ナユタに案内されてやって来たのは卸売問屋の一つ。

 店先でナユタがご主人にお取り寄せの扇子が届いたと聞いたので、と言うと奥に通された。


 合言葉になってるのだろう。

 本格的だね。

 君たち本物のテロリストだもんね……。


 部屋に入ると中には机に蝋燭一本だけ立てて、20人ほどの男女が話し合っていた。


 実は君たち帝国の邪教集団じゃないよね?


「ナユタさん、その人は?」


 ナイスミドル風ヒゲオヤジがナユタに尋ねる。


「皆を率いて下さる方です」


 ざわざわする。

 内心では俺が1番ザワザワする。

 なんとなくそうなる気はしたが、なんでそうなった!?


 ヒゲオヤジはそれについて、何か言おうとするが言葉を飲み込み別の言葉を言う。


「とりあえず、そのことは後にしよう。

 それより大変だ。


 西区のアジトがばれて官憲に踏み込まれた。

 西区の代表カーラも捕まったらしい」


「カーラだと!?」

 フーが突然慌てる。


 お知り合いですかね〜?


「昔馴染みだ……。

 連れの嫁だったが、連れが店で金の払わない官憲に斬り殺されて以来、カーラは反領主の活動を続けていたのは知っていたが」


 激しくどうでもいい。

 ふ〜んと鼻でもほじりたいぐらいだが、俺以外は沈鬱な表情をしているので我慢する。


「せめて、どこから情報が漏れたのか分からないことには……」

 ヒゲオヤジがそう言って頭を振る。

 裏切りが原因で捕まったらしい。

 心当たりがないとか。


 それは致命的だなぁ〜。

 芋づる式で領主側に確保されて革命軍とやらもおしまいだなぁ。

 さて、どういう手筈でこの場を逃げ出すかなぁ〜?


 俺は興味がないので、酒とつまみでも貰って酒でも飲みたい気分だ。

 すぐにでも逃げないといけないので、それどころではないが。


 逃走ルートを確認のためキョロキョロしていた俺は、ふとあるおっさんの顔を見て気づいてしまった。


 どうやら俺は、気付いてはいけないことに気付いてしまったようだ。


 鼻毛が出てる……。

 しかも白毛だ。


 さらに、だ。

 こいつ! 長いぞ!?


 俺はおっさんの顔を凝視してしまう。

 決して触れたくはないが、俺に透明な手が存在するならば抜きたい衝動に駆られる。


 おっさんがこちらに気付いた!

 俺はおっさんの鼻毛から目が逸らせず、目を見開いて凝視してしまう。


「おっさん……、あんた……!」

 俺はついに言ってしまおうと!


「うわあああああ!!!」

 おっさんは突っ込んで来た!


 しまった!?

 鼻毛が突っ込んでくる!!!


 その時、ナユタが俺とおっさんの間に割り込み、おっさんの腕を掴みそれをクルンと回転させる。

 それと同時にふわっとおっさんも回転。


 気付いた時には、おっさんはナユタに地面に叩きつけられ呆然としていた。


 ……そして白い鼻毛が蝋燭の灯りにキラリと一瞬だけ反射した。


 俺は恐怖した。

 なんて……存在感だ!

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