第139話革命家ゴンザレス②

「援軍?」

「はい。

 領主一族の横暴な行為に、人々は何十年と苦しんでおりました。

 食べる物もなく家族を泣く泣く売るしかない家も。


 それでも人々には、その環境を変える自由も存在しませんでした。

 そんな時、隣の領地にカストロ公爵領が突如として登場したのです。


 それは闇夜に差す希望という名の光。

 人々は職業を自由に選び働いて食べることが出来る。

 そんな希望の土地。


 しかし、ベック伯爵は領外、特にカストロ公爵領への移動を禁じました。

 当然、そうなると商人たちもこの領地を通らずケーリー侯爵側を通ることになり、ベック伯爵領はさらに貧しくなりました。


 されど、ベック伯爵の態度は変わりません。

 いいえ、さらに厳しくなったそうです。

 人々はさらに困窮しました。


 そんな時、ベック伯爵が王女捕獲のため軍を動かしました。

 働き口のない者たちはこぞってその軍に参加致しました。


 それだけ日々の生活に困窮している者が多かったということです。


 ですが、相手が悪すぎました。


 結果はご存知の通り、軍は大敗北、ベック伯爵は捕虜となり被害こそありましたが、領地の者たちは喜びました。


 これで地獄は終わる。


 でも違いました。

 ベック伯爵の子息は、それに輪をかけた愚物でした。

 それに付き従う者たちの横暴も。


 女と見れば、さらもてあそび売り払う。

 金銭を払わず飲み食い。

 気まぐれに人々に乱暴し官憲たちも見て見ぬふり。

 むしろ一緒になって無法の限りを尽くすばかり。


 そして、ついにこの街の人々は立ち上がることにしたのです」


 ほ〜ん、カストロ公爵領って凄いんだねぇー?

 俺は耳の穴を掻きたい気持ちを我慢しながらナユタに尋ねる。


「よく今までナユタは、攫われなかったな?」


 女と見れば攫われるなら真っ先に狙われると思うんだけど?


「いくらなんでもあのような者どもに、攫われるほど未熟ではありません。

 後、普段は目立たぬよう、普段は気配を抑えておりましたので。

 ゴンザレス様をお見かけした時は、つい嬉しくなり……」


 ポッと顔を赤らめ恥ずかしそうにするナユタ。


 うん、つまり君も可憐な見た目で化け物なのね。

 俺なら簡単に攫われるよ?


 ……ならば、よし。

 逃げよう!


 ここに居ては捕まるだけではなく、反乱軍の旗頭はたがしらにされてしまう。


 そんな危険なことはゴメンだ!

 そうと決まれば、こんなところに居られるか!

 俺は逃げるぞ!


 元より3人の盗賊から逃れるための方便でここまで来ただけだ。

 ついでにそう簡単にカストロ公爵領の者が入れない、と思ってた場所がここだっただけで。


 すでにカストロ公爵領の手が回っているのであれば、早急に立たねばならぬ。


 カストロ公爵領の者から公爵が逃げているなんて不思議ね〜、なんて言うんじゃないぞ!


 俺は認めん!

 認めてなるものか!


 あわよくば、ナユタを美味しく頂きたかったが時間が惜しい。

 泣く泣く諦めよう、生きるために。


 カストロ公爵領のヤツらに捕まっても死なない気がするけど。

 むしろ訳も分からないまま、至れり尽くせりさせられるけど。


 いや!


 いつか邪神に突撃しろと言われかねないから、逃げるのが正解だな。


 S級美女に手を出すということはそういうことなのだ!

 世の人よ! 覚えておくと良い!


 さて……後はどういう口実でこの場を立ち去るか、だ。


 だが流石はS級には至らぬまでも並外れたA級美女ナユタ!

 そうは問屋が卸さないと畳み掛ける!

 ……そんなつもりないんだろうけど。


「では、ゴンザレス様早速参りましょう」

「へ? 何処へ?」

「革命軍の者たちのところへ」


 行かないから!?


「いや、まだちょっと、早いんじゃないかなぁ〜……?」


 連れて行かれたら逃げられなくなるじゃないか!


「早い?

 あ……、そういうことですか。

 成る程、あの3人はゴンザレス様に見出された、という訳ですね?

 ならばお待ちします」


 立ち上がろうとしたナユタはすぐに綺麗な正座に戻る。

 その居住まいは凛としており、ナユタの魅力をより一層引き立てていた。


 3人待つの?

 見出すも何もないんだけど?


「棟梁や他の人は元気?」

 逃げるアイデアが浮かぶまで、興味はないが情報を探ろう。


「ゴンザレス様のおかげで全員元気にしております」

 柔らかく微笑み頭を下げる。


 俺のおかげって俺何したの!?

 い、いかん!

 ボロが出る前に話を変えよう!


 しかし、急に変えようとしてもいい考えは浮かばない。


「えっと、元婚約者って?」

「……あのままゴンザレス様が望まれて里で暮らしていれば、私がゴンザレス様と夫婦めおとになっておりましたので。

 ……身分もわきまえず申し訳ありません」


 ナユタは少し寂しそうに儚げに笑う。

 君の方がずっと上の身分だと思うけどね!


 しかし……ということは何かい?

 手を出されることもやぶさかではないとおっしゃるのかな?


 おっしゃるのかな!!


 ナユタを熱い視線でジッと見ると、目を潤ませて見つめ返してきた。


 ちなみに俺はこの時、疲れていた。

 よって考えることを放棄した。


 さっさと逃げれば良いのにアイデアが浮かばない。


 うん、疲れてたからだ。

 ゴンザレス、悪くない。


 そういや、この娘も棟梁の娘だから、里の姫と言えなくもないのかな?

 そんなどうでも良いことが浮かぶが、すぐに頭から消えた。


 つまり俺はナデシコ娘を押し倒すことにした。

「……あっ」

 抵抗も見せず、恥ずかしそうに俺に押し倒されるナデシコ娘。


 いっただきまーす。


 俺は後になって思い出す。

 そういえば帝国皇女の時も同じようなことしちゃったな、と。


 人はいついかなる時も考えることを放棄してはいけない、そんな教えが後で浮かぶことになる。


 そして俺は命懸けの革命に巻き込まれることになるのである。


 ……どうしてこうなった!?

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