第138話革命家ゴンザレス①

「おいおい、介抱してやったというのにご挨拶だな、おい!」


 そこはありがとう。

 だが様式美は守ってくれ。


 目覚めると美女の介抱は基本だ。

 そして押し倒す、ここまでが様式美だ。

 分かったか、ゴルァァアアアアア!!


「あ、ゴンザレス様、起きられました?」

 ひょこりと厨房の方から、さっきの可愛いナデシコ娘が顔を出す。


 なんだ、様式美を守っていたのねブー様。

 もぉう、い・じ・わ・る。


 手招きすると、迂闊にも近寄って来たので抱き締めておいた。

 俺に確保された可愛いナデシコ娘は、手だけバタバタしているが逃げ出したりはしない。


 あー、カストロ公爵領を出て久しぶりの女だ。

 とりあえず、様式美通り流れのままに押し倒そう。


 ブーにどつかれた。


「おうこら!

 いくら元婚約者同士でも時と場所を選べや!」


 ……元婚約者同士?

 わたくし、結婚詐欺を仕掛けたことはなくてよ?

 ほんとよ?

 仕掛けていないのに、国とか渡されそうになったり……うっ、頭が!


 俺は思わずお腹を押さえる。


 そしてナデシコ娘を見る。

 ナデシコ娘は優しく微笑みながら、口元で指を一本立てる。


 おおう、なんか良いなぁ。

 肉食系ぽくないし。


 いや、アイツらも別に肉食系かと言われれば違うんだろうが。

 最近、何かと暴走してくるからなぁ。


 それからみると実に新鮮だ。


 当然、俺はナデシコ娘の名前を覚えていない。

 そもそも名乗られたことあったっけ?

 棟梁がガッチリガードしてたしなぁ。


 すぐにブーが飯を並べてくれた。

 味は超絶に美味かった。


 こ、こいつ、何者だ!?


「オレは料理人になりたかったんだよなぁ」

「なればいいじゃん?」


 なんでなんないの?


「この街、つーか、この領地では料理人は許可制なんだよ。

 職人と同じで師弟制という奴だ」

「あー」


 師弟制というのは簡単に言うと、職業選択の自由が無いのだ。

 師匠から弟子に職を引き継ぐシステム。

 それを取りまとめるのがギルド。


 弟子にさえなれれば安定した仕事を得られるが自由は少ない。

 代わりに師のどんな横暴も耐えなければならない。

 何事も一長一短だ。

 俺は無理。


 カストロ公爵領はそんなのは無い。

 当たり前だ。

 俺が貰った土地はろくに人が居なかったのだ。


 やりたい奴に得意なことを任せるしかなかったからだ。

 偶然もあるがとにかくそれが上手くいったのでそのままだ。


 特に俺は何も言っていない。

 俺がいつか仕事させて貰えれば良いなぁ、と思うことに口を挟んだぐらいだ。


 ……毎度のことだがその度ごとに、何故か泣いて感謝されてたけど。

 訳わかんねぇ……。


「どこかしらに弟子にしてもらえれば良かったんだろうけど、金が無くてなぁ」


 この領地に限った話では無いが、利権が絡んで仕事に就くのに金が掛かったり、色々な代償を払ったりすることは良くある。


 んで仕事がない奴が、賊になったり、スラムに行ったり、詐欺師になったりってな。


 まあ、よくあるこった。

 ふ〜んって感じ。

 俺も詐欺師だしね!


 ……今、ちょっと忘れかけてたけど。


「とりあえず、今日は休もうぜ!

 俺は少しフーガとウスタのところに様子を見に行ってくっから、オメェらはここで休んでてくれよな!」

 フーガ? ウスタ?


 ああ、フーとウーか。

 行ってらっしゃ〜い。


 ブーはニカッと気色の悪い笑みと親指を立てて出て行った。

 明らかに気を使われた。


 ナイスだ! ブーよ!!


 ウキウキしながらナデシコ娘を振り返ると……片膝を付き、こうべを垂れている。


 あ、あれ?


「あ、あの〜?」

 どしたの? ナデシコ娘。

 その状態のまま、ナデシコ娘は話す。


「ゴンザレス様へのご無礼、何卒お許し頂ければ」


 なん、だと?


「ナ……君は、俺の知っている棟梁の?」

「はい、ナユタです。

 お久しぶりです、ゴンザレス様」


 ナユタちゃんね。

 名前ゲット。


 ……いや、そういうことではなくて。


 この娘、なんで俺の部下みたいな態度取ってるの?

「とりあえず顔、あげようか」


 顔をあげると真剣な眼差しで俺を見つめてくるナデシコ娘。


 もう何回目になるか分からない、不思議ワールドだ。

 俺はダムを破壊して……いや、あれは事故だ。


 事故だったのよ、ゴンザレス。

 ……不運な事故だった。


 だが、里の者からするとダムから流れた大量の水が、里の畑を全滅させたはずで。


 そうなると当然、誰がダムを破壊したのか。考える事もなく容疑者ゴンザレスへの疑いは極大にまで膨れあがる訳で。


「里は……」


「あの後、皆で山を降りカストロ公爵領に、身を寄せさせて頂いておりました。

 里の者は任務で散っておりますゆえ、こちらの街に入り込んでいる里の者は私ともう1人だけです」


 里を捨てたか。

 なら、恨みこそしても忠誠を誓う意味はないはずなんだけど……。

 ということは隙あらば始末しようと!?


 あんれぇ〜?

 さっきまで俺気絶してたぞ?

 いつでもトドメさせたぞ?


 あれかな?

 己の罪を悔い改めて?

 反省なんかしないよ?

 土下座ぐらい軽くしてみせるけど。


 そうか、先手必勝! それで行こう!

 名付けて俺は悪くないけど、ごめんなさい作戦!!


 俺はその場で即座に土下座する。


「すまなかった。

 里を……守れなかった」


 それにナデシコ娘は明らかに動揺しながら、俺に駆け寄り身体を起こさせる。


「いえ!!

 ゴンザレス様は私たち皆の恩人!

 そのようなことはなさらないで下さい!」


 恩人?

 ダム作り指導しただけよ?

 しかも壊れたし。


 まあ、許してくれるならいいか。


「許してくれると言うのですか。

 なんとお優しい」


 ナデシコ娘の手を握る。

 ここで大事なのは、許してくれたと断言すること!


 そして、それを口実に(?)押し倒す!!

 押し切れ! 押し切れー!!!


「当たり前です!

 返し切れぬ恩こそあれど、許しを乞うことなど何一つありません!」


 おおう、ナデシコ娘、超優しいな。

 だが、ゲヘッヘッヘ。

 その優しさは詐欺師の好物でっせ?


「……しかし、流石です。

 援軍を要請してもう来られるなんて、しかもゴンザレス様自らなんて。

 これで革命軍も一つにまとまることが出来ます」


 あん?


 革命軍ってなんぞや?

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