第137話逃亡者ゴンザレス⑤

 荷馬車の馬は良く頑張った。

 4人も連れていたのに街まで素晴らしい馬力を発揮した。


 そのことをアピールして街で即売り払った。

 非常に良い値で売れた。

 ありがとう、馬!!


 依頼主の馬だが、知らん。

 どうせ犯罪者である依頼主はカストロ公爵領の優秀な奴らにとっくに捕まってるだろ。


 なんせカストロ公爵の屋敷の中に、アイツら依頼元の資料があってそれを盗み見て、あのアジトに行ったんだからな。


 つまり俺はそんなマル秘情報を見事に入手して、カストロ公爵領脱出を敢行したというわけだ。


 クックック、ダメだよ〜?

 重要書類をその辺に置いてたら。

 まあ、不思議なことにどんな資料も見れる立場にさせられていた訳だが。


 わたくしは一体、誰かしら?

 詐欺師だと思ってますのに、誰もそう思ってくれませんことよ?


 とにかく、その金で3人に服を買い宿で風呂に入らせ身綺麗にさせた。

 汚い格好のままでは捕まえて下さいと言わんばかりだ。


 カモフラージュのために俺1人で行動するよりも、この3人と行動を共にする方が逃げやすいと判断したためだ。


 木を隠すなら森の中、犯罪者を隠すなら犯罪者の中である。

 本当は詐欺師を隠すなら普通の人たちの中なんだが贅沢は言えん。


 あまりの汚さに宿の主人に疑われかけたが、盗賊に襲われて必死に逃げたことを話す。


 嘘は言ってない。

 宿の主人の前に居たのは、屈強な男3人の盗賊だ。


 さて、のんびりはして居られない。

 すぐに馬を使って追っ手がかかるはずだ。


 とにかく4人で飯を食いながら対策を練る。

 3人には依頼主追っ手が来るはずと伝えた。


 多分、来るのは依頼主当人ではなく、依頼主を捕まえたカストロ公爵領のヤツらだけど。


「ブーフーウー兄貴たち。

 なんとか次の街に入りたいが案はあるか?」


 次の街に入ればベック伯爵領だ。

 領主本人はケーリー侯爵の捕虜となってるから、その息子が領主代理となっているが評判は良くないというか、はっきり悪い。


 だからこそカストロ公爵の追っ手も巻きやすい。

 悪人を隠すなら悪人の中、である。

 ブーフーウーの3人は顔を見合わせる。


 彼らは実は元ベック伯爵の兵だったらしい。

 負け戦で逃げ出し逃亡兵となってしまったので、ベック伯爵領に帰らずに盗賊となる道を選んだ。


 そしてカストロ公爵領に流れ、最初の獲物が俺という運が良いのか悪いのか。


 俺にとっては運が悪い訳だが。


 ベック伯爵も捕虜となったので、遅れた帰還兵としてなら戻ることは可能だと思われた。

 3人の盗賊もとい帰還兵が俺を同じ部隊の兵士だと認めれば、疑われる可能性はかなり低くなる。


 俺たちは頷き合いすぐに行動を開始した。

 こういうのは時間との勝負だ。


 少しだけ仮眠を取り、夜も明け切らぬうちにすぐに行動を開始。

 馬は売り払ったので歩きだ。


 どこか警戒の薄い家で馬でも盗みたいが、そんな都合の良い家はなかなかない。


 とにかく歩き詰めした成果はあり、数日の内に目的の街に辿り着いた。


 入り口で多少警戒が必要かと思ったが、顔見知りらしく簡単に通してくれた。


 俺はブーの家の3軒隣のろくでなしの三男坊ということで門兵に説明された。

 間違っていない。

 俺の中の俺はそんなイメージだ。


 とにかく帰還兵として本来なら幾ばくかのお金が出るらしいが、パック伯爵子息の領主代理は敗戦を兵の責任にして一切払っていないらしい。


 ふてぇ野郎だ!


 とりあえずブーのお家に向かう。

 その途上。

「ゴンザレス、様……?」

 長い黒髪の可愛らしい女性。


 滅びたとされる伝説の『古き良きヤマトナデシコ』が現存していればこんな雰囲気であろう。


 ギリギリA級美女。

 磨けばさらに光輝くたんぽぽのよう。

 要するに可愛い田舎娘。


 まあ、うん。


 ……誰?


「あ……覚えて、ないですよ、ね」

 A級たんぽぽは寂しそうに笑う。


 ズキューンとクル感じ!


 誰だ! 思い出せ!

 思い出すのよ、ゴンザレス!!

 そうだ! ゴンザレスを辿れば良い。


 ゴンザレスと名乗ったのは……。

 スラム時代、A級美女居ない!

 そんな美女居たら一瞬で何処かに連れて行かれてる。


 後はゲフタル。

 美人揃いだったが種類が違う。

 同様にゲシュタルトも違う。


 後は、海賊時代は……ジャックと名乗ったな。

 これも違う。


 後は……。

「隠れ里の……」


 A級たんぽぽが花が咲いたように、ぱぁ〜っと笑う。

 あれ? こんな可愛い子居たっけ?

 居たらあの里で骨を埋めてたかもしれない。


 まあその後、ダムが壊れる『事故』でどっちにしても逃げた気がするが!


 似たような感じの娘は……。


 ふぉおおお、わいのシックスセンスよ!

 呼び覚ませ〜!

 呼び覚ますのよ、ゴンザレス記憶!


 ……居た。

 棟梁の娘だ。

 里1番の器量良しだったが、それでも栄養が不足していたせいだろう。

 ガリガリに痩せていて辛うじてB級美女だったはずだ。


「綺麗になったなぁ……」

 ゴンザレスもびっくりのビフォーアフター。

 栄養状態悪かったもんね、あの里。

 ダム崩壊の『事故』でもっと壊滅的になっただろうなぁ……、じ、事故だから仕方ないんだからね!


 あれ?

 この娘なんで、ここに居るの?


 もちろん、決まっている。

 復讐だ!!


 苦渋を舐め、忍び難きを耐え、己を磨き、俺が罠に引っかかるその瞬間を待ち続けていたのではないか!!


 そうして考えてみると温かさを伴ったたんぽぽスマイルが、『ワレェ、覚悟せえや!』という恐ろしいものを含んでいる顔に見えなくもなくもなくもない?


「ゴンザレス様ぁぁぁああああ!!」


 そんなたんぽぽ娘が俺の身体目掛け涙を流して特攻を仕掛けてきた!!!

 ヤ、ヤられる!?


 うわぁぁぁああああああ!!!!!!

 見事なタックルで俺は吹き飛ばされた。


 綺麗=魔力が洗練され、強い。

 これ大事。

 アンタも世界を狙えるぜ?


 俺は気を失った。





 意識を取り戻すと、そこは何処か落ち着きのある古びた建物の中で額に濡れた布が当てられていた。


 藁で編んだ敷物に寝かされている。


 トントンと、リズム良くなる音。

 漂うスープの美味しそうな匂い。

 俺はその匂いで自分が空腹だったことに気づく。


 寝ている位置から厨房が見える。

 料理を作っていた人物が満面の笑みで振り返る。


「おう! 起きたか!」

 包丁を持ったブーだった。



「なんでだー!!!

 そこは普通、美女だろうがぁぁああああ!!!!」

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