第136話逃亡者ゴンザレス④

「さあ、兄さん方。

 こうなったら、乗って4人で大金を手にするか、それとも降りて地道な盗賊稼業に戻るか、2つに1つ。

 乗るかそるか。

 俺はどちらでも良い。

 納得する答えを出すといい」


 不自由な2択という奴だ。

 だが、そもそもそんな2択など初めから無いんだけどね。


 地道な盗賊稼業に戻られたら俺の命が危ない!


「もし、それの依頼主にバレたら……」


『もし』頂きましたー!!

 この言葉が出来たらほぼOKの返事です!


 皆さんも自分がその言葉を言ってしまったら注意しましょう!

 無意識に相手の提案に乗ってしまっているということです!!


「バレたらおしまいだろーな。

 だったらどうする?

 怖気付いてやめるか?


 まあ、金貨20000のヤマだ。

 手にすりゃあ人生大逆転だが、負ければそりゃおしまいだろうよ。

 当たり前だ。

 ああ、当たり前だとも!」


 俺は両手を広げて見せる。

 自信満々に。

 貴様らは勝負に乗りもしない腰抜けか、と雄弁に騙るように。


「ブレン。俺は乗るぞ!」

 迷うオッサンAに対しオッサンBは言う。


「フーガ。しかし!」

「ブレン、俺も乗った!

 こんなこといつまで続けてても先がねぇ!

 俺は……、俺はその金で家族を買い戻す!」


 荷物を確認したオッサンCが叫ぶ。


「ウスタ……分かった。

 テメェの話、乗ろうじゃねぇか。

 俺たちはたった今から一蓮托生だ」


「へっへっへ、俺はゴンって呼んでくれ」

 手を差し出すので握手してニヤリと笑う。


 お買い上げありがとうございます。

 ですが、詐欺ですのでご注意下さい。


 そうして、俺は荷物の無事を確認するフリをして秘密の荷物を初めて見た。


 愕然がくぜんとした。


 場合によっては僅かでも売って、金にしてコイツらに責任を押し付けて逃げようと思っていたが、コレは売れねぇ……!


 価値がない訳じゃ無い。

 価値はある。

 あり過ぎる。

 嘘から出た真という奴だ。


 コレなら本当に金貨20000ですら売れてしまうだろう。


 だが、おいそれと売ることはできない。


 ああ、コレは確かにご禁制の品だ。

 バレればヤベェ、間違いない。


 それを俺は誰よりも知っていた。

 この世界で唯一、使用したことがあるのだから。


 そこには、手のひらサイズの箱とマーカーと呼ばれる物体で、何かに貼り付けられる布みたいなもの。





 聖剣の発動スイッチやないかーい!!!





 必死に動揺を隠しながら俺は思った。

 せっかくなので本当にこのオッサンどもを巻き込もうと。

 いざとなったら、このオッサンたちに押し付けて逃げるために。


 とにもかくにも移動だ。

 そこでふと俺はある事に気付いた。


「ブーフーウーの兄さん方。

 カストロ公爵領に来てどれ程になる?」

「あん?」


 俺ものんびり話していたが、このオッサンたちも呑気である。

 カストロ公爵領は盗賊に厳しく、かなり定期的に街道を治安維持部隊が周回している。


 何故って?

 ……俺が安全に旅をするためだ。


 盗賊とか出たら、1人旅の多い俺が困るから徹底的に周回する様に頼んだ。


 そうとも!

 カストロ公爵〜?

 誰ソレ、何処の偉い人というが如く、俺は1人旅に戻る気いっぱいだったのさ!


 その結果、カストロ公爵領に繋がる街道は、世界でも有数の安全な街道だ。

 商人も安心して通れるからお金も循環しやすい。

 良い事づくめ。


 最近は内乱のため少しは滞っているが、致命的なほどではないはずだ。


 そして今、俺たち4人。

 見た目も実態も盗賊の御3方と逃亡者の俺。


 つまり……ヤベェ!!

 急いで逃げないと捕まる!!!!




「兄さん方! 

 とりあえず馬車に乗んなせえ。

 話はそれからだ。

 ほら、早く!」


 戸惑いながら2人が荷台に乗り、1人が俺に刃物を突き付けながら俺の隣に。

 クセェ、風呂入りやがれ。


「おかしなマネをしやがると……」

「そういうの後で良いから急いで急いで。

 追いつかれる!」

「お……おお」


 オッサンは俺に刃物を突き付けたままだが大人しく座る。


「ど、どういう事だ!?」

 隣のブーなんとかが問う。


 俺はカストロ公爵領の盗賊対策の徹底ぶりを教える。

 ブーフーウーの3人の男たちは蒼白な顔になる。


 どうやら3人はここに流れついたばかりのようだった。

 そこに運悪く通りがかったのが俺と言う訳だ。


 ついてねぇー!!


「とにかく急いで身を隠さねぇと!!」

 俺は必死に馬車を操る。


 くそっ! 時間を無駄に浪費した。

 この3人が街道を行く人に少しでも見られていたら、通報されて騎馬の治安部隊が出動する。

 職務質問されたら、流石に今度ばかりは逃げ切れる自信はない!

 俺がカストロ公爵としてカストロ公爵領入りした姿を、一般庶民含め多数の人が見ているのだ。


 誤魔化せん!


 追いかけて来るであろう治安部隊は、治安維持を徹底するために馬術の得意な精鋭だ。

 白ウマ隊と名付けた。


 ……そうなのだ。

 これまた俺がノリで作った部隊だ。


 間違いなくそれがやって来るだろう。


 ブーフーウーが揺れる荷馬車に戸惑いながら叫ぶ。

「なんでオレらより必死なんだー!?」


 色々あんだよーー!!!!!!!

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