第136話逃亡者ゴンザレス②
そうだ、全てが狂い始めたのはあの名が愚民どもから聞こえ始めた辺りだ。
世界最強No.0。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。
曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。
曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
だが、その正体は一切不明。
男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。
それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。
なんだそれは?
グローリーは思った。
それではまるで頂点ではないか!
その場所はNo.0などのものではない!
この栄光の名を冠するグローリーの物だ!!
グローリーはその妄執こそが、世界の叡智の塔の影響であることに気付くことなく、己の欲望を肥大させついにエストリア国に反旗を翻した。
それはある時まで上手く行っていた。
ある時……それは無能なる者どもが、エストリア国王女を取り逃がすという大失態をした辺りからだった。
さらなる致命的なズレが生じ始めたのは。
その頃から王都の娼館辺りから派閥の貴族の醜聞が流れ出した。
やれ金を踏み倒したなど、やれお気に入りの娼婦を手にしようと嫌がらせをしたとか、やれ変態的行為を強制しようとしたとか。
聞けば聞くほど、呆れてしまうような醜聞ばかり。
貴族は名誉を第一とする。
それが醜聞により貶められる。
それがなまじ事実であるためにさらに始末が悪かった。
ただでさえ反乱側ということでイメージは良くない。
中には表を歩け無くなった者も居る。
華々しい戦果でも有れば良かったが、あるのはその真逆。
3倍以上の兵が、一方的に機略により叩きのめされた事実のみ。
当然、その噂はこの王都まで流れて来ている。
それ故に、反乱時は勇んで王都に集まった派閥の貴族たちも、今では隙あらば理由を付けて領地に帰ろうとする始末。
しかも、しかもだ。
カストロ公爵領にコルラン国、帝国のナンバーズを集め、戦いになれば大国2国も援軍を送る様子を見せる。
それだけでなくエール共和国、バーミリオンからも非難の声が上がり、カストロ公爵を支持する声明を発表。
冒険者や傭兵もグローリー派には付かないと声を上げている。
エストリア国の2/3を手中に収めながら、逆に世界から見れば全方位を囲まれ完全に孤立してしまったのだ。
それを仕掛けたのが、カストロ公爵アレス。
だが、如何に優れた者であろうと暗殺してしまえば良いのだ。
しかし! 奴は何故かカストロ公爵領に全く姿を見せない。
少しだけの間、領内で姿を見せたと思えばまた忽然と姿を消した。
これでは暗殺のしようがなかった。
そもそもカストロ公爵アレスとは何者なのだ!
ケーリー侯爵が土地を譲渡した元ウラハラ国の公爵の遺児と言う。
コルランを追い返したのは良くやったと言っても良かったが、転移でもしているかのように事あるごとに様々な場所で名前が上がる。
時には、元レイド皇国皇女メリッサを愛人として連れ回して、会談を行ったというよく分からない噂まで。
元レイド皇国皇女メリッサを手元に置いているならば、もしや真実を知ってしまっているかもしれない。
だが、それも本当のところは分からない。
まるで、そうまるで世界ランクNo.0のような奴だった。
噂通り奴が世界ランクNo.0だとしたら……。
No.0は魔王すらも指先1つでダウンさせた、という滑稽な噂まである世界最強。
派閥が崩壊するのは時間の問題であった。
そのせいで軍を動かし勝てる見込みもないのではないかと、派閥貴族も完全に尻込みしてしまっていた。
軍を派遣したくても出来なくなってしまっていた。
その結果、何の手も打てずグローリーはイラだつ事しか出来なかった。
とある詐欺師の『嫌がらせ』は娼館への噂だけであったが、ついでのように各地でカストロ公爵アレス、および世界最強No.0の噂がそれに乗っかった。
つまり魔王すら討伐した世界最強No.0が本気でグローリーと敵対した、と。
グローリーも、とある詐欺師が一切意図していない方向に飛び出して噂はもう止まらない!
どうしてこうなった!?
そんなふうに違う場所で、詐欺師と叛逆者の2人が同時に叫ぶなど、邪神すらも思うまい。
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