第134話ゴンザレスとカストロ公爵⑥

 イリスは手を広げ、皆に指示を出す。


「出陣準備をしている者以外はアレス様捜索任務に移れ!

 これは最優先任務である!

 繰り返す、最優先任務である!

 我らの命運がそこに全てかかっていると心得よ!」


 いつの間にか、気配もなく控えていた黒づくめたちが一斉に御意と言って散って行く。


 かくして、カストロ公爵領の全力を尽くしたアレス捜索作戦が開始された。


 エストリア国王女セレンは一体どうなっているのか分からず意味もなく右往左往し、カレン姫は相変わらず行動力はナンバーズ並みよねぇ、と笑う。


 彼を知るそれぞれは彼らしいと苦笑いを浮かべるしかなかった。


 なお1番怒り出すと思われていたエルフィーナはそれを聞いた際、怒るよりもまず呆れた。


「捜索は海まで広げた方がいいわよ?

 あいつの行動範囲、ちょっとおかしいから。

 偶然で魔王城に来るぐらいだし」


 それを聞いた魔王討伐軍参加者は戦慄と共に納得した。


 有りえる、と。


 だがそれも含めまるでこの出来事が運命であったかのように、彼女たちを翻弄する事態が発生した。


 この報告を聞いた時、最も衝撃を受けたのは他ならぬエルフィーナであった。


「なんで……なんで、そんなものが!」


 その日、アレスに荷物を預けた秘密組織は、その日の内にカストロ公爵領の本気により徹底的に潰され明らかにされた。


 世界ランクナンバーズが4人も秘密組織討伐に参加していたのだ。

 抵抗する術があろうはずもない。


 彼ら秘密組織もカストロ公爵領の調査が進んでいたことに気付いてはいた。


 いずれは嗅ぎ取られ追い込まれる。

 しかし、今回のの運搬は秘密組織にとっても大きな仕事で、無しにすることは出来なかった。


 それ故にアレスに対する十分な吟味もないまま、アレスに荷物を預けざるを得なかったのだ。

 彼らが知ってか知らずか、アレスに託したモノ。


 それは、手のひらサイズの箱とマーカーと呼ばれる物体で、何かに貼り付けられる布みたいなもの。


 聖剣の発動スイッチと同様の存在であった。


 そして、運命は加速する。






「こうなっては情報の洗い出しが必要です。

 一度帝国に戻ろうと思います。

 カレン姫様も戻りましょう」


 アレスの居なくなったソファーにグデーンと寝転ぶカレンにメリッサがそう促す。


「まあ、アレスさんも居ないからねぇ。

 一旦戻ろうかな」

 こうして、帝国メンバーは帰国する。


「僕も一度コルランで国の方針を確認するよ。

 パーミットにも逢いたいしね」

 No.1含め、コルランの兵も。


 残されるエストリア王女セレンは困惑と不安でいっぱいだったが、イリスが優しくフォローする。


「ご心配なく。

 アレス様は我らを見捨てたりは致しません。

 その証拠にエストリア国『反乱軍』は今この時も、なんら動きを見せていないでしょう?


 恐らく、すでにアレス様の神算鬼謀の策の上……」


 イリスはまだ知らないことではあったが、それは真実であった。


 アレスはカストロ公爵領に来る前に、ある『嫌がらせ』を王都に滞在する『反乱軍』に対し仕掛けていた。

 それが予想外の効果を挙げているということを。


 恐るべし!

 まさに詐欺。


「ですので我らは決戦の準備を進めながら、アレス様捜索に全力を尽くせば良いのです」


 いつの間にか力強く温かな、そんな雰囲気がイリスには備わっていた。

 セレンはその言葉を信じることにした。


 もちろんセレンは知らない。


 どれほどアレス捜索に人を投入してもアレスがそう簡単に見つからず、訳が分からない場所で突然、姿を見せる、そんな神出鬼没の世界最強No.0そのものであることを。


 彼女はまだ知らない……。

 すでに詐欺に掛かっていることを。


「アタシはアレスを追いかけてみるわ。

 あいつが持っているのがもし聖剣に関わりがあるなら、それは魔王と関係があるのかもしれないから」


 終わったと思っていた役目はまだ終わりではないのかもしれない。

 それはアレスと行動を共にする事で明らかになるかもしれない。


 こうして集まった仲間たちはまた、それぞれに散り散りになる。

 それはやがて大きな流れの中で集まることになるだろうと、誰もが予感した。


 詐欺師のとある男以外。

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