第133話ゴンザレスとカストロ公爵⑤
あいも変わらずカストロ公爵家は今日も大忙し。
もちろん、俺以外。
流石にエルフ女の目が荒んで来たので、適当に手を抜けば良いのに、と言ったらどつかれた。
なんだかんだ言いながら、引き受けた仕事は全うしてくれているのだから、黙って働かせておけば良かったのだ。
ちなみに俺は定番ソファーでゴロゴロ、たまにやってくるカレン姫とか相手しながらやっぱりゴロゴロ。
わたくし、こんなにゴロゴロしてて良いのかしら?
詐欺師を引退してゴロゴロ虫になりそうですわよ?
仕方ない、することないんだもの。
でも飽きた。
俺は根っからの根なし草。
そもそも何故、俺はここで豪華なソファーで美女はべらして転がっているのだろう?
考えてもみてくれ。
日々あくせく奴隷の如くチンケな詐欺を繰り返していたら、野良元王女を引っ掛けてしまい、あれよあれよの間に豪華な屋敷の主としてこれまた廊下さえも豪華な天井を眺めながらソファーに寝転び、時々皇女とか元王女とか王女とか元皇女とか、エリート騎士とかついでにエルフとかが一緒にソファーに寝転びに来る。
最高じゃないかだって?
ああ、もちろん、夢に見ることすら出来ないほどの夢物語だ。
でも怖いの。
お願い、常識で考えて?
転生してやっふーなんて言ってる場合じゃないのよ?
正気に戻って!!
そんなことを言っていると、怖〜いお兄さん(心はお姉さん)にケツ毛を抜かれるわよ!
ということで、街に出て仕事をしようと屋敷を抜け出した。
そもそも、詐欺師をしていたのも仕事がなかったからだ。
前に斡旋所で運悪く、同じ穴のムジナに引っかかってしまったが、そうそう何度もそんなことがあるわけもない。
裏通りらしい雰囲気の場所を歩きそれっぽい店に入る。
すでに事前の準備は終えてある。
荷物運びの仕事だ。
以前、アストの名で冒険者登録していた時の名義を使う。
荷物の中身?
馬鹿言っちゃあいけない。
こういうのは、知らないでいることも依頼の一つさ。
黙って行くとエルフ女に殺されちゃうので、ちゃんと置き手紙をしておいた。
『ちょっと仕事行ってくる』
そうして、俺は荷馬車を操り、カストロ公爵領の街を出た。
その手紙を最初に見つけたのは、いつもソファーを掃除していたメリッサだった。
『ちょっと仕事行ってくる』
それを見た瞬間、メリッサは崩れ落ちた。
彼の意図に一瞬で気付いてしまったからだ。
「あなたの仕事は公爵じゃないんですかぁぁぁあああああ!!!!!
逃げたらエストリア国崩壊するって言ったのに!
しかも、また置いて行かれた〜!」
常にクールでしっかりとした様子のメリッサもこれには手紙を抱えてへたり込む。
でも、これはメリッサも気付くべきだった。
アレスが初めから国など、どーでも良いと思っていることに。
これはアレス本人も気付いていない性質ではあったが、単純に女性陣の誰かが困るからと言った方がアレスは大人しくしていたことだろう。
いずれにせよ今回は今までと違う。
早急になんとかしなければならない。
メリッサもいつまでもへたり込んでいる訳にはいかないのだ。
だがこの時、いくら優れていても神ならぬ身のメリッサは気付いて居なかった。
エストリア王女救出の際に、アレスからメリッサが請け負った『嫌がらせ』の意外な効果に。
後にメリッサがその事に気付いた時、アレスの底知れなさにまたしても戦慄することになる。
とにかく現在進行形でへたり込んでいるメリッサの肩を、イリスがポンっと叩く。
「ご安心をメリッサお姉様。
捜索の手筈は整っています」
以前ならアレスが逃げ出すと共にへたり込んでいたイリスが、柔らかな笑みと強い意志の瞳を宿してそう言った。
良くも悪くも、カストロ公爵家の『お嬢』をアレスがついに手を出してしまったことで、イリスの迷いを完全に取り除いてしまったのだ。
そこには国を失い全てを失って自棄になり、No.0に依存していた少女の姿はない。
ある意味、依存よりも遥かに深くチンケな詐欺師にのめり込んでしまった 1人の超S級美女の誕生であった。
人はそれをヤンデレと呼ぶ。
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