第132話ゴンザレスとカストロ公爵④

 内乱の状態のエストリア王国で、こんなにのんびりして良いのかと言われそうだが、軍隊というのは言ってすぐ動ける訳ではない。


 人を集め、訓練して、その間に食料やら計画やら他国との調整やらしなければならないことが山のようにある。


 だから、忙しいのである。

 俺以外。


 俺はこの隙に逃げたかったけど、逃げたら殺すと兵の訓練を四六時中しているエルフ女に殺気いっぱいで脅された。


 紛う事なき脅しである。

 他の誰よりも奴だけは俺が1番恐れていることが分かっている。


 エルフ女は仕事なんて出来ないかと思ってたけど、忘れていたがこの女は勇者のお師匠様だったので教えることは上手だ。


 仕事頑張れと言ったら剣を振り回して追いかけられた。

 俺の常識の守護者は死んだようだ。


 そんな訳で逃げないことを約束さえすれば割と自由に動けた。

「押さえ付けると逆にご主人様はどこに行くか分かりませんから」

 メリッサにため息を吐かれた


 メリッサとイリス、時々何故か帝国皇女様についでにツバメとチェイミーにエルフ女にまで夜のご褒美も貰えて、俺はこのまま流されてカストロ公爵にさせられてしまいそうである。


「いや、最初からあんたがカストロ公爵でしょ!?」


 エルフ女がそんなことをほざくが、認めなーい、認めなーい。

 チンケな詐欺師をS級美女ハーレムが囲いにかかるファンタジーなんてあり得なーい。


「認めないのも実にご主人様らしいですが。

 ただ、逃げないで下さいね?

 ご主人様が逃げたらエストリア国は即崩壊しますよ?」


 そうらしい。


 帝国、コルラン国、エール共和国、バーミリオン、そしてエストリア国。

 全ての国を繋いでいるのが、カストロ公爵アレスなる人物だそうだ。


 俺じゃない、それは断じて俺じゃない。

 誰だよ、その超大物!


 俺だよ! ちっくしょー!!!





 常識の守護者すらも崩壊してしまった世界で俺はふらふら彷徨う。

 まあエルフ女に関しては仕事押し付けたの、俺なんだけど。

 俺に兵の指導なんか出来る訳ないじゃん。


 暇なので内政官男を捕まえて、噂の『お嬢』の居場所を聞いた。


 俺がカストロ公爵なら俺を慕ってる美女がいるってことだろ?

 是非頂かねば。


 俺としてはあの奴隷王女のことかな?

 そんな風に想像しているけど。


 これ以上ハーレム増やす気かとツッコミが俺の心のアレスがそう言うが、俺の心のゴンザレスが美女が居るなら口説くのが礼儀だろと言うので、なるほど、それもそうだと心のアレスも深く納得。


 そんなわけで聞き込み、聞き込み。


「お嬢ですか?

 今なら執務室で書類の決済を公爵様の代わりにしているかと」

 へー、俺の代わりに頑張ってくれているって本当なんだ。


 早速、行ってみる。


「あ! アレス様!」

 ぱぁ〜っと花の咲くような笑顔で俺を見てくるNo.8が居た。

 騙された。

『お嬢』ではなくNo.8が居る。


 気のせいだと思って、バタンと扉を閉じる。

 また開けるとシクシク泣かれた。

 出会った時の怖い印象が残ったままなので泣かれても怖い。


 可愛いけど怖い、これ如何に。


 仕方ないから少しだけ構ってやっても良いんだからね!

「頑張っているか?」

「はい! アレス様のお力になれるように精一杯やります!」


 立ち上がり俺の袖をそっと掴む。

 おうふ、笑顔が眩しい!


 ば、バカな光の波動だと!?

 闇に堕ちたNo.8はいつから光の使徒となったのだー!?


 ……俺も少し動揺していたようだ。

 書類をピラッと見る。

 人事権についての采配に、意思決定に対する同意書、軍編成の意見書に、承諾書。


 まあ、要するにカストロ公爵の仕事。


 見なかった。

 俺は何も見なかった。


 チラッとNo.8を見る。

「どうしましたか?」

 あざとく小首を傾げて来た!


 それは飲み屋のベテランお姉ちゃんのテクニックだ!

 いつの間に!?

 精進したな!No.8。


 いきなり斬りつけられる恐怖を思い出さなければ、どこからどう見てもただの可愛いS級美女である。


 そしてとても俺に懐いている気がする。

 俺の中の大切な何か、具体的には常識とかがガラガラ崩れそうなので逃げておいた。


 しばらくまたフラフラして、今度はセボンとかいう武闘派男に『お嬢』の居場所を聞く。


「『お嬢』ならさっき兵の訓練状況確認してましたよ」


 そうか、入れ違いになっていたか。


「お嬢はお館様のためにずっと頑張っています。

 俺たち家臣一同はお館様にお嬢を……」


 本気で慕われてんなぁ、もうお嬢がカストロ公爵様でよくない?

 ダメ?


「分かってるよ」

 まあ、S級美女らしいのでカストロ公爵様として、美味しく頂きますよ?


 頼みます!

 武闘派男は頭を下げる。


 しっかし、ほんとここまで慕われてるお嬢は一体どんな娘なんだ?

 健気な娘さんらしい、グエヘヘヘ。


 兵の訓練場に着くと土煙を上げてNo.8が走って……突っ込んで来た。

「アレス様ーーー!!!」


 タックルされるかと思ったが、目の前でピタッと止まりモジモジされた。


 あれ?

 お前ってそういうキャラだっけ?


「何しに来たのよ?」

 人を殺しそうな目で俺を見るエルフ女。


 ちょ〜っと徹夜仕事を3日ほど押し付けただけで心の狭い奴だ。


「あ、お館様」

 おお、奴隷娘ルカちゃんではないか。

 やはりルカちゃんが『お嬢』なのだろう。


 うむ、この娘もポテンシャルは非常に高い。

 磨けばNo.8に匹敵するだろう。

 この娘もS級と言って良いが、世界ナンバーズの美女度数はその美しさにおいても世界クラスなのだ。


 あれだな、この娘ならイメージお嬢っぽいな。

 使用人たち一同、親の気持ちになるのだろう。


 S級しか受け付けない身体にされたけど、十分許容範囲。


 確認したからもう大丈夫。

 今夜にでも美味しく頂くとしよう、ぐへへへ。


 長居すると血走った目のエルフ女に仕事させられるから逃げよう。


 そうして夜になると元娼館の女主人で現カストロ公爵領のメイド長に、『お嬢』に部屋へ来てもらえるように頼んでおいた。


 夜伽のお呼び出しである。


「お嬢もこの日を心よりお待ちして居たはずです。

 どうぞ優しくしてあげて下さい」

 そう言って泣きながら呼びに行ってくれた。


 言うまでもなく、No.8がやって来た。


 うん、そうだよね。

 もうなんとなく分かってた。


 アーーーーーー。


 美味しく頂かれた。

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