第131話ゴンザレスとカストロ公爵③
娼館で女を身綺麗にさせた後、俺は女を連れてその足で仕事斡旋所に戻り、相変わらずやる気が無さそうにこちらを無視したおっさんに声を掛ける。
「おっさ〜ん、連れて来たぜ」
おっさんは面倒くさそうにこちらを見る。
だが、俺が連れて来たおんを見てすぐに驚いた顔をした。
そして先程見たようなニヤついた笑みを浮かべる。
このおっさんの極悪な性質をよく表しているステキな笑みである。
「意外だな。
本当にアテがあったのか?
……悪くない」
「まあな、悪くないどころか『上物』だと思うがね?」
俺がおっさんに紹介した女は不安そうにこちらを見ている。
「んで、仲介料とか無いのか?
それなりに元手が掛かってんだ」
元手を掛けたのはカストロ公爵領の奴等だがね。
俺は1銅貨も払っていないが気にするな。
詐欺とはそういうものだ。
「そこのねえちゃんは納得済みか?」
女は躊躇いつつ、頷く。
「ほらよ」
ピンっと銀貨3枚。
「おいおい、そりゃねえだろ!
もう少しなんとか……」
そこにもう一つのカウンターからペキポキと腕を鳴らしてにいちゃんが出て来る。
やっていることはどう見ても裏稼業である。
公的施設の仕事斡旋場のはずなのに……。
「すみませんが、ここはカストロ公爵領の斡旋所ですので、それ以上揉め事は困りますねぇ〜」
俺と対応した時よりもにこやかな顔で。
やはりグルなのだろう。
当たり前か。
「ちっ」
不安そうな女を置いて俺は逃げるように斡旋所を出る。
そのすぐ角の路地にて。
「ウッシッシ。銀貨3枚儲け」
あの後、女をどう説得したか?
実は大した説明はしていない。
というか騙した。
カストロ公爵の屋敷で取って来たカストロ公紋章(いつ誰が作ったんだ?)入りの指輪を見せて、内偵調査に協力してくれと頼んだ。
どう見ても純朴そうな娘だったので田舎出だったのだろう。
騙して売った。
それだけ。
俺の立場も説明してないのに簡単に騙されたらダメだぞ?
これも大都会の洗礼だ。
申し訳程度に、衛兵所に斡旋所のことについて手紙を放り込んでおいた。
普通はここまでしないんだが久々の詐欺で浮かれていたらしい。
俺もヤキが回ったという奴かもな。
少ない元手だが、これで旅に出ようとしたがイリスにすぐ捕まった。
定位置のソファーで説教という名の尋問を受ける。
洗いざらい自白しその結果、斡旋所のおっさんとにいちゃんは人攫いの罪でお縄となった。
人をよく見て詐欺にかけていたらしく、なかなか尻尾を出さなかったらしい。
今回は俺を見てどう見ても同じ穴のムジナにしか見えなかった、と。
まさか公爵本人とは夢にも思わなかった、と。
……だって同じ穴のムジナだもの。
俺がおっさんたちの目の前に現れた時に目を丸くして、詐欺だと叫びやがった。
詐欺の言葉に俺が同意したが、イリスがそれを無視して俺をカストロ公爵様であると宣言し、連れていた兵全員がカストロ公爵様であることを認めた。
こうして少数意見の俺たち詐欺師チームのオレオレ詐欺師の言葉は封殺された。
これが多数決の原理か……。
ちなみにだが、あのねえちゃんは優秀だったらしくこの屋敷で働いている。
ターナーちゃんというらしい。
母と一緒に違法の奴隷商から逃げ出したらしい孝行娘だそうで。
こうしてカストロ公爵領の仕事斡旋所にて悪事を働いていた輩はカストロ公爵ご本人の内偵調査により見事お縄となり、仕事斡旋所の健全化が行われた。
世直し公爵の噂が街に流れやがて一大公演として演劇や本になっていくのは、また別のお話である。
無論、詐欺を働こうとしたどこぞの詐欺師の話は……どこにも出て来ることはなかった。
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