第130+1話ゴンザレスとカストロ公爵②

 俺はもはや定番の場所となったソファーでゴロゴロしている。


 屋敷は以前のデッカい屋敷からさらにデカくなってた。


 ねえ? カストロ公爵家にいる君たち。

 キミたちはいったい何処を目指してるの?

 この屋敷、ゲシュタルト王国の王宮並みにデカイんだけど?


 そんでもって、時々、俺に指示を仰ぎに来るのはやめろ!


 居なくても好きに出来てたんだから好きにしてくれ。


 あ、そうだ。

 職業斡旋所作っといてと以前言ってたんだ。

 冒険者ギルドみたいな、もっと幅広いやつ。


 効果が出てるらしく捕虜交換で帰って来たけど、仕事がない人が流れて来てはカストロ公爵で沢山仕事をして住み着いているらしい。


 ……いつか俺が使うからと思って。


 そんな感じにゴロゴロしながらふと思い出したので、ふらふらと屋敷を抜け出し街へ。


 やって来たのは、その例の職業斡旋所。

 職業という言葉が馴染みがないから、一般的に仕事斡旋所と言うらしい。

 どう違うの?


「へい! 親父! 仕事一丁!」

「あぁん? テメェ、金は?」

 金が無いから仕事を探しに来て金を求められる。

 これ如何に?


 こういう詐欺、よくある。

 講習とか金払わせて、仕事斡旋するヤツ。

 それもほぼ間違いなくブラックな仕事。


 詐欺にはご注意を!!


 あれ……? おかしいな、ここってカストロ公爵領が作った公的な施設なはずなのに……。


 でもこれもアルアル!


「けぇんな! こっちは暇じゃねぇんだ」

 おっさんはしっしと俺を手で追い払う。


 ケッ!


 カウンターはもう一つあるので、そちらに移動して声を掛ける。

 若いにいちゃんだ。


「にいちゃん仕事をくれ」

「今はないですねぇ」


 それでおしまい。

 え? どうしろと?


「もう少しなんかないの?」

「そう言われましてもねぇ、何が出来るんです?」

 何と言われても……詐欺?


「あ、研究職経験あるよ?」

「研究職の募集は今無いからまた来て下さい」


 はあ……。

 また来てくださいってお金が無くて働かないと生きていけない人に言う言葉か?


 ……俺、絶賛ヒモ生活でいくらでも生きていけるけど。

 具体的にはこのカストロ公爵領がある限り……。


 もう一つのカウンターを振り返ると、困った顔した若いねぇちゃんがおっさんにセクハラ受けてた。


「あんたぐらい若ければい〜職あるよ?

 どうだい? 口聞いてあげようか」

「いえ、私は……」

「おっさん〜、い〜職あんの?」

 俺はおっさんの話に割り込む。


「あん? テメェにはねぇよ!」

「あっそう?」


 こういうおっさんには仕事があって、俺にはない。

 なんとも理不尽だ。


 俺はぁー!!

 働く者の権利を求め、断固抗議する!!


 ……誰に言えば良いんだろう?

 イリス?


「あの……、それでも私……」

 若いねぇちゃんは断ろうと戸惑いながらも、自分の薄汚れた身なりを見て沈んだ顔をする。


 旅をしてきたか、有り金を男にでも奪われたか、いずれにせよろくな格好ではない。


 こういう女から金を奪おうにも奪えるものが無いので、チンケな詐欺師の俺は狙わない。


 狙うなら……。


「おっさん! 若い子なら斡旋出来るならそう言ってくれよぉ〜。

 い〜子居るんだが、どんだけになる?」


「おいおい、ここは由緒正しきカストロ公爵領の斡旋所だぞ?

 あくまで仕事を紹介するだけだ」

 俺のそんな言葉におっさんは途端に好色そうにニヤついた笑みを浮かべる。


「わ〜ってるって、だ〜から『上物』に仕事を紹介してもらいてぇだけだ」


 俺も同じような顔して笑う。


「ねえちゃんも手伝ってくれ。

 手間賃ぐらいは払うからよ?」

「え、え?」

 ねえちゃんを軽く引っ張る。


「おいおい、そのねえちゃんはこっちが紹介してやろうとしてんだぞ?」

「わぁかってるって、ちょっと手伝って貰うだけだけだ。

 その後は紹介でもなんでもすると良いさ」


 これ以上、無理をしてもダメだと思ったのか、それとも面倒になったのか、おっさんはそれ以上粘らずにため息を吐いて椅子に座った。






 俺はこれ幸いとねえちゃんを連れて、仕事斡旋所の外に出る。

 俺のレーダーが反応している。

 このねえちゃんは……磨けば光る!


 そんな訳で戸惑うねえちゃんを娼館に連れて行くわけだが当然、激しく抵抗しようとする。


「まあ、待て。

 あんたカストロ公爵領をよく知らないだろ?

 娼館では女性限定だが、飯も食わせてくれるし身なりも整えてくれるんだぞ?」


 そりゃそうだろう、汚い身なりでは商売が出来ないからな。

 だか、嘘でもなんでもない。

 公共でもあるから無理矢理身売りというわけでもない。

 あくまで望むなら、だ。


 今回は売り払おうとする訳ではない。

 ちょっとおっさんを引っ掛けるだけだ。


 こうして偶然出会っただけの女は俺の魔の手により、美しい蝶へと変貌を遂げるのだった。


 変貌させたのはカストロ公爵領の娼館のお姉様方だけど。

 あと、娼館のお姉様方にやたらと丁寧に対応された。


 世界のあらゆる娼館を渡り歩いた俺だが、こんな扱いは受けたことがない。


 俺への扱い丁寧過ぎない?

 俺、どこからどう見てもチンケな怪しい詐欺師だよ?


 分かっておりますからって何が?

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