第130話ゴンザレスとカストロ公爵①

 あの後、俺がいくら誤解だと言っても伝わらない。


 なのでついにはヤケになって座った目で、誤解を解かないと皆が見ている前でエルフ女を抱くと宣言した。


 流石にマズイと思ったのか、エルフ女は誤解だと皆に伝えた。

 するとアッサリと皆は誤解と信じた。


 詐欺師を信じるのはどうかと思うが、それでもここまで差があると信用の差が辛い!

 ツバメだけは何故か少し残念そうだった。


 ……と言うことで、今度は誤解の発生しない皇女チームと同じ馬車へ。

 ちょっと自分の存在がよく分からなくなるけど。


 偉い人? 俺偉い人なの?

 わたくし信じませんわ、だってわたくしって常識的ですもの。


 だって、ねぇ誰か教えて?

 どうやったらチンケな詐欺師が、皇女たちに囲まれる偉い人になれるの?


 ……エルフ女に聞いたら、魔王倒したらじゃないかな、と言われた。


 倒したんじゃない。

 俺はスイッチを押しただけだ。


 今度、指先一つで倒したって広めとくわと言われたので、ベッドで復讐することを誓った。


 6人乗りの馬車で広いはずなのに、両サイドに皇女と王女で、目の前に元皇女がジッと見てくる不思議空間。


 あれ? おかしいな、胃が痛いぞ?

 これが胃が痛いと言うことなんだな?

 ゴンザレス初めて知った。


 そうして、初めてのケ・イ・ケ・ン(胃痛)をしながら、どうにかカストロ公爵領に生きて辿り着いた。


 でもね?

 そもそもなんで俺はここに来ないといけないの?


「ご主人様がカストロ公爵様だからですよ?」


「あのね?

 それってイリスとメリッサが名乗らせただけだからね?

 俺、公爵の血筋でもなんでもないのは知ってるでしょ?」


 メリッサは可愛く首を傾げる。

 色々大変だけど、やっぱりS級美女はいいね!

 可愛いぞ、ちくしょォォオオオ!

 俺のチョロさが憎い!!


「帝国としてはカストロ公爵として認めるのはご主人様が最初です。

 元々の血筋はどうでも良いかと。


 第1、イリスには悪いですが、帝国からすれば自ら滅ぼした手前、本物のカストロ公爵の血筋ではない方が都合が良いわけですし」


 どうでも良いの!?

 貴族ってそんなもんなの!?

 庶民以下ゴンザレス、初めて知った。


 衝撃的な事実に呆然としながら気付くとカストロ公爵領に入ったらしい。

 人が並んでる。


 な〜んか、前の倍……もっと居るんだけど?

 ズラ〜リと王侯貴族をというか、国王を迎え入れるみたいに人が並んでる。

 それも規則正しく、規律を持って。


 どう見ても詐欺師を出迎える光景ではありません。


 俺は他に誰かいるのかとキョロキョロと周りを見回す。

 俺の両サイドを固めるように、S級美女が分かれて俺の少し後ろに並んでる。

 王女、元皇女、皇女、ついでにエルフ女みたいな?

 さらに後ろには護衛。


 どう見ても俺が中央。

 右に一歩動くと全員右へ、左に一歩動くと全員左へ。


 ナニコレ?


(なあ、エルフ女?)

「何?」

(なんでこんなに人がいるの?)

「知らないから。またしても絶対、アンタがなんかしたんだから」


 もはや声を抑える気のないエルフ女。

 やる気あるのかー!

 ……無いよなぁ。


 エルフ女の代わりに何故かハムウェイが答える。

「君、前にコルランで捕虜交換しただろ?

 その後、帰還兵とその家族にカストロ公爵領で、仕事を斡旋したらしいじゃないか。


 さらにその人たちに釣られて親戚や関係者を連れて移り住んだ人たちで、爆発的に人が増えたんじゃないかな」


 斡旋というか、急に土地が増えて人が足りないから、そこに人を当て嵌めただけで。


 大体、仕事がなかったら賊になるしかないじゃないか!

 そんなことするぐらいなら、奴隷や娼館に売ってしまえ!!


 ちなみにカストロ公爵領の娼館の地位はそんなに低くない。

 公共で公衆衛生も万全で給料も悪くない。

 更には、庶民の出会いの場になってるという訳が分からない状態だよ。


 そもそもカストロ公爵領で娼館に来るのは、農村部やスラムから流れついた謂わば行き先のない人々だ。


 そこで娼館にて教育を施し身なりを整え、その中でも優秀な者はカストロ公爵領の屋敷に入る。


 奴隷についても同様だ。

 チームを組ませ優秀な者は見出すようにしている。

 実際にカストロ公爵領の幹部陣は奴隷から見出されている。


 まさにカストロドリーム。

 立身出世や一旗あげたいヤツはカストロ公爵領へ行け、という言葉が生まれたとか。


 なんでやねん。


 そもそも人が足りていないから、スラムが発生する前に仕事に引っ張って行かれる。

 よって仕事はあるから食う分には困らなくなる。


 循環しているのである。


「コルランにカストロ公爵に感謝する声は常に聞こえてきてるぐらいだ。

 それにそもそも、今回、エストリア王国を代表する立場になったわけだから、これぐらいは当然じゃないか?」


 俺は自分の願望を叶えただけだ!

 ああ……、俺もカストロ公爵領で生まれたかったなぁ……。


 その頃はまだカストロ公爵領は存在してないわけだが。

 卵が先か、割るのが先か。


「俺……いつか、この領で古本屋でも開いて静かに暮らすんだぁ……」


 メリッサが素早く俺のそばにより同意する。


「その時はお付き合い致します」

 メリッサと古本屋かぁ、良いねぇ……夢が膨らむねぇ。

「メリッサ、ずる〜い!」


 カレン姫、ずる〜いって何?

 詐欺師と添い遂げてどうすんの?

 貴女にはまだやるべきことがあるはずよ!


「さてご主人様、現実逃避をせず現実に向き合いましょう。

 貴方様がカストロ公爵様なんですから」


 俺……なんで、そんな立場になっちまったのかなぁ……。

 必ずや、必ずや逃げ切って見せる……。


 流れる涙を拭きもせず、俺は馬車を降りた。

 そこに走り飛びつく1人の女性。


「アレス様ーーーー!!!」


 年の功は10代後半から20といったところ。

 亜麻色の髪を肩まで伸ばし、綺麗より可愛い系だけど、どちらであってもS級と言って良い美女。

 世界ランクNo.8イリス・ウラハラ。

 俺は彼女を反射的に抱き締めるのであった。








 その日、カストロ公爵領に再び主人が戻った。

 カストロ公爵は、帝国とさらにコルラン国の2大国の軍を連れ、その脇を固める美女たちは帝国皇女、エストリア国王女、かつてのレイド皇国皇女。

 そしてウラハラ国王女。


 涙を流し『お嬢』との再会を喜ぶカストロ公爵。

 それは正しく世界を救った英雄の凱旋であった。


 カストロ公爵領の人々は皆、カストロ公爵アレスに救われた。


 帝国にコルランにエストリアに国を滅ぼされた者たちなども含め、あらゆる国の者たちが分け隔てなく暮らせる場所。


 そこに人々は新たな世界の縮図を見た。


 この日のことは、今はまだNo.0の起こした出来事ではなかった。


 カストロ公爵アレス。


 その名はやがて……。

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