第124話ゴンザレスとコルラン⑤

「嫌ですよ!」


 その作戦はパーミットちゃんにあっさり却下された。


「何でハムウェイさんの前で、他の男とイチャイチャしないといけないんですか?

 ご遠慮します」


 キッと睨みながらキッパリと言い切る。

 睨まれても余計にその顔の良さが際立つだけなので可愛いだけであるが。


「何でって……。

 ハムウェイの動きを止めないことにはどうにもならない訳で……」


 パーミットちゃんは可愛い顔でさらに詰め寄る。

 睨んでいるつもりなのだろうけど、俺が飢えたオオカミならばパクッといかれちゃうよ?


 ……帝国皇女様に感謝するんだな。

 わたくしがパクッといかれちゃったわよ?


「どうして好きな人の前で他の男とイチャイチャしないといけないんですか?」


 え? あれ?

 じゃあ前の時って、ハムウェイからの好意が分かっててイチャイチャしてたってこと?

 え? それなら……なんで?


「え? だって別の男と結婚するんだよね?」


「貴族ですから結婚と恋愛は別です。

 それにハムウェイさんは世界ランクNo.1ですから、ただの伯爵の娘ごときが手に入る方ではありませんから」


 え!? 貴族ってそういうもんなの?

 恋愛と結婚って別!?

 それに伯爵令嬢でも『ごとき』扱い!?


 俺は確認する様にカレン姫と王女様を見る。


「あー、普通の貴族の感覚からしたらそうかもねぇ〜」

「貴族同士の結婚は家同士の結婚なので」


 カレン姫は苦笑いで答え、エストリアの王女様は当然ですよ、と可愛く首を傾げる。


 そうなんだ……、お貴族様って不思議……。

 チンケな詐欺師ゴンザレス、お家はないの……。


 カストロ公爵様のお屋敷?

 ななな、なんのことかしら?


 俺はパーミットちゃんをまた見る。


「そういうのどうでも良くない?

 邪神だ、魔王だ、と大変なんだしさぁ……」


 詐欺師らしからず本音が漏れる。

 世界がどうだという時に家同士の結婚って……、そうか、だからこそ余計にかぁ。


 個人よりも家を引き継ぐという生命の維持的なアレコレね。


「アレスさんは良いですよね。

 カストロ公爵で、自分で選べる立場で……。

 でも、私は……」


 チンケな詐欺師を羨ましいとか、人としてアカンやろ。


 ヤバい! 泣かれた!!

 誰かー! 助けてー!!

 ゴンザレス、泣く子に弱いノォウ!!


 フォロー! 

 メリッサー! エルフ女ー!!

 フォローぷりーーーず!


 2人とも置いて来てしまったぁぁあああ!!


「あ〜、泣かない泣かない。

 大丈夫よ。

 この件が終わったらアレスさんが何とかしてくれるから」


 カレン姫がパーミットちゃんをそう言って慰める。

 俺は必死に頷く。

 この件が解決したら逃げるから大丈夫!!


 そんなわけでパーミットちゃんを宥め、ハムウェイの心の傷をえぐる作戦を諦め、なんとか呼びかけだけでハムウェイを説得する方向で収まった。


「分かった、パーミットちゃん。

 他の男とイチャイチャ案は撤回する。


 俺がハムウェイに呼び掛けるから、俺が呼び掛けたらとにかく頷くこと。

 良いね?

 一瞬でも迷ったりしたら終わりだ。

 パーミットちゃんがやるべきは俺がだ、出来るね?」


 パーミットちゃんは覚悟を決めた目で頷いた。


 はー、逃げてぇ〜……。


 パーミット事件により、俺の精神は限界であった。

 これが世界の叡智の塔の恐ろしさか。


 エルフ女が違うんじゃね?

 そんなふうにツッコミしそうだ。


 なんということだ!

 俺はいつのまにか、エルフ女のツッコミやメリッサのフォローがないと生きられない身体になってしまっていたのだ!


 恐るべし! S級美女調教。


 ……さて、それはさておき作戦は実にシンプルだ。


 今回の解決を邪魔しているのは世界ランクNo.1のハムウェイに他ならない。

 逆に言えばハムウェイだけ正気に戻してしまえばなんとでもなる。


 ということでハムウェイ以外は有志一同に任せ、ナンバーズ2人でハムウェイを足止めとパーミットちゃんの説得で薬を飲ませるか、潰すか、だ。


 オススメは潰すで。

 俺? 俺が行ってどうする待機だ!


「アレスさんが行かないなら私たちは行かないよ?

 だって勝てないもの」


 わたくしが行ったところで勝てないザマスよ!?

「はいはい」


 カレン姫がぞんざいにそう言って俺を引っ張る。

 なので仕方なく連れて行かれます。

 怖いから守ってくれよ!?






 そうしてハムウェイと相対した訳だけど、まー、禍々しいオーラですこと。

 嫌だわぁ〜、わたくしのようにチンケに生きられないのかしら?


 ふーふー、と怪しい白い息を吐いてるけど、目は虚ろ。


 ツバメとカレン姫が油断なく身構える。

 本能のままに攻撃してくるから危険らしい。

 怖い怖い、さっさと終わらそう。


 世界の叡智の塔は『その人が持っている、もっとも強い欲望を刺激する』というわけで。


 それは別に正邪関係なくであって……。


 つまるところ、分かりやすく欲望を刺激してあげれば解決する。


「おーい、ハムウェイ!

 今ならパーミットちゃんが口移しで薬飲ませてくれるって〜」


 パーミットちゃんは俺に言われた通りよく考えずに反射的に素直に頷く。


 ハムウェイはぴたっと動きを止めてこっちを見た。

 まだ目は虚ろ。


 パーミットちゃんは頷いた後で気付いたらしく。

「え!?」


 詐欺師の言うことを素直に行動したらダメよ、詐欺なんだから。


「ほら! 薬持って、早く!

 ハムウェイが動きを止めている間に!」

 俺はパーミットちゃんに薬を渡しハムウェイの方に背中を押した。




 こうして、正気に戻ったNo.1により世界の叡智の塔は破壊され、俗に言うハムウェイ暴走事件コルランの乱は終わった……。

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