第125話ゴンザレスとコルラン⑥

「いやぁ〜、今回ばかりは世話になったね!No.0」


 ハムウェイがパーミットちゃんを後ろから抱きしめ引っ付いている。


 俺はもはや定位置と化した研究室のソファーでぐったりしながら、カレン姫と王女様と3人でそれを眺める。


 ハムウェイとパーミットちゃんの関係もカラクリに気付いてしまうと、ただイチャイチャしているだけだと気付かされる。


「もう迷惑かけないでね?」

 お願い口調で言ってしまうぐらい疲れた。


 俺もう世界の叡智の塔に近づかない……。

 それよりも色々やっちゃった、この現実をどうしよう。


 逃げれるかな?

 世界で2番目に最強の帝国皇女様から?

 チンケな詐欺師が?

 無理じゃね?


「ははは、まあまあ」

 カレン姫の方はあっけらかんとした感じ。

 そうだよなぁ、処罰されるのは俺だけだしな。


「僕も今回は君に倣って自由にやってみようと思うよ」


 おい、いつ俺が自由にやったよ?

 自由に出来なくてこんな状況なんだが?


 あ、でも世界の叡智の塔の影響を受けたからって帝国皇女様に手を出そうなんて、普通は思わないか、ハハハ……。


 なんでこうなったんだァァアアアアアアアアアア!!!!








 あの事件からすぐ後、僕、ハムウェイはパーミットと無事、婚約することが出来た。


 どうやったかと言えば、本人にちゃんと想いを伝えて関係各所を脅して回った。


「最初からそうしろよ!

 世界最強なんだからさぁ〜、誰が逆らえるんだよ」


 研究室のソファーで帝国の皇女カレン姫と世界ランクNo.9とエストリア国のセレン姫をはべらせたNo.0にそう言われた。


 最初からそれこそが正しい姿かのように堂々としている。


 普通の神経の者なら、それぞれの国を代表する美姫2人をはべらせて、こうも堂々としていられまい。


「僕には、君のようにハーレムを作る甲斐性までは無いからね」


 僕は肩をすくめてそう返した。

 それに本物の世界最強にそう言われても嫌味だよ?


 するとNo.0は何故か蒼白な顔をして、ハ、ハーレムって……何?

 そんなことを聞いてくるから。


「今の君の状態だけど?」


 言ってあげるとNo.0はついには白い顔になる。


「て、帝国皇女様?

 エストリア国王女様?

 少し離れて頂けますか?」

「「嫌。」」


 そしてNo.0は涙目で見てきて、ヘルプ……というのでニヤリと笑い、片手を上げて部屋から出ておいた。


 ハーレムを形成している自覚がなかったらしい。

 自覚がなくてそれかよ、と思わなくもないが皇女にまで手を出したんだのだ。

 間違いなくこれから奴は大変だろう。

 ざまぁみろ。


 パーミットちゃんが言っていたお見合い相手だが、パーミットちゃん自身は相手を知らなかったらしい。


 彼女の父である伯爵に尋ねると、

「はて?

 貴殿のことであるが話はいってなかったのですかな?」

 そう不思議そうな顔で言われた。


 最初から相手は僕であったらしい。

 ああ、確かに研究は続けて良いと言ったかもなぁ。


 誤解から暴走して国を危機に晒してしまったので大いに反省した。

 反省したことで許されるものではなく、本来なら処刑されていただろう。


 そこで僕の立場を救済したのはまたしても奴だった。


 研究所に通達にやって来た王宮の執務官は目を丸くした。


 どう見ても只者ではないオーラを放つ美姫2人を侍らし、絶対強者の世界ランクNo.1とNo.9を両サイドに立たせた状況で、当然の如くソファーに寝そべる男。


 さらにその状況を飲み込めず、動揺する王宮の執務官に奴はこう言いのけた。


「あー、じゃあ、カストロ公爵領の例の土地とその周辺あげるからNo.1の力貸してよ?


 上手くいけばエストリア国からも、土地をさらに分けてもらえるかもしれないし。


 そういう理由ならコルランの国益にもなるし、良いんじゃない?

 どうせ、悪いのは世界の叡智の塔って事で」


 カストロ公爵領の一部は現在、借用という形だ。

 それを正式に譲渡する。

 国として、国境線も変わることとなる。


 前の時もそうだったが、あの地域を聖地としている部族との土地問題も、改善が見込めることになる。

 争わなくても、分け合える豊かな土地が手に入るのだ。


 しかもカストロ公爵領は魔王無き今でも、魔獣素材の多くが取れる地域だ。

 コルランでは魔獣素材は大きなウェイトを占めているので、それが手に入るのは、土地以上の価値を持つ。


 つまり、コルランとしては今回の被害を超える利益が見込めるのだ。



 それを通達する目の前の男こそ、今回の誰も敵うはずのない世界最強No.1を止めた男。

 その強さは魔王すらも指先1つで討伐せしめる伝説の絶対強者。


 その名は、世界最強No.0。


 それをこんな異様な部屋の状況で通達された執務官は半泣きでコルラン王宮に駆け戻った。


 その結果、僕の罪は問われなくなった。

 大きな借りを作ってしまった。

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