第123話ゴンザレスとコルラン④

「昨日はお楽しみでしたね?」

 プククとオヤジくさい言葉をソファーでぐったりする俺に言うパーミットちゃん。


 何事か分からず心配そうにする王女様に、流石に呆れた顔をしながら、それでも俺の肩を慰めるようにポンっと叩くツバメ。

 そして昨日から離れてくれない帝国皇女様。


 やーっちゃった、やっちゃった〜。


 やばーい王女様に手を出すのを我慢したら、もっとヤバいお方に手を出してしまったゴンザレス。

 明日はあるのか、マルという感じ?


「あはは。

 まさか、こんなところでアレスさんに食べられちゃうなんてねぇ〜。

 アレスさん、弱ってるところに良いタイミングで来るんだもの。

 メリッサも堕ちるわけよねぇ〜。

 ほーんとメリッサになんて言おう?」


 帝国皇女様は照れ隠しのように赤い顔であっけらかんと笑う。

 くっそぉう、可愛いじゃねぇか。


 上手に言っておいて?

 頑張って逃げるから。

 約束? なにそれ? 命の方が大事。


 ちなみに当然と言えば当然ながら、昨日まで帝国皇女様は誰のものにもならず手付かずで御座った。

 切腹モノにござるが、拙者、絶対に切腹はしないでござる。


 事ここに至れば早急に逃げねばならぬ!

 閉じ込められている場合ではない!!


「パーミットちゃん!

 薬の研究はどうなっている!?」


 パーミットちゃんは研究馬鹿だが、この状況で無関係の研究をしている訳ではなく、正気を失った人を元に戻す薬を研究していた。


「アレスさん、ついにやる気になりましたか!」


 あたぼうよ!

 俺の命を守るためだ、仕方ねぇぜ!


「でしたらここの論文を読んでこの試薬の調合を」


 ドサッと該当らしい論文を何十冊と山積みに。

 ……これを全部読めと?


 へいへい。

 俺は生きるためには何でもするのだ。


 バグ博士は中央の王宮に行ったまま戻って来ていない。


 居れば心強かったのだが、もっと言えば居たとしても俺は帝国皇女様に手を出していた気もするし、同じように研究に付き合わされただろうから結局一緒だったか。


 どちらにせよ、悔やんでも戻らないのが、時というもの。

 今を生きるのよ! ゴンザレス!!


 そうやって奮起して研究に専念すると思いの外、すぐに薬は完成した。

 大方、パーミットちゃんの手により完成していたのだ。


「さて、あとはこれを量産しておかしくなった人たちに飲ませていきます。

 ふふふ……覚悟は良いですね?

 このまま量産しますよ?

 ふふふ……」


「え?」

 パーミットちゃんと俺しか作れない薬を?


「もちろんですよ?

 ふふふ、楽しい楽しい調合パーティーですよー!!!」


 ぎゃーー!!


 そうして三日三晩、薬を作らされた。






「大丈夫?」

 ソファーでぐったりとしている俺に、帝国皇女様が声を掛けてくる。


 艶やかな髪と黒い瞳が吸い込まれそうだ。

 見れば見るほど美しい。

 さすがS級美女!


 危ない危ない。

 S級美女危険。


 なおS級美女の内、パーミットちゃんに手を出した瞬間、逃げる暇もなくNo.1に殺されることは間違いない。

 それだけはやってはならぬ。


 手を出してしまったのが帝国皇女様であったことを喜ぼう。

 ゴンザレスポジティブ!!


 まだ見ぬお見合い相手とやら、愚かな選択をしたな。


 ところで。


 疲れ切った脳みそでは大した理性は働かない。

 一度手を出したんだから同じじゃねと、よく分からない理屈が自分の中で発動。


 欲望を刺激する世界の叡智の塔、恐るべし!


 そんな訳で帝国皇女であるカレン姫とはすっかり距離が近くなってしまったために、脱出計画はなおのこと急がねばならなくなった!


 わたくし、皇帝陛下に殺されてしまいますわよ?


 これは至上が急命で危ないデシなのだ!

 要するに最優先。


 外の状況は偵察によると、中央以外のほとんどの区で同じような避難所が出来て、そこに逃げた人が集まっている状況らしい。


 当然、そろそろ食料などの不足による不満が出始めているとか。


 こちらは俺たちが持って来た食料のおかげで多少は余裕があるようだ。


 いずれにせよ急いだ方が良いが、中央を制圧しないことには薬を飲ませて回っても、また同じように虚ろな人が増えることだろう。


 崩壊の前に有志を集め、総攻撃をかけるべきとなったのは当然のことだ。


 そこででっかい壁となるのは、もちろんNo.1ハムウェイ!

 なんて厄介な男だ。

 イケメンはこれだから迷惑だ!


 俺? 俺はもちろんイケてる男さ!

 ハハハ……その結果、色々ピンチだけど……ハハハ。


 偵察した人が見た様子だと、No.1の視界に入っただけで距離を詰められ、虚ろ化させられるという恐怖の存在!


 その時は偵察隊10人の内、2人しか戻れなかったらしい。

 恐るべし虚ろ男No.1!


 だが俺にはある策があった。

 おそらくは……。

「パーミットちゃんが鍵になるはずだ」

「私ですか?」


 奴の心をへし折るのだ!


 具体的には他の男とイチャイチャしてる姿を見せつけて、心が折れたところでトドメを刺すか薬を飲ませるのだ!


 ちなみにイチャイチャするのは俺以外ね!

 イチャイチャした男は間違いなくNo.1に始末されるからな!!


 はっはっは、覚悟しやがれイケメン世界No.1ハムウェイめ!!!


 俺は手を出してはいけないお方に手を出したことで色々と半ばヤケになりつつ、その作戦をパーミットちゃんに伝えた!


 そこ! 自業自得とか言うな!!

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