第122話ゴンザレスとコルラン③

「お初にお目にかかります。エストリア国セレン・エストリアです」


 王女様が帝国皇女様に丁寧にご挨拶。

 帝国皇女様がちろっと、俺を確認。

 目をそらす俺。


「……え?

 本気でホイホイしちゃったの?

 凄くない?

 元でもなく現役の王女様だよ?」


 手を出してはいないぞ!

 すっごくすっごく手を出したいけど、出してないぞ!

 我慢だぞ!


 あと元王女だろうと常識では手が出ない存在だ。

 イリスみたいな亡国で保護者無しみたいな例外は除くが。


 遠くでエルフ女がそのイリスの保護者があんたでしょ、カストロ公爵とツッコミを入れた気がするが幻聴だ。


 かなり毒されてる。

 思えば、俺は正気ではなかった。


 カストロ公爵に行こうとしたり、やばい王女様に手を出そうとしたり、今までの慎重な俺からしたらあり得ない行動だ。


 やばい王女様に手を出すなんて、マフィアの女と分かって手を出すようなものだ。


 知らずに手を出すのはノーカンだよ?

 知らないんだから、仕方ない。

 あと、そういう雰囲気になったらマフィアの女でも……は!?


 いかんいかん、命大事に。

 危ないことには手を出さない!

 これ大事!!


 頭の中が1人ピンクになりかけたがクールになるんだゴンザレス。


 お前はクールゴンザレスよ!


 理由はともかくNo.1に匹敵するNo.2の帝国皇女様が居るんだ。

 なんとかなるかもしれん。


「でも、なんでここに居るんだ?」

「ナンバーズクラスだと下手に護衛を付けるより、1人の方が動きやすいからね〜。

 メリッサもソーニャもそんな感じだったでしょ?」


 あ〜、まあ超S級美女たちだから、姿を隠しておかないと目立つけど実力的に確かに。


 魔獣1000ぐらい相手に出来るということは、人ではその3倍ぐらい相手に出来るということで。


 体力が保つならば、という前提はあるが、万の魔獣を相手取ったこともあるNo.2なら、3万の兵を相手に出来るということだ。


 改めて考えるとナンバーズって、えげつねぇ化け物だよな……。


「アレスさーん、ちょっと手伝って下さい!

 今やっている研究がですね〜」

 パーミットちゃんが研究書類を山積みにして、何やら研究を始めている。


 前から研究馬鹿だったけど、こんな時に?


「これが世界の叡智の塔の効果よ」

 ふっくらして柔らかそうな帝国皇女の赤い唇から、くすぐるような声でそんな言葉が出る。


「その人が持っているもっとも強い欲望を刺激するの。

 多くの人はその欲望を理性で抑えているけど、世界の叡智の塔の効果でそのタガが外れてしまう。


 起こることは混沌よ。

 秩序なんて簡単に崩壊してしまう。

 邪神の望む通りに、ね。


 だから急いで世界の叡智の塔をなんとかしなければいけないの。


 幸い、帝国はナンバーズが3人に他にも実力者が揃って居たから、大きな問題が発生する前に世界の叡智の塔を破壊出来たわ。


 コルランもNo.1が居れば、大丈夫な筈だったけど……」

 振られたショックで堕ちた、か。


 プププ、ざまぁ。

 言葉にするとその酷さがより際立つなぁ〜。


 パーミットちゃんに気持ちをハッキリ言ってなかったからかね?


 研究馬鹿って分かってるんだから、結婚しても研究続けても良いと、その見合い相手より先に言っとけば良かっただけだろうに。


 まるでウブな坊やのようだ。

 ヘタレとも言う。


 貴族出っぽいから、そういう何というか、恋愛みたいなものを楽しむ余裕があったのかもな。


 平民やましてやスラム上がりに、そんな余裕はない!


 行くなら行く、行かないなら行かない!

 恋は戦場、悩んでいる時間はないのだ。


 俺もまだ純粋な駆け出し詐欺師の頃、お店のお姉ちゃんをチロチロ見てたら、金払え貧乏人と言われて以来、恋愛ってお金がかかるんだなぁ、と学んだ。


 だから、S級美女が生活の面倒見てくれながらお世話してくれる現状が怖くて仕方ない。


 分からされても、ワカラナイ!

 怖い! S級美女何を企んでるの!?

 売りつけるの? 何を!?

 ゲシュタルトの姫みたいに国を売りつけるのやめて!?


 無理だから。

 ゴンザレス無理だからァァアアアアア!


「アレスさん?」

 艶やかな髪と深い黒の瞳のS級美女の帝国皇女様が、俺の顔を覗き込む。


 おっと美しすぎて逆に正気に戻れたぜ。


「まあ、そんな訳で状況がもう少し分かるまで私も様子を見てたってこと。

 アレスさん着いたばかりでしょ?

 とりあえず、今日は休んで明日考えましょ?


 ……No.1になんて勝てないしね」


 ボソリと言われた最後の一言が帝国皇女様の本音なんだろうなぁ。

 実際は途方に暮れていたということだ。


 世界ランクNo.1ハムウェイ。

 メンタル最弱でも世界最強、これ如何に?


「……ああ、まあそうだな」

 何にしても疲れている時は酒でも飲んで寝てしまうに限る。

 乗ってきた馬車に酒も食料もあることだしと答える。


「ふふふ、それは良いわね。

 ここで籠城中でしょ?

 食料はまだ大丈夫だけどお酒とか全然なかったから」


 手は出せないけどS級美女と酒を飲むだけで十分ご褒美だな。

 帝国皇女様、どことなく色っぽいし。


 そうして、今日は酒を飲んで休むことにした。







 だが、人はどうして気付かないのだろう。


 その危機はいつでもそこにあって、その警告とも取れることは、幾つも転がっていたのに。


 いくつものターニングポイントがあって、そうなる前に防ぐことは可能だった……。


 いつも後悔というものは先には来ない。

 起こってしまった後に訪れるのだ。


 人を嘲笑あざわらうように。





 ……俺は、ちゃんと聞いてた筈だった。

 世界の叡智の塔は、『その人が持っている、もっとも強い欲望を刺激する』と。


 俺の欲望って……まあ、そうだよね!!


 2人で寝るには狭いソファーで、毛布で身体を隠す帝国皇女様は照れ臭そうに。


「ついにホイホイされちゃった。てへ♡」と可愛く笑った。









 やっちまったぁぁぁああああああ!!!!

 チンケなはずの詐欺師ゴンザレス。

 元王女たちに続き、現役帝国皇女をホイホイしてしまいました……。


 お、俺の明日はどっちだ……。

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