第121話ゴンザレスとコルラン②
辿り着いたコルラン首都は、何やらオドロオドロシイ雰囲気に包まれていた。
外から見たらなんともなかったのに街の中に入ると突然、雰囲気が変わった。
バグ博士の研究所兼屋敷は東の外れにある。
襲いくる目が虚ろになった人々を、ツバメがぶっ飛ばしながら研究所に辿り着いた。
研究所の入り口前には、机やら椅子やらタンスやらが積まれ入り口を封鎖している。
俺はそれを眺め、外から呼び掛ける。
「こんちは〜。バグ博士居ますか〜」
「ア、アレスさん!?
……っていうか、カストロ公爵様がどうしてこんなところに!?
正気ですか!?
正気じゃなかったら帰って下さい!」
奥からいつものモッサいバージョンのパーミットちゃんが隙間から顔を覗かせた。
正気ではないならどうやって帰るのだろう?
「多分、正気」
「本当ですね! 信じますよ! 信じますからね!」
「信じて信じて」
信じる者はすくわれる、足元を。
信じようと信じまいと関係なく入るけど。
ツバメが建物前のバリケードをどけて俺たちは中に入る。
そしてツバメがまたバリケードを積む。
中には沢山人が居た。
街の東区の住人だとか。
避難所になっているようだ。
コルラン首都は五つの行政区に分かれており、東西南北、そして世界の叡智の塔のある中央だ。
話を聞くとこうだ。
邪神の件から、しばらくは何事もなかったが、ある日突然、街がオドロオドロシイ雰囲気に包まれて、虚ろな目をした人々が襲いかかって来た。
虚ろな人に噛まれた人はさらに虚ろな人になってしまう。
さらに街に入ることは出来るが出る事は何故か出来ない。
何、そのパニック物語みたいな状況。
「ハムウェイは?」
No.1が居たら、こんなことになってないんじゃない?
「それが……」
パーミットちゃんが言うことには、こんな事態になる前の日にいつものようにハムウェイは研究所に来ていた。
そしてパーミットちゃんが今度お見合いする相手と結婚することをハムウェイに告げる。
惚れている相手からの無慈悲な宣告
この娘は鬼や!
それを聞いて突然、ハムウェイは虚ろな目をして去って行った。
そして次の日、街はこうなった、と。
お前が原因やないかい。
「えーっ!?
だって、お見合い予定のその人は大らかで結婚後も研究を続けても良いと言ってるらしくて、それなら結婚しちゃいますよね!?」
「……らしいってもしかして?」
「はい、会ったことありません。」
パーミットちゃんは、これからお見合いなんですから、当然ですよと可愛く首を傾げる。
こいつマジもんの鬼や。
「ふざけんなー! 責任とれー! 俺の悠々自適な逃亡生活を返せー!」
コルランでエストリアの内乱が、終わるまでのんびりしようと思ったのに!
これではコルランごとハムウェイの陰気パワーに全員、ヤられるだろうが!!!
知ってるか!?
あいつ、ヘタレで陰気野郎でも本物の世界最強ランクNo.1様やぞ!?
……ヘタレの陰気野郎の世界最強って最悪の組み合わせだな、おい。
「何がですかー!
貴族なんですから結婚相手なんて自由に決められる権利なんてないんですから、その中でも私の研究生活を優先するのは当然じゃないですかー!」
研究どころじゃなくなってるじゃねーか!!
「どうすんだよ!
No.1って世界最強だぞ!
抑えられるやつなんか誰も居ないじゃないか!」
そこに可愛い女性の声が響く。
「足止めだけならなんとかなるわよ?」
俺たちの研究室の奥のソファーで誰かが寝転んでいた。
目深に被ったフードを布団代わりに丸まっていたようだ。
俺のS級美女レーダーが反応する。
丸まった人物は俺たち……俺の後ろで不思議そうにする王女様を見つつ、赤く色っぽい口を開く。
「あら〜、やっぱりホイホイよねえ?
そこに一緒に居るのエストリアの王女セレン姫よね。
私ももうすぐ、かな?」
艶やかに笑うS級美女カレン・シュトナイダー帝国皇女様。
なんで居るの?
「私も閉じ込められちゃってぇ、てへ♡」
てへ♡
じゃねぇぇだろぉぉおおお!!
他国の帝国皇女様がたった1人で他国で閉じ込められるって、どんな事態だよ!!!
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