第120話ゴンザレスとコルラン①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵様だとか、転生者とか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0

 



 どうも、アレスです。


 王女を逃す口実で、戦場から逃げました。

 今回はメリッサの了解済みだぞ!


 だが、メリッサは帝国兵に指示や連絡のやり取りをしないといけないので、今回はついて来ていない。


 代わりに護衛として、No.9ツバメがついて来ている。

 S級美女との3人旅である。


 手を出してしまいそうである。


 これ、メリッサ絶対こうなること、気付いてた。

 なんかため息ついて、ホイホイですしねぇ、仕方ないか、とか言ってた。

 手を出しそうだけど、手を出さないよ!?

 我慢するよ!


 手を出せる余地があるはずがない!

 手を出せば処刑まっしぐら!


 でも我慢出来ないよ!?

 S級美女2人がチンケな詐欺師にカモーンな感じで来るのよ!?

 わたくし、不思議がいっぱいで御座いますわ。


 考えてみてくれ。

 俺、チンケな詐欺師。

 S級美女A、世界で10位以内の超強くて可愛い娘。

 S級美女B、この国の唯一となった王女様。


 S級美女Bに至っては手を出したら国ゲット!?

 わー、いっらなーい!!


 ……とりあえずカストロ公爵領のイリスに押し付けよう。


 そんなことが頭によぎるが、すぐに俺は正気に戻る。


 違うだろ?

 何をナチュラルにカストロ公爵領に行こうとしているんだ?


 俺は誰だ?

 No.0?

 カストロ公爵?

 教祖?

 全て否!


 俺は! 俺はーーー!!

 ただの詐欺師だァァアアアアア!!!


 あっぶねぇ! 洗脳されるところだった。

 邪神?

 知らんがな、そんなの。


 丁度都合よくここに居るのは、強者だろうと王女だろうと世間知らずの小娘2人。

 売るも良し、騙すも良し、撒くも良しの2人だ。


 ……売るのは無いな。

 世界ランクナンバーズ相手に無謀過ぎる。


 逃げ切るのも難しいか?

 いやいや今回は王女という足手まといがいるから追いかけられても……ツバメは俺を優先しそうだからやめておこう。


 王女より優先順位が高い詐欺師って何よ?

 俺の常識、帰って来い。


 とにかく結論が出た。

 騙す一択である。


 では早速。

「ツバメよ、目的変更だ。コルランに入る」

「はい、わっかりました〜」


 馬車の手綱を引きツバメはすぐに馬車の行き先をコルランの方角へ変えた。


 ……あれ?


 あ、あれ? 何も聞かないの?


「ツバメ、コルランに行くよ?」

「はい。あ、道違いますか?」


 いや、うん、合ってるよ。


「いいの?」

「はい? いいんじゃないんですか?」

 ツバメは首を傾げる。


 この娘、会った時から詐欺師を疑うことすらしない純粋な娘さんだったわ。


「それにメリッサさんからも、アレスさんが行く場所について行ってくれと言われてますから!」


 あ、そうなんだ。


 俺はメリッサに手の上でした。

 流石、S級美女すげぇや。


「私、コルランって初めてです!」


 目をキラキラして王女様が言う。

 そういえば、この王女様どうしよう?

 何処かに捨てられないかなぁ?

 S級美女なんだけど、爆弾の匂いしかしねぇ……。


 理由はサッパリ分からないけれど、とっても詐欺師のわたくしに懐いている気がするの。

 それこそ簡単に手が出せそうなほど……。


 君たち、警戒心どこに置いてきたの?

 拾っておいで?


 こういうところなんだかイリスと似てる。

 イリスは自力でどこまでも追いかけてくるけど。


 ……コルランに行ってから考えよう。

 そうして俺は常識をこの場に捨てて、色々考えるのをやめた。


 サヨナラ、俺の常識……。


 俺たちが立ち去る後を寂しく風だけが通り過ぎた。

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