第118話ゴンザレスとエストリア⑥
「た、大変、もうし、うぐうぐ、ありません。あんぐ、お腹が、はぐっ」
「良いから黙って食え」
拾ってしまった。
捨て直すから優しい人に拾って貰ってね?
そう言って俺は目を逸らしたが、犯罪者の言葉はエルフ女に無視された。
S級美少女なので仕方なくそのまま連れて帰った。
んで空腹だったらしく、一生懸命頬いっぱいに食べ物詰めてる。
小動物のよう。
「また……また、ご主人様がホイホイしたぁ〜」
珍しくメリッサがエルフ女に泣きついている。
拾ったのはエルフ女で俺じゃない!
メリッサ騙されるな!
犯人はその女だ!
尊いその美女2人を遠い目で見ながら、俺は考える。
……しっかし、そっかぁ、じゃあ、来るよなぁ。
それから外の護衛隊長に声を掛けて地図を持って来させ、護衛隊の主だった人を集めさせる。
元レイド皇国の貴族だったらしい。
ゴツい身体のオッサンでナイスミドルという奴だ。
ロイド・ベーカーという名だと言う。
オッサンの名など、きっと俺は2度と思い出さない事だろう。
「もうじき追っ手の軍勢が来るから、森で迎え撃つ。
早急にやって来るのは3000程になるだろう。
それまでに可能な限り迎え撃つ仕掛けを用意する必要がある」
「何故3000程と?」
「万を超える軍をここまで持ってくるのは現状では不可能に近い。
かと言って少数では、いくらなんでもケーリー侯爵派に潰されることぐらい相手にも分かっているはずだ。
そうなると、機動的に動ける数となる。
そこで周辺の状況だ。
このケーリー侯爵の隣、グローリー宰相派のベック伯爵の動員数が5000程度。
その全てを動かすことはないことを考えればせいぜいその半分以下。
そこにグローリー宰相の指示で、走り回ってる兵も救援にかけつけるはずだ。
王女捜索だけに全ての兵を費やせることも出来ないし、国の半分以上を捜索するとなれば広過ぎて兵を分散させざるを得ない。
よってその援軍の分もせいぜい2中隊500人、多くても3中隊が良いところだ。
あと言うまでもないが、騎馬だ。
というわけで、騎馬に対する嫌がらせの罠が有効だ」
さ、何かアイデア出せ。
「……」
おい、黙ってるなよ。
まあ、いい。
「ケーリー侯爵へ伝令とベック伯爵側の近い街に王女がここに居ると噂を流して、この場所に誘き寄せる」
「何故、呼び寄せるのですか?
来る前に逃げた方が……」
俺は首を傾げる。
戦争未経験者か?
ああ、他の兵への説明のためか。
素人に任すなよ……貸しだからなオッサン。
「騎馬に対し背後を晒してどうする。
ここで足止めすれば相手に追ってくる余力は無くなる。
安全に逃げれるだろ?
噂を流すのは相手の動きを制限するためだ。
縦横無尽に騎馬の機動力で襲われたらたまらんだろ?
来る方角が分かっていればそこを狙えば良いわけだからやり易くなる」
さあ、次のアイデア出せ!
「……」
おい、お前らまた黙ってるなよ。
仕方なく、次、また次と思いつくアイデアを伝える。
ま、ナンバーズとナンバーズに匹敵するメンバーが居るから余裕なんだが、帝国の兵が協力しているのは秘密の方が良い。
オッサンは俺からの説明にただ聞いて頷く。
「その場合の兵の動きは……なるほど。
では、その際にはこう誘導させれば良いのですね。
ではこの場合は……分かりました。
そのように」
おい、オッサン!
全部俺が説明してるだろうが!
ベック伯爵は自ら兵2000を率い、逃げ惑うエストリア王女捕縛に出立した。
好色な顔で、これからのことに期待でいっぱいだった。
王女はさぞかし美しいと聞く。
命さえあれば、あとはどうなっていても問題はない。
夢いっぱいのベック伯爵55歳。
夢と希望に溢れた旅立ちである。
なお、そういう夢と希望で頭がいっぱいの人ほど詐欺の格好の餌食である。
十分注意しよう。
途中、王都から送られた王女捜索隊の部隊1000と合流することも出来たことも、ベック伯爵の気を大きくさせた。
王女捕獲後は、王都側から来るモリド伯5000の兵と合流し、ケーリー侯爵を牽制する。
ケーリー侯爵の兵の動員数は10000程になるはずなので、8000の兵が居れば牽制には十分だ。
もちろん、あくまで最終的にはの話でベック伯爵の元には現在、アレスの予測通りの3000の兵しかいないことは夢と希望に浮かれたベック伯爵の頭からは、すっぽり抜け落ちている。
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