第117話ゴンザレスとエストリア⑤

 ケーリー侯爵から状況を聞けるだけ聞いて、またお部屋。


 食事はお部屋にまで持ってきてもらい3人で作戦会議。

 ちなみに3人一緒の部屋なのは、俺が逃げ出すからだそうだ。

 よくお分かりで。


 ケーリー侯爵と打ち合わせの短時間で、乱れていたベッドメイキングは完璧。

 この屋敷の使用人たちは優秀なようだ。


「今すぐ逃げれば良くないか?」

 俺が心の底から主張するが。


「どう考えてもカストロ公爵領が狙われてますので。

 逆にケーリー侯爵側が宰相側に迎合しなかった分マシというものです」


 メリッサがケーリー侯爵側が味方についたことに首を傾げるが、それには逆に俺がすぐ答える。


「そりゃケーリー侯爵は宰相側につかないだろ、……ていうか付けないだろ」


 エルフ女が首を傾げる。

「何でよ?」

「一言で言えば、嫌いだからだろ?

 宰相もケーリー侯爵もお互いが」

「はぁ!?」


「いや、そんなもんだろ?

 戦局的にも宰相側が有利そうだし、ケーリー侯爵も宰相側に入ったところで、勇者召喚の罪とか押し付けられるのが分かりきっているから、混ざりたくても混ざれない。

 だから、カストロ公爵を確実に引き込みたい訳だし。

 あわよくば帝国からの援軍も期待しているだろうしな」


「流石はご主人様です。その通りなのでしょうね」

 メリッサもなるほどと同意する。


 エルフ女は最近、ずっと俺にジト目だが、またしてもジト目で言ってくる。


「ていうか、アンタよく分かってんじゃん。なら、逃げるのが無理なことも気付いてるでしょ?」


 いや、だって……。

 俺はエルフ女のジト目に挙動不審。


 い、いかん。

 詐欺師たるもの堂々と誤魔化さねば……!


「俺一人なら別に逃げられるし……」

「クズが!

 アンタがカストロ公爵なんだから、アンタが1番逃げちゃダメな人でしょ!」


 えー?

 俺、詐欺師なのにお偉い公爵様になったとか夢みたいなこと言いたくないなぁ〜?


「夢じゃなくて現実だっつーの。

 あんた、意地でも認めないわね?」


 うん、まあ、俺って現実主義だから。

「それって現実逃避って言うのよ?」


 き、気のせいだ。


「と、とりあえずケーリー侯爵にいくつか頼み事したら、カストロ公爵領行って持つ物持って逃げるように教えてあげるしかないかな」


 俺にしてはこれ以上ないほどに親切な行動である。

 親切な詐欺師、これ如何に?


「逃げるの前提なんだ?」

 エルフ女が頭痛を押さえるように頭を抱える。


 そりゃ、エストリア国なんてどうでも良いしな。

 もっと言えば、カストロ公爵領もどうでも良い。


「どうでも良いも何も……、あのカストロ公爵領の連中からしたら、あんたがそう言うなら大人しく従いそうなんだけど?」


 いや、自分の生き方ぐらい自分で決めろよ?


 ……だけど、詐欺師にもほんの少しだけ良心らしきものが存在した。

 仕方ないので何とかすることにする。

 正確にはここで放置して、国から狙われ続けるのは嫌だなぁーというのが本音だけど。


「メリッサ、帝国諜報部隊貸して?

 やってもらいたい事がある」

 俺は諦め半分でメリッサに頼む。


 ソーニャファンクラブのメンバー優秀だしね、動いてもらえれば宰相派の牽制は出来る。


「御意」

 メリッサは丁寧に礼をする。


「……アンタ。何する気?」

「ん? まあ、嫌がらせ、かなぁ?

 俺は戦争とかだるくてしたくないから、そうなる前に自滅してくれると1番有難い」


 難しいだろうなぁ。

 上手くいくかどうか。

 まあ、色々旅した時に聞いたアレやこれやあるしなんとかなるかな?


 ところで、自分で言っておいてなんだけど、俺って帝国諜報部動かす権限あるの?

 メリッサも何も言わずに従うし。

 怖いから聞けなかった。


 わたくし、またしてもご自分のお立場が迷子よ?

 早く帰っておいで、詐欺師のわたくし。




 ケーリー侯爵に何故か御武運を、と見送られながらカストロ公爵領へ出発。


 御武運も何も、どうやって軍を集めるかなんて知らないよ?


 あのオッサン、どうする気なんだ?


 上質な酒を飲みながら、ツマミのスモークチキン。

 エルフ女と無意味に乾杯。


 豪遊じゃー!

 でも、これって貴族からしたら贅沢なんだろうか?

 まあ、俺からしたら十分贅沢だからいいか。


 そんな感じで、馬車が進む事6日ほど。

 休憩の際におトイレに行こうとしたら、メリッサが付いてこようとするのを制ししながら、なんとか森の中でおトイレ。


 森の奥であるものを見つけた。

 無駄に目が良い自分が恨めしい。

 とにかく見えたものを無視して、クルッと馬車に戻ろうと……。


「アンタ、何か見たわね?」

 い、いつの間に背後にエルフ女!

 なんで分かるんだ!?


 逃げなきゃ!


 ガシッと首根っこを掴まれる。

「何を見たのかしら?」

 言いながら、俺ごと目標物に接近。

 は、離してェェエエエエ!!


「は、離せ! 俺は見てない!

 王女とか何も見てないぞ!!」

 エルフ女は俺の涙の訴えを無視して、俺を引きづりながら森の奥へ入り。


「あ!!」

 そこに居たのは、草むらに隠れるように気絶しているぼろぼろの白いドレス姿の美少女。


 柔らかそうな金髪で片手だけ白い手袋。

 薄汚れているのに、地肌は白く貴族のお嬢様なのがよく分かる。


 ううう……、絶対厄介ごとだ。

 だから無視して行こうと思ったのに……。


「うう〜ん……」


 ギャー! タイミング良く起きやがった!!

 寝てろ! 俺が逃げ切るまで、寝てろ!


「……あ、貴方がたは?」

 綺麗なソプラノに吸い込まれそうな鮮やかな青い目。

 S級美少女である。

 そして王族の紋章付きの腕輪持ち。


「……アンタ。また王女拾ったわね?」


 拾ったのはエルフ女、お前だぁああ!!!

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