第116話ゴンザレスとエストリア④

 国を救ってくれってなんぞや!?


 いつから国は詐欺師が救うようになったのでしょう?

 足元すくわれるのが先じゃないか?


「はあ?」

 俺は敢えてそう返事をすると、ケーリー侯爵は皮肉げに笑う。


「そうだろうな。貴殿にしてみれば今更何を、と言ったところか」

 ケーリーは立ち上がり部屋を無駄に歩き出す。


 のそりとしたその動きは可愛くないパンダの動きである。


「この事態を引き起こしたのは、かつてレイド皇国を滅ぼし禁忌なる勇者召喚を起こしたエストリア国。

 自業自得だと言いたいのだろう?」


 俺は首を横に振る。

 全く違います。


「……ふっ、人同士で争っている場合では無い。

 貴殿が帝国に対して送ったメッセージは私にも届いたよ……。

 権力に溺れ贅沢に溺れたこの私にさえ」


 皇帝陛下もそうだったが誰から交信を受けているのでしょう?

 ツツーツー。

 ワレワレハ詐欺師ダ。


 エルフ女に目で訴える。

『このオッサン、何言ってんの?』


 そうすると隣のメリッサに太ももをつねられる。

 可愛く頬まで膨らませるおまけ付き。


 うん、超可愛い。


 オッサン後ろ向いててこちらに気付かず。


 だから、メリッサに目で聞いてみる。

『このオッサン何言ってるの?』


 メリッサはパチンとウィンク。

 うん、可愛いね?


 伝わってないかな?

 太ももに文字書かれた。

 くすぐったい!

(わかってますよ?)


 メリッサはオッサンを見て、首を一回横に振り俺の両手を手に取り、口パクで。

『ファイト!』


 その後、ガッツポーズで応援付き。

 可愛いけど要するにエストリア国の総司令官になれと。


 なれるかーーー!!!


 今度はエルフ女が俺の足をバシバシと叩く。

 いてーよ。


 オッサンは気付かない。


『じゃあ、どうすんのよ?』


 俺は一瞬考え、すぐに答えを出す。

『逃げよう』


 立ち上がる。


 そのタイミングでオッサン振り向く。

「やはり、立ち上がってくれるか。

 それでこそカストロ公爵……いや、世界最強No.0だ」


 ガシッと握手されました。






 ケーリー侯爵との面談を終え、本日の宿として与えられた部屋で俺は頭を抱える。


「どうせこうなると思ってましたので。

 ですから、ファイトとお伝えしました」

 クールな雰囲気なメリッサがまたガッツポーズ。


 うん、ガッツポーズの時、可愛かったからもうそれは良いよ。


「アタシよく分かんないんだけど、こいつが詐欺師かどうかは別にして、全軍の指揮ってそんな簡単に任せて良いものなの?」


 そうだー! 無理だぞー!


 俺はぐったりして身体を横になると、メリッサが動いて膝枕をしてくれる。


 S級美女の膝枕という、あまりの極楽ぶりに俺の身体から力が抜けていく。


 あー、なんかとりあえず、オラもう色々ダメだぁ〜。


 今ならなんでも言うこと聞かされそう。


 ほら、見ろ!

 S級やっぱり恐ろしいぞ!

 こうやって、何でもしてしまいそうになる。


 今なら壺10個ぐらい買うね!

 ……金出すのメリッサだけど。


 エルフ女が俺をジト目で見つめる中、メリッサは気にもせず答える。


「通常は有り得ないでしょう。

 しかしながら、ご主人様のお気持ちはどうあれ、エストリア国で多数居る将軍や司令官の中で1番の指揮官が誰かと問われれば……。


 間違いなくご主人様の名前が候補に上がることでしょう。

 帝国がその覇道を辞めた理由は、決して伊達ではありません」


 俺の名前がいつも通り、俺の知らない間に急浮上。

 それは別人ですよ?

 お名前をもう一度確認して放置しておいて下さい。


 まあ、エストリア国にも名将や猛将もいっぱい居るし、その戦記が本にもなってるぐらいだから、実際に戦いになれば俺では相手にならんのじゃないか?


 その内の誰かがケーリー侯爵側に付いてれば、さっさとそいつに押し付ける所存だ。


 そんな皮算用をしてその日はさっさとベッドでお休みなさい。






「はぁ?」

 ちょっと眠たい中、ケーリー侯爵から情報を聞いて俺は愕然とする。


 肝心要の有名どころの将軍たちは、誰もケーリー侯爵側に付いていないだと。


 誰かー!!!

 今なら全軍の指揮官になれますよー!!


 泥舟だから誰も乗りませんよね?

 俺も乗らない、乗らないぞ!

 乗せるなよ!!


 ……これは結局のところ怪物宰相グローリーの政治力の差だ。


 ケーリー侯爵は副宰相になれるかも、というほど勢力を伸ばしてはいたがそれは文官派閥に対して。

 反対にグローリー宰相の派閥は軍部側に偏っていた。


 それにしたって王家に付く軍部側が少なすぎると思ったが、背景にナンバーズ優遇の背景があった。


 王家はその国家の武威として、ナンバーズ、つまり殺されたNo.5とNo.6、更には勇者を優先し、ある種、有能な将軍たちをないがしろにした。


 これまたそうなる背景があった。

 かつてレイド皇国との戦いは王家として行いたいものではなかった。

 それを王家はずっと苦々しく思っていた。


 しかしそれを軍部が主導し、挙句には、完勝してしまった。

 そのためエストリア国磐石なり、と帝国や周辺国に対し付け入る隙を与えなかった。


 それが皮肉な事にレイド皇国を滅ぼして以来、大きな大戦が起こる余地をなくしてしまった。

 つまり、軍部の活躍の場を自ら奪ってしまったのだ。


 その事は今回のことに更に悪影響を及ぼした。


 王家としてはレイド皇国との戦いの際に蔑ろにされた恨みもあり、軍部にやり返す機会を狙っていた。


 それと同時に大戦が無い故に、王家が将軍たち軍部要らなくね、と勘違いしたことも致命的だった。


 軍備縮小は国家運営の永遠のテーマだ。

 戦争をする余地が無ければ、軍備に費やす金は無駄金でしかない。


 また、軍部が待ち望んでいたコルラン国との戦いは、始まりと共にカストロ公爵により終焉を迎えた。


 これにより、軍部と王家の亀裂は更に大きくなった。

 そこに今回の邪神の件である。

 世界の叡智の塔からの邪神の思念により、彼らの憎悪や欲望が刺激され遂には事に至ってしまった。


 そんな国の一大事を、何故か聞かされる詐欺師ゴンザレス。


 俺はとりあえず思った。

 逃げて良いよな?


「ダメでしょうね」

「なんで!?」

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