第115話ゴンザレスとエストリア③

 エルフ女が馬車に戻って来た時、俺はメリッサの膝枕で横になっていた。

 その姿をエルフ女にジト目で確認される。

「分かった?」

「……へい」


 絞られましたわ……。

 それがそこはかとなく幸せなので、なんだかもう良いかなと思えてしまうのです。


 メリッサは穏やかな微笑みを浮かべている。

「もう逃げないでくれるそうですよ?

 逃げてもついて来て良いそうです」


 メリッサはとても嬉しそうだ。

 なんでそんなに嬉しそうなの?

 わたくし、不思議がいっぱいでしてよ?


「ほ〜んと、なんでこんなクズが良いんだか」

 エルフ女はニヤリと笑う。

 ぬぬぬ! 否定出来ん!!


「ほんと、なんででしょうね。きっと大切な時に、大切なものを守ってくれたからでしょうね」


 俺はそれを即座に否定する。

「それは詐欺だ。注意しなさい」

「アンタが言うな」


 メリッサの大切なものを守った覚えはないけど、分からされたのでそうなのだということです。


 その後は3人で高級なワイン片手にチーズをもぐもぐしながら移動。

「なあ? そもそも、これ何処向かってるんだ?」


 実は行き先を知りません。

 押し込められて護衛付きで何処行ってるんだ?


 これは拉致である!

 我が自由を……って言葉に出してないので、そんなに睨まないでメリッサ。

 心の読まれる詐欺師なんて致命的なのよ?


「さあ?」

 エルフ女に聞いていない!

 お前はどうせ知らないと思ったよ!

 俺と同じだ!


「ご主人様の領地ですよ」

「げ!?」

「げ!? じゃないわよ。

 イリスにもちゃんとしなさいよ?

 あの娘、健気にずっと最初っからカストロ公爵に尽くしてくれてるらしいじゃない」


 あれは最初からあいつも関わった詐欺だ。

 何故か知らない間に領地も手に入ってるし。


 というか、最初は俺の領地じゃなくてNo.8の領地だった筈なのに、いつからカストロ公爵の領地になったんだ!


 これが噂の名義変更詐欺だ!

 皆、注意しよう!!


「普通はそんな簡単に領地なんて手に入らないはずだけどなぁ……」

 エルフ女がボヤく。


「ケーリー侯爵って奴が理由もなくポンポンくれるんだ。俺のせいじゃない!」


 丁度、今、そのケーリー侯爵の領地を移動中だ。

 護衛というより軍の移動になるので、ちゃんと事前に連絡済み。


「ご主人様、ケーリー侯爵より屋敷へのご招待です。

 如何致しますか?」


 え!? 拒否権はあるけど、今後のことを思うと会うべき?

 ははー、良きに計らえで。






 そうして、3人でケーリー侯爵の屋敷へ。

(アタシさあ、前にもこんな状況覚えある)

(奇遇だな。俺もだ)


 フッカフカのソファーにエルフ女と俺。

 後ろにメリッサが控える。

 身分的には座っていいだろうに後ろに立つことを主張する。


 お、俺の後ろに立つなんて!

 生殺与奪の全てを握られている!


 いつもだけど。


 それはともかくとしてこのケーリー侯爵の屋敷、来る度に領地を渡される、まさに鬼門の屋敷!!

 渡されてもどうにも出来ねぇよ!

 貴様が認めなければカストロ公爵なんて現れなかったのに!!


 そこに侯爵が入ってくる。

 金ピカ貴族のおっさん。

 金髪太り、やたらとジャラジャラと悪趣味な服でザッ貴族って感じ。

 少し痩せた? ダイエット?

 口元にも笑顔はなく相変わらず目が笑っていない。


 疲れた顔でため息を一つ。


「……カストロ公爵。やはりそなたは全てを知っていたのだな。

 メリッサ皇女もどうぞお座り下さい」


 何も知らねぇよ……。

 なんのことでござんしょ?


「いいえ、私はご主人様のシモベのメメでしかありません。お気になさらずよう」


 俺も気になるのでメリッサに座るように声を掛ける。


「メリッサ、座るように」

「はい」

 すぐに返事をして、エルフ女とは反対の俺のすぐ隣に座る。

 俺の太ももに手を置くなー!

 興奮するだろうがー!!


 ケーリー侯爵はまた一つため息。


「カストロ公爵、言われた通り勇者は帰還させた。これで次元の扉は閉じられた。

 そなたが望んだように」


 キョウちゃん帰っちゃったのかー、あの娘の初めては奪いたかったな〜。

 しつこく無さそうだったし。


 ハハハ。

 俺が望んだ通りって、何?


 エルフ女が俺を見る。

 ジト目で。


『アンタ、またなんかやったでしょ?』


 そんな目で。

 酷い冤罪えんざいです。


 事件はこうして作られるのです。


『信じてくれ!』

 目で訴える。


 エルフ女のジト目がキツくなる。


『信じる訳ないでしょ?

 アンタ詐欺師でしょ』


 ごもっとも。


 そんな中、ケーリー侯爵の独白は続く。

 推理小説の犯人が自白する感じ?

 探偵は留守ですが。


「最初からそなたは分かっていたのだろう?

 勇者召喚の禁忌を……その理由を。

 ああ、誤魔化しは不要だ。

 メリッサ皇女が一緒なのがその何よりの証拠。

 ……そうなのだ。

 私は禁忌と知りながらレイド皇国の禁術である勇者召喚を王に勧めた。

 全てはエストリア国のために……。


 しかしかの怪物、グローリー宰相はそうではなかった。

 全ては己の野心のために。

 邪神の力を取り込んだ。

 勇者の送還の際に漏れ出した邪神の力を吸収し邪神の力で影響力を強め、ついに。


 ……カストロ公爵殿。

 グローリー宰相が反乱しました。

 王都は焼かれ、王族はその大半が処刑、詳細は不明ですがエストリア国の半分、いや2/3は奴の手に落ちております。


 我が国は貴方に、この国の命運を託すしか無いのです。

 全軍の指揮を任せます。

 何卒、この国をお頼み申します」


 途中から突然丁寧な言葉遣いをして、この金ピカハゲ、突然何言ってんの!?


 詐欺師に突然、国の命運任せてんじゃねぇぇぇええええ!!!!!


 俺、この展開どっかで見たことあるぞ!?

 あん時は可愛い王女様からの願いだったけどな!!!

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