第110話帝国とゴンザレス⑥
「という訳でな。色々頼む」
「あ、いえ、こちらこそ。
わたくしめも出来る限り頑張る所存です」
あの後、俺は何故か皇帝陛下とテラスで2人だけで酒を酌み交わしている。
女性陣の勢いに戸惑った者同士ということで。
流れで頑張るなどとほざいてしまったが、もちろん逃亡予定だ。
メメに参りましょうと言われた後、色々と準備があるらしく待機中。
色々と準備って何、とか。
どこに参るの、とか。
聞いてはいけない、聞かザルである。
そもそも塔を破壊するも何も、どうして良いかさっぱり分からないので全てお任せコースだ。
任せつつ隙を見て逃亡である。
酒うめぇ〜。
「陛下、その神託とは一体……」
なんとなく神託詐欺を暴けば俺のよく分からない誤解も解けると思ったから尋ねてみた。
「神託とはそのまま、神託よ。
一部の皇族にのみ夢見によるお告げよ」
なんだ、ただの夢か。
「今、お主ただの夢かと思っただろ?
違うぞ?
そもそもレイド皇国が滅びたのも神託に従わなかったという経緯がある」
皇帝陛下は酒を傾けながらニヤッと笑う。
ゴツい体格だから怖いけど似合う笑い方。
「なんで考えていることが分かるかと思ったな?
それこそ皇族に伝わる勘の良さ、みたいなものと言った方が良いだろうな。
お主もメリッサちゃんに良く心の中を、見破られているのではないか?」
正解です。
なるほど、俺が分かりやすいからではなかったからだな!
そんなことになれば詐欺師廃業だしね!
皇帝陛下すげ〜。
ここで詐欺をするには感心すべきことは素直に感動を表に出すと騙しやすくなるぞ!
感心している姿は本物だから、その後の詐欺は印象操作をしやすくなる。
詐欺師ゴンザレスの教えだ。
しかし俺の素直な反応をヨイショとでも思ったのか、少し皇帝陛下はつまらなさそうに酒を傾ける。
「……まあ、良い。
レイド皇国は神託により、エストリア国を警戒する様にお告げがあったという。
だが防備を固めようとする中、貴族たちの反対に遭い警戒をやめた。
神託をただの夢と一笑に付されてな。
おそらくエストリア国からの調略があったのであろう。
結果は、皇都を攻められ呆気なく滅びた。
帝国の援軍も間に合うことなくな。
それを仕掛けたのがエストリア国現宰相グローリー、怪物と呼ばれる男よ」
何かの歴史の本で読んだなぁ。
それによると帝国と皇国は100年ほど前に分かれた同じ一族で、両国は親密な仲だったとか。
「メリッサちゃんはその一族の血をより多く継いでおる。
故にあの子のみが逃げ切ることが出来た。
……だがな、皮肉なことに信じていた乳母に裏切られ奴隷にされかけた。
信用出来る者も心変わりすることに気付けずに、な。
カレンがその心に寄り添いあそこまで回復したが、心の奥では人を信用するのを恐れたままだ。
そのメリッサちゃんがお主を連れて来た」
詐欺師をご主人様と言っている時点で、メメちゃんの心の傷は深刻かと思いますが?
なんであの娘、俺に引っ付いてくるの?
ますます分からん。
つまりメメちゃんの純真な心の隙間に詐欺師がこれ以上なく、入り込んで騙してしまった、と。
No.8といい、王女様たち純粋過ぎる!
詐欺師ゴンザレス、やっちまったぜ!
バレたら間違いなく斬られる!
トクトクと音をさせながら、手酌で酒を注ぐ皇帝陛下。
もう今更も今更だけどなんで俺は帝国で1番偉い皇帝と2人で呑んでるんだ?
普通、皇帝陛下には護衛が付くし給仕も付くだろ?
そのことを尋ねると、世界最強を前に誰を置いたところで、無意味であろう?
そうニヤリと豪胆なご様子。
誤解ですからね?
まあ、皇帝陛下お一人で十分俺をねじ伏せられるので、問題がないと言えばない。
……ないのか?
そもそも世界最強No.0じゃなければ俺は一体誰だ!
……詐欺師のゴンザレスです。
自分を見失うな、俺よ!
酒が回り始めたのか、皇帝陛下はさらに饒舌になる。
あえて言うならば詐欺師が大詰めの仕事に掛かろうという時のあの雰囲気!
……どんな雰囲気よ?
まあいいや、皇帝陛下なんて機密の塊だもんな。
俺で聞ける話ぐらい聞いてあげようと俺にしては珍しい心持ち。
「そもそも、レイド皇国は善神と邪神の二神の戦いの後、世界を鎮護するためにできた1000年王国であった。
善神はその身体を失い、邪神は次元の彼方へ封印され2度とこの世界に戻らぬようにな。
だが、その皇国が滅びた。
皇国を滅ぼしたエストリアは、勇者召喚の秘術を手にしてそれを行った。
レイド皇国より奪った秘宝を使ってな。
勇者召喚は危険な技術だ、次元を開き人に限らず魔神すらも呼び寄せる。
それだけではなく、善神が封印した次元の彼方にも繋がっていた。
故に禁忌とされていたのだ。
勇者召喚の次元の隙間から邪神が入り込んだのだ。
世界の叡智の塔は僅か数年前に出来たものだ。
恐らく勇者召喚の時に。
だから、世界ランクナンバーズには若者しか居なかったのだ。
何十年も前から存在しているものではないからな。
邪神によって世界全ての記憶が操作されておったのだ、さも古くから存在するかのように、な。
邪神は各大国の首都に世界の叡智の塔を建てた。
人々を弄ぶために、な。
そして、世界最強と持て囃されたナンバーズを始末し、世界に絶望をもたらそうとしたのだ。
魔王すらも邪神にはおもちゃでしかなく、剣聖の担い手殿が気付いたことだが、魔王は自身の意思を持っていないようであったと。
皮肉ながら魔王を討伐するための勇者がこの世界にいる間、次元の扉は閉じることなく開いたままであった。
それに気付いたNo.0、お主がエストリア国に働きかけ、勇者を帰還させ次元の扉は閉じた。
だが時すでに遅く、邪神の影響力はこの世界に十分に広まってしまっていた。
だが、それでもまだマシと言えよう。
邪神は今も、具現化するほどの力はないようだからな。
それでも世界を滅ぼすには十分な力だがな。
人は滅びの道を辿るしかなくなった。
世界の叡智の塔を破壊することすら、それを少しばかり遅らせる効果しかない。
それが今回の、いいや、かねてより仕掛けられていたカラクリよ。
ふ……何が皇帝だ。
事が手遅れになるまで、何一つ気付くことはなかった。
この世界でそれをなんとかしようと足掻いていたのは、No.0、お主だけだった。
だからであろうな……メリッサちゃんはお主を、ここに連れて来たのだろう」
へい! 皇帝陛下!
ユー何言っちゃってんの!?
聞くんじゃなかったぁぁあああ!!!!
何、この世界の重大な秘密っぽいこと俺に言ってんの!?
知らねぇよ!
邪神とか滅びとか、どうでもいいし!
あんた俺を詐欺師と理解したんじゃなかったのかぁあああああ!!!!!
何を詐欺師にぶちまけとんじゃァァァアアアア!!!!
最後に皇帝陛下は杯の酒をぐびぐびと飲み干し俺に言った。
「お主に出発前に頼みたいことがある。
なぁに詐欺師というなら簡単な騙しの仕事だ」
俺はもう何が何か分からず、頷きたくなかったが頷くしかなかった。
……だが疲れ切った俺はそれでも頷いてはいけなかったのだ。
次の日、帝国の大臣及び諸官居並ぶ中、俺は皇帝陛下に公式に謁見させられることとなったのだ。
ど、どうしてこうなったーーーー!!!!
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