第112話帝国とゴンザレス⑧

 メリッサ元皇女が帝国諸官に述べた内容は、あまりに衝撃的なものだった。


 世界ランクナンバーズすらも敵わない相手をただの一撃。

 にわかに信じ難い話であった。


 だが、帝国が誇る3人のナンバーズがそれを認めた。

 ましてやその1人は帝国が誇る皇女カレン・シュトナイダー、世界ランクNo.2。

 虚偽を述べる筈がない。


 今回の式典は事情上今まで表に出て来なかったNo.0を、帝国が表立ってその立場を支持するものでもあった。


 帝国はカストロ公爵アレスであると同時にNo.0への無条件の支援を公式に認めた。


 それが世界にどんな影響を及ぼすか、人々が知る日はそう遠くないだろう。


 暴かれ始めた世界の叡智の塔の謎。

 果たして、人類は生き延びる事が出来るのか。


 蠢き始めた邪神に対し人類はなす術はあるのか?


 世界の叡智の塔、そこに刻まれた世界ランクナンバーズ。

 そこにNo.0の名は、ない。







「あんたも大変ねぇ〜。惚れた男といるためにわざわざ正当性を用意しないといけないんだから」


 エルフィーナは相変わらずソファーに寝そべり、何個目か分からないフルーツを齧りながらメリッサにそう言った。


 アレスは祝典の前に準備のために、用意された部屋に戻るや否や、豪華な服のままばったりとエルフィーナの対面のソファーに倒れ込んだ。


そして3秒も保たずに気絶するように眠りに落ちた。


 メリッサはアレスが寝転ぶソファーに座りアレスの頭を太ももに乗せる。


 アレスは既に気絶しているが悪夢でも見ているのか、誤解だー、誤解なんだーとうなっている。


 そのアレスの頭をメリッサは優しく撫でながら、エルフィーナの言葉にはそっぽを向く。


 いくらレイド皇国が滅びたとは言え、帝国に保護され社会的な立場を保ったままのメリッサには、立場というものが残っている。


 この辺りは世界ランクNo.8のイリス・ウラハラとは、同じ亡国の王女であっても立場が大分違う。


 ましてや、イリスについてはカストロ公爵の名が世に出て来た時から、その庇護下にあることは周知の事実だ。


 個としてアレスに付き従ったとしても、正式に、となるとそういう訳にはいかない。

 だが今回の出来事により、公式的にメリッサはカストロ公爵アレスの側に控える者としての立場を示して見せた。


 そしてまた、カストロ公爵アレス、いや、No.0がそれに足る人物であることも。


 明らかにアレス本人は望んでいないことではあるが。


「ま、アタシは面白かったらどっちでも良いけどね」

 エルフであるエルフィーナからすれば、立場云々などただの面倒ごとに過ぎない。


そんなことがなかろうとエルフィーナはアレスが契約により、その庇護下にあることは本人の中で規定の事実だ。


アレスが自分がエルフィーナに対して詐欺の結果について、どこまで理解しているかは全く不明だが。


多分、いつも通り気付いていないだろう。

それもまたエルフィーナにとって、アレスという詐欺師のちょっと憎めないところなのかもしれない。


 それにエルフィーナにしてみれば、役目故に魔王との戦いで死ぬ事になるとばかり思っていた。


 それをS級美女に膝枕をされていることにも気付かずに誤解だと唸りながら眠る男に、強引にくつがえされてからというもの、もはや人生はボーナスステージである。


「なーにが、誤解なんだか。

 きっちりあんたがことでしょうに。

 メリッサもさっさとこいつにNo.0ではなく、詐欺師ってちゃんと分かってるって伝えたら?」


 こいつとアレスを指差しメリッサを見る。


「このお方はNo.0です」

「あん?」


 メリッサはそれ以上何も言わずアレスの頭を撫で続ける。


 エルフィーナはそんなアレスを呆れながら見る。

「おーい、あんたの大好きなS級美女にここまでされてるんだから、もうちょっとは頑張りなさいよ〜」

「良いのですよ。ご主人様は十分頑張ってくれてます」


「アンタねぇ……。それがダメ男をさらにダメにするのよ?

 まあ、こいつも女を不幸にしている訳ではないからまだ良いんだろうけど」


 むしろ何故か関わる相手を幸せにすらしてる。


 エルフィーナに言われたことにちょっと自覚があるのか、メリッサは目を逸らす。


「まー、この男も魔王を時点で、どう取り繕うと誤解も何も無いほど、世界的な英雄になっちゃってるんだけどね」


 アレスのことだ、気づいていない事だろう。

 きっと彼だけは気付いていない。

 既に詐欺師と名乗ろうが英雄の実績が本物である以上、詐欺師だろうとなんだろうと関係なく、英雄であることに。


 そして彼以外に、この世界にNo.0を名乗っている者がただの1人もいない事に。


 これまた、きっと彼だけは気付いていない。


「いや、気付けよ!」

 思わず、エルフィーナは唸りながら眠るアレスに突っ込んでしまった。

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