第113話ゴンザレスとエストリア①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵様だとか、転生者とか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0





 わたくし、アレスと申しますわ。

 かつてはゴンザレスとも呼ばれましたことよ?


 詐欺師ですのよ?


 アレスという名前の公爵様がいらっしゃるとかで、その公爵様は帝国からエストリア国に馬車で移動中らしいですことよ?


 ガタゴトガタゴトと揺れながら馬車が進む……と言いたいが、とっても静かな馬車に乗っております。


 驚くほど豪華な馬車ですの。

 わたくし、高貴なお方が乗るような馬車に乗ってるの。


 はい、なんと!

 カストロ公爵アレスは、どうやらわたくしのことのようですわよ?


 おーほっほっほ!

 ……どうしてこうなった。


 馬車には何故か元レイド皇国皇女メリッサ様に、剣聖の担い手と呼ばれるエルフィーナ様がご一緒よ?


 お外にはレイド皇国の元兵士から構成された護衛部隊が一緒よ?


 なんと1000人ほどいらっしゃるわ!

 あ、それとNo.9ツバメさんと優しく綺麗なチェイミーさんも一緒よ?


 護衛として同行してくれるらしいわ?

 ご挨拶に来たの。

 2人ともとーっても出世されて、今では近衛隊らしいわ。

 近衛って通常、皇族とか帝都の守りをする筈よね?


 何故、いらしてるのかしら?

 メメちゃんが皇族扱いだからかしら?


 でもメメちゃん、結構1人でというか、わたくしについて行動してたわよね?


 ああ、後、わたくし近衛隊の方々より偉いらしいわ!

 豪華な馬車に乗せられているもの!


 俺は一体、何者なんだ?


「ちょっとアンタ。

 メリッサが暴走しちゃったのアンタのせいだからね?

 ハーレム形成するのも良いけど、そこんとこちゃんとしなさいよね?」


 ワイングラスを傾けパクリとチーズを食べ、可愛い口をもぐもぐさせながらエルフ女は言う。


 うるせえ、その口もぐもぐすんぞとは言わず、俺が返す言葉はこうだ。

「え?誰が?」


「おい、クズ。まさかアンタ?

 どっかの本みたいに気づいてないフリしようとしてんじゃないわよね?」


 な、何を言う!?

 ど、どんな本にそんな羨まけしからん奴が登場すると言うのだ!

 沢山の本を読んだ俺にもそんな話は……。


 と、とにかく! 俺のことじゃない!


「ハ、ハーレムなんて作れるのは、どっかの魔力が凄くて異世界から来て『あれ? 俺なんかやっちゃった?』とか抜かす奴だけだ!」


 俺は必死に弁明をする。

 何故かメメからの視線が痛い!


「このクズ!

 アンタ気付いてるでしょ?

 絶対気付いててまだ知らんフリしてるでしょ!

 このクズ野郎!!」


 クズクズ言うな!!

 ……うんまあ、詐欺師ですし。

 だが、だからこそ!


「仕方ないじゃないか!

 どこの世界にスラム上がりが王侯貴族をハーレムにしてるんだ!

 そんなのはフィクションの大人な本だけだ!!!」

「ここに居るだろうが!

 現実認めなさい!!」


 まるで『目を覚ましなさい、目覚めるのは今よ』とでも言うようにエルフ女が胸ぐら掴んで来る。

 俺はそれでも一生懸命首を横に振る。


「い、嫌だーーー!!!

 俺は信じない!

 信じないぞー!

 たまに本とかで突然、凄い力が手に入って、いきなり地位を築いてハーレム作ったりする内容あるけど奴ら精神のバケモンだ!!


 どんだけ強靭なメンタルしてたらそんなこと出来るんだ!

 ありえねぇよ!


 生まれついての貴族か!?

 お前もハーレムしてみろよ!

 常識が崩れて超怖えぞ!!!」


「いやぁ、私は遠慮しておくわ」

「チクショー!

 お前も俺のハーレム入りだー!」

「はいはい」


 エルフ女に軽くあしらわれつつ、はぁはぁ、と息を整える。


「繰り返すけどさ。

 メリッサが暴走したのアンタのせいだからね?

 可哀想にこんなにアンタに尽くしてくれてんのに、クズはクズでも少しは筋は通しなよ?」


 エルフ女に言われて、メメの方を見るとメメはプイっと顔を背ける。


 俺はまるで『私も相手にしてよ』と可愛く拗ねた様子のS級美女元皇女メリッサ様を震えながら見て言う。


「嫌だ。騙される!」

 俺は必死に抵抗する。


「はあ?」

 エルフ女が怪訝な顔。


「俺知ってる!

 そういうの美人局つつもたせって言うんだ!

 奴らはケツの毛までむしるんだ!

 嘘じゃないぞ!!

 むしられたんだ!!!」


 それは……俺の聞くも涙、語るも涙のお話。

 それを今、明かそう。

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