第106話帝国とゴンザレス②

 全員が黙ったまま。

 俺も土下座したいけど、どのタイミングで土下座していいのか分からず立ち尽くす。


 親切な人、教えて?

 誰か頭が高い控えろとか言ってくれないかな?

 すぐ控えるよ?


 ……誰も何も言わないね?

 どうしろと?


 帝国皇女様、そこでニヤニヤしないで何か言って?


 コホンとわざとらしく皇帝陛下。


 俺……どうしていいか分からないので、立ち尽くすのみ。

 メメ?

 なんでここに連れてきた?


 コホンと皇帝陛下がもう一度。

 ほら! 皇帝陛下も困っているじゃないか!


 ……ようやく、仕方なくという感じに皇帝陛下が口を開く。

「その方、No.0だな?」

「違います!」


 俺は直立不動、元気よく否定する。

 断固として即座に否定させて頂く!

 あんな訳の分からない存在と一緒にしないで頂きたい!


 しかもNo.0が権力者に好かれるタイプとは、どう考えても思えない!


 恐ろしい誤解はやめてくれ!

 精神的被害を受けた!

 慰謝料は勘弁してあげるので、ここで逃してください!!


 でも慰謝料くれるなら貰います!

 メメちゃんとか!

 あれ、もう貰ってる?

 いやいやまさか……いやいや……。


 ……だが、同時にに落ちた。

 なんと俺はまだメメからも、No.0と誤解されていたという訳だ。


 だから、まだご主人様呼びなのだ。

 そっかー、どうりでS級美女が構ってくれる訳だ。

 世界最強なら仕方ない。


 皇帝陛下が俺を指差し、隣の自分の娘に目で合図。

 娘さん、つまり帝国皇女様はにこやかに笑顔を浮かべ首を横に振る。


 皇帝陛下はまたコホン、と。

 実は皇帝陛下風邪ですか?

 それはいけない、今すぐ謁見を切り上げて解散しましょう。


「では、カストロ公爵アレス殿」


 皇帝陛下はそう言い換える。

 No.0ではないなら、カストロ公爵アレスだな、と。


 これには俺がグッ、と息を呑む。

 カストロ公爵アレスとして、すでに色々やらかしている。

 一応、帝国からの指示でやったいくつかもあるが……。


 帝国の指示と聞かされてはいたが、メメに騙されているだけかもしれない。

 イイ女は男を騙すものだからな!!

 だから仕方ない!


 どっちだ! どっちが正解だ!

 カストロ公爵アレスと認めるか、否か。


 イェスか! ノゥか!


 俺は決断した!

「イイイ、ノゥ」


 皇帝陛下が息を呑むのが分かる。

「バカにしてるのか?」


 ひーーーーー!!!

 お許しをーーー!!


 チンケな詐欺師がなんでこんな目に〜!!

 がばりと土下座!


 沈黙が流れる。


 ちろっと、皇帝陛下を見る。

 あ、困ってる。


 うん、ほら、チンケな詐欺師に謁見を許してもいい事ないよ?

 退室を命じて下さい、皇帝陛下。


「……メリッサちゃん。本当にコレがご主人様?」

 皇帝陛下が、俺をコレ呼ばわり。


 へっへっへ、全くその通りでございます。


「はい、ご主人様です」

 しれっと言い切るメメ。


 もうさ、何なの? その恐ろしい信頼感。

 わたくしとんでもなく怖いんですけど。


 誰よりも俺が愕然がくぜんとしております。


 どうしましょ、という感じに皇帝陛下を見る。

 あ、憤怒の顔。


 よくもウチの子をたぶらかしたな、あぁん? という感じでしょうか?

 メメと皇帝陛下の関係というか、帝国とレイド皇国の関係はかなり親密だったご様子。


 つまり、皇帝陛下はメメの親代わりみたいなもの?


 ゴンザレス、最大の危機かもしれない。


 ……いやいや、待て!

 おかしい。

 思い起こせば、俺はメメを確かに詐欺ろうとは思ったが、結局、あれは……。


 ……まあ、最初は確かに騙したと言えなくもないか。


 うん、つまり、やっぱりピンチ。


 考えろー、考えろー。


 皇帝陛下相手にどんなアイデアがあると言うんだ!

 ねぇよ!


「お父様、話が進みませんので続きを」

 そこで帝国皇女様からの助け舟。


 そこまでは良いんだが、その後に俺に対してニコッと微笑む。

 あら、可愛い笑顔ね?


 お隣のお父様が先程より、更に恐ろしいお顔をされてらっしゃることよ?


「……貴様。よもやメリッサちゃんだけに留まらず」

 ズゴゴゴっと、巨大なオーラが見える。


 俺は必死に首を横に振る。

「……陛下。落ち着いて下さい」


 今度はメメが止める。

 その言葉に皇帝陛下は、静かに怒気を収める。


「そんなにこの男が良いのか?」

「はい、それほどです」


 もうさぁ、それを聞いて俺はどうすりゃあいいの?


 俺をほんとなんだと思ってんの、メメちゃん?

 ……No.0と思ってるってことだよなぁ。

 ますます違うとバレたらやばいことになる。


 もうほんと、十分ヤバいけど。


 今更、卑屈になっても許してもらえそうにないことは分かった。


 ……しかし。

 あれ? これってもしかして。


 許されもしてないけどスクッと立ち上がる。

「む?」

 皇帝陛下はその態度に少し何かを感じたようだ。


 そして俺はうやうやしく言葉を告げる。

「皇帝陛下、どうやら誤解があるご様子です。

 私めは、皇帝陛下に謁見させて頂くなどやはりあまりに過ぎたこと。

 このうえはこれ以上のご不快を与えぬよう、これで失礼致します」


 処刑するために呼んだ訳ではないなら、もう帰って良いんじゃない?


 俺は皇帝の睨みに対し、ニヤリと笑い、背を向け立ち去るのみ!


「ご安心を。2度と帝国の地を踏まぬように致しますので」


 よし! 流れで無罪放免!

 皇帝が正気を取り戻して、やっぱ処刑ね? そんなことを言い出す前に逃げ切れば完璧だ!!


「お父様!」

 突然の帝国皇女様の焦った声。


 およ?

 何事かと振り返ると。


 皇帝陛下がその場で頭を下げている。


 な、なんで!?


 皇帝陛下はその状態で俺に言う。

「すまぬ、そちを試すようなマネをしたこと許してくれ。

 流石は世界最強No.0よ、全て見破っておったか……」


 なんで、なんで! そうなるんだぁぁあああ!!??

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る