第107話帝国とゴンザレス③

 恐れおののく俺。


 何故か、詐欺師に頭を下げる皇帝陛下!

 果たして、この帝国に未来はあるのか!?


 俺はあまりの事態に、ついにメメに尋ねた。

「な、なあ、メメちゃん?」

「なんでしょう? ご主人様」


 そのご主人様呼びも聞き慣れた気がするけど、超S級美女がチンケな詐欺師に、ご主人様呼びをする異常事態も何も解明されていない。


 とりあえず目を逸らすけど。


「な、なんで、皇帝陛下は頭を下げてらっしゃるのですかね?

 見えない誰かいらっしゃるのでしょうか?」

 むしろ、見えない誰かが居ると言ってくれ……。


「ご主人様に対して謝罪されているかと」

「なんで!?」

「ご主人様が帝国を『見捨てる』とおっしゃられたので」


 ブンブンと首を横に振る。


 言ってない言ってない!

 なんでそうなる!!


「アレス様」

 帝国皇女様が俺に呼びかける。


「どういうこと?」

 俺は思わず問いかける。


 あとあのね? 帝国皇女様?

 俺、貴女様に様付けされる御身分じゃないのよ? 

 お願い、分かって?


 何が致命的になるかさっぱり分からないので迂闊に口には出せない、というか今の状況がさっぱりだ!


 さっぱり、さっぱり!!

 俺の脳内で小さなゴンザレスが団扇を持って踊りだす。


 いかん、これが噂の現実逃避!

 誰か! 俺に常識を取り戻させろ!


 帝国皇女様がうやうやしく頭を下げる。

「神託があったのです」

「神託?」

「はい。ある人物に従え、と。

 その人物とは」

「人物とは……?」


 我知らずごくりと息を飲んでしまった。


「蒼き衣を纏いて、赤い絨毯に降り立つ」


 蒼き衣……。

 俺の着せられた豪華な服を見る。


 ……蒼い。


 足元。


 赤い絨毯。


 ……神託、こじつけじゃね?


 帝国皇女様を見る。

「てへ♡」


 チクショー、可愛いー!

 メメがいつの間にか隣に来てジト目をする。


 この娘意外と嫉妬深いわね?

 というか、なんでそんなに俺に執着してんの?


 貴女S級よ?

 執着する人、間違えているわよ?


 それを帝国皇女様は笑って流す。

「うそうそ。

 本当は『世界最強に従え』よ」


 それって世界ランクNo.1だよね?

 当たり前だけど、俺じゃないよ?


「神託で陛下が頭下げるって、流石に……」

 俺は思わず、そう口にしてしまう。


「そんなことはないぞ!」

 ガバッと顔を起こし、皇帝陛下が詰め寄ってくる。

 荘厳な赤い絨毯を降りて来る立派な体躯の男の接近に俺は思わず一歩引く。


「あの国難の折、神託ゆえにお主に帝国は救われたのだ。

『帝国の滅びを食い止めたければ、銀の奇跡に頼れ』

 それはあの魔獣の襲来の時を予言しておった。

 銀それは即ち、お主に頼れという信託なのだ」


 来たよ。

 これだよ、神託とかいい加減なのは。


 銀って何を指してるか曖昧だしさ〜。

 俺の髪色がたまたま銀なだけだし。


 それにさあ、じゃあ、それ以外で帝国は滅びないのかってやつよ。


 それに今回、世界最強に従えって従わなければどうなんだ?


 詐欺師並みにそういう胡散臭いのに引っ掛かたらダメだぞ!

 奴らは心の隙間を狙ってます。

 わたくしも狙ってます。


 あー、つまりメメが俺のところに頼みに来たのも、その神託もあったってことね。


 ほ〜ら、見事に騙されてるじゃないか!

 俺のことご主人様とか言ってるしさぁ〜。


 ……何でまだそう言ってるんだろ?

 不思議がいっぱいだわ。


 でも、何かあって俺のせいにされても困るから、予防策。


「世界最強なら世界ランクNo.1で良くない?」

 世界ランクNo.1を誘導しておこう。

 見事、帝国皇女様のハートを世界ランクNo.1が射止めたら、コルランに戻れなくなるだろうな。


 そうなったらパーミットちゃんを貰いに行こう、ウッシッシ。


 ……冗談だからメメちゃん睨まないで?

 俺、口に出してないから。

「ご主人様が分かりやすいのですよ」

 可愛くプンっと言われた。


 そ、そう? そういう割には、No.0って分かってないよね?

 口には出せないけど。

「分かってますよ」


 ……。


 こぇええええーーーーーーーー!!!


 口に出してないのに、会話が成立してる!?


 俺は明らかに動揺して顔に出ていたらしい。

 その反応の心の隙を突いたのだろう。


 恐るべしS級美女メメ、いやメリッサ・レイド!

 心の隙間を突く、それって詐欺師の手法でやんすよ!


 と、と、とにかく、この危機を脱するのが、先だ。

 何かこの状況を抜け出す手は……。

 メメにジーっと見つめられたまま俺は思案する。


 ……打つ手無し!

 よし! 見なかったことにしよう。


 振り返るといつの間にか俺の目の前まで来て、メメと俺のやり取りを見て涙ぐむ皇帝陛下。


 これも、こぇええよ!!


「メリッサちゃん? 大丈夫?

 コレ、ダメ男のたぐいよ?

 流石にワシ、レイド皇王に墓前でなんて言えば良いか……」


「……大丈夫です」

 メメは苦々しい顔をしながらそう答える。

 何が大丈夫なんだろう?


 そして、間に挟まれる俺はなんと言えば良い?


 こういう時は、第三者に仲介してもらおうと帝国皇女様の方を向くと、彼女もいつの間にかすぐそばに!?


 流石は世界ランクNo.2!

 世界最強にもっとも近い女。

 並じゃねぇ!!


 その彼女は俺の服の袖をそっと掴んでいる。

 い、いつの間に!


「お父様。私もコレが良いかもしれないわ」

「きっさまーーー!!

 やっぱりメリッサちゃんだけでなく、カレンちゃんまでー!!!」


 激昂するオッサン皇帝陛下。


 火に油を注ぎやがったーーーー!!!


 なんで帝国皇女様までーーー!?

 騙される前に騙されるなぁぁああ!!


 お前らもっとしっかりしやがれ!!

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