第105話帝国とゴンザレス②

 あ、どうも、ゴンザレスです。

 掃除夫です。


 違う!!

 アレスです。


 自称詐欺師です。

 自称の詐欺師って何?

 ただの一般人。


「ほらほら、そこ汚れてるよ?」

 エルフ女が指差す床に汚れが。


「へーい、姐さん……ってなんでだー!」

 モップを叩きつける。

 もちろん怖い海の男に、見られないように確認済み。


「なんで俺ばっかり働いてるんだ!?

 お前も働け! むしろお前が働け!」

「嫌よ」

「うう……純真なエルフ女はどこへ行ったんだ……」

「主にアンタのせいね」


 ……まあ、散々、詐欺にかけたからなぁ。


「まあ、ようやく船も到着するし、掃除夫も終わりだ」

「……そうね。ところで、なんで掃除夫してたの?」


 分かってなかったんかい。


 麗しい若い美女を連れた男をやっかんで、掃除夫を押し付けられていただけなのだが、その辺りの男の機微というものが、このエルフ女には理解出来ていなかったらしい。


 まあ、所詮はやっかみなのでどうしようもない。


「帝国に着いたら、金を稼がないとなぁ〜」

 また、詐欺師頑張るぞ!


「なんでよ?」

「なんでって……」


 そう言えば、このエルフ女に働くという概念は無いのかもしれない。


 いっそ説明など省いて、騙して働いてもらうのもアリだな。

 俺はそう企みほくそ笑む。


 このエルフ女、性格は置いておいてエルフの種族らしく非常に見た目が良い。


 きっと色んなところで引くて数多あまただろう。

 クックック、と黒い笑いが出そうになる。


 俺がアレやこれや考えている間に、船は帝国の港に到着。


 わらわらとやって来る兵士たち。

 両脇を抱えられる俺。


 ……どういうこと?


「働かなくても大丈夫でしょ?」

 エルフ女はそんな俺に、首を傾げて見せる。


 は、ハメられたーー!!!


 忘れてた。

 俺は帝国で重犯罪人だったことを。


 そうして運ばれる俺。


 ついに、これまでというのか!


 いや! まだだ!

 ギロチンが落ち、首が離れても俺は諦めない!!


 その俺の前に、肩を少し越えたぐらいの茶色のサラサラの髪に、全体的に小柄で可愛らしいクリっとした黒い目が宝石のようで、『超絶冷たい』雰囲気の超S級美女が、仕立ての良い明らかに高価そうな使用人服で姿を見せる。


 あ、無理かも?


 この時、俺は生まれて初めて色々と諦めそうになった。


「冷たい、冷たいご主人様。お帰りなさいませ」


 ……それだけ絶対零度のオーラを放つメメちゃんは、怖かった。


「……ハハ、ハハハ、メメちゃん、お久しぶり? 元気だった?」


 冷たい眼差しもイカしてる〜……。

 背中にとても冷たい汗が、流れる気がします。


「こちらでお着替えを」

「……はい」

「逝ってらっしゃ〜い」

 ハンカチを振るなエルフ女!!

 あと、今、恐ろしい言い方しなかったか?


 今回はメメがずっと監視状態なので、逃げる隙は一部たりとも有りません。


 お風呂まで付いて来られました。

 俺全裸、メメちゃん使用人服のまま、絶対零度の眼差しのまま。


 おかしいの。

 お風呂に入ってるのに、寒いの。

 どうしてかしら?


 お風呂から上がるとメメが服を着せてくれる。

 と〜っても偉い人になった気分。

 そういえば、このメメさん元皇女様なんですって?


 なんで詐欺師に服着せてるの?

 お猿に豪華な服着せる感じ?


 服を着させられて、そのまま連れて行かれます。


 ワオ! 立派な扉!

 魔王城で見たことある。


 門の前で衛兵が槍を交差してカッコいい。

 メメが手で合図すると衛兵が扉を開ける。


 あれ? 今更だけどメメちゃんって、もしかして帝国でも偉い人?

 そういえばなんだか以前も兵とかメイドとかに指示してたよね?


 なんで、俺をご主人様と呼ぶの?

 考え出すと、不思議ワールドに突入しそうなので思考停止。


 扉から入り生まれて初めての、赤い絨毯の豪華な謁見フロア。


 ま、まさか、俺がこんなところに来てしまうなんて……。

 公開処刑?


 その割に側に居るのはメメだけ。

 まさか? 処刑執行人はメメ!?


 あっれー? 何かジト目で見られたぞ?

 ため息付きで。

 ほんと、なんでこんな男をってどういう意味、メメちゃん?


 フロアの真ん中に来た辺りで、スッとメメが右に避けて、そこで使用人のように控える。


 あ、あれ?


 目の前の小階段の先には、椅子に座ったゴツい身体のオッサン。

 その隣にドレス姿の帝国皇女様が立っている。


 つまりゴツい身体のオッサン=皇帝陛下。

 俺、どうすればいいの?

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