邪神編

第104話帝国とゴンザレス①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵様だとか、転生者とか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0




「ちょっと〜、なんでお金持ってないのよ!危うく売られるところだったじゃないの!」


「うるせ〜! 金が無尽蔵に湧いてくる訳ねぇだろ!

 俺の方が怖かったわ!

 危うく血の池作るところだっただろうが!」


 あ、どうも、アレスです。

 最近、ゴンザレスでも良いのかな? 

 そんなことを思ったりします。


 詐欺師です。

 最近、あれ? 詐欺師って自称だっけ? そんなことを思ったりします。


 いやいや、何言ってんの?

 犯した罪は消えないんだよ?


 騙された人の気持ちになって考えてみなさい!

 現在、その被害者Aさん、通称エルフ女と行動を共にしております。


 贖罪しょくざいでしょうか?

 世界を邪神から救えと言われました。


 え? どうやって?

 もう魔王倒したから良いじゃん。


 ダメ?

 ……ダメらしい。


 そんな俺が今、どうしているかというと、船の上で掃除夫をしております。


 うん、どうしてこうなった。






 ゲフタルで一市民として平和に暮らしていた俺は、エルフ女に捕まってゲフタルにある港に連れて来られました。


 そこまでは良い。

 いやいや決して良くはないが、エルフ女に力で敵うわけもないのでどうしようもない。


 当然、ゲフタルを代表する軍師のはずの俺は、船に乗るお金を持っておりません。

 月3銀貨のお給料を貰ってましたが、船賃はまだまだ高く1人1金貨は必要なのだ。

 100銀貨で1金貨だから全然だ。


 それでもエルフ女は気にせず、船に乗り込もうとします。


 忘れていましたがこのエルフ女、1000年も密林に居たので世間知らずです。

 ゲシュタルト連邦王国へも全て、他の人が用意した金で気にせず来たようです。


 屈強な元海賊の船乗りさんたちも、この無法には容赦出来ません!


 船に乗りたければ、身体でも差し出せ! 


 それは俺からすると至極真っ当な言い分です。

 でも皆さん、その正論を言うのは人を選びましょう。


 このエルフ女様は、なんとあの世界ランクナンバーズに匹敵する豪の者。


 しかも! なんとなんと!!

 魔王を討伐し世界を救ったドリームチームのメンバーの1人だったのです!


 世界の救世主が無賃乗船しようとするなよ……。


 世知辛い世の中です。

 世界を救った英雄も金が無いとどうにもなりません。


 どうにもならない筈だから、殺気を放って皆殺しにしてやんぜ、みたいな感じ出すの、やめて?


 その切ったるで? という威圧、俺にも向けてません?


 本来ならどうしても乗りたかったら、あの手この手と詐欺してやるんだが、いきなりのことで詐欺準備が整っておりません。


 よって下座をしてなんとかお許し願った訳です。


 そうは言っても、屈強な元海賊の船乗りさんたちも、はい、そうですかとは引けません。

 エルフ女さんに殺気まで当てられて引き気味になりましたが、舐められては海の男は暮らしていけません。


 しかも若くて可愛い女相手に。


 知識のある人なら、エルフな時点ですぐにそれが剣聖の担い手と呼ばれる凄腕だと分かるのですが、あいにくエルフ女は耳を隠してます。


 そこで天才の俺様!

 ピンっと来ました。


 帽子を脱がせれば良いのです。

 なんで今まで気付かなかったのか。


 気が動転していたようです。


「へい! エルフ女! ちょっと帽子を脱いでみようぜ!」

「なんでよ? 嫌よ」


 嫌と言われましても。

 ぷんっと可愛らしくそっぽを向きますが、その正体は危険生物です。


「いや、そう言わず、ちょっと可愛らしいそのお耳をですね……?」


 その俺たちの様子を見た海の男たちはついにキレた。


「おい! この野郎!! 見せつけやがって!!

 こうなったら、仕方ねぇ! 力付くでも世間の厳しさを教えてやる!!

 羨ましいんじゃボケナスー!!」


 目に涙まで浮かべている。

 余程羨ましかったらしい。


 余談だが、この真っ先に切れた海の男、名をセルバンティスと言い、つい昨日、アプローチしていた花屋の彼女に振られたばかりである。


 それでも涙をのんで、海へと出ようとした矢先の出来事であった。


「待て! 早まるな!! 血の海になるぞ!」

 マジで!

 俺はこれから起こる惨劇を食い止めるために必死に止める。


 厄介ごとはごめんだ!!


「おうおう! やってみろよ! エセイケメン!!」

 やっちまうのは俺じゃねーー!!


 お、お前ら、この殺気を感じないのか!!

 ヤメテェェエエエエ!?

 わたくしを巻き込まないでーーー!!!


「何を騒いでいる!!」

 突然、男たちを制止する声。

 そこに居たのは、麗しきエッリンちゃんを奪ったにっくきゲーリッヒ。


 ゲーリッヒは俺の顔を見て、心底嫌そうな顔をしながら海の男どもに話しかける。


 チラチラ、こちらを見つつ……。

 何を話しているのかしら?

 とっても嫌〜な感じですわよ?


 海の男どもが戻って来て、一言。


「乗れ」

 ご遠慮します。


「邪魔するわ」

 そう言いたかったけど、片手で首根っこ掴まれてエルフ女に運ばれた。


 そうして、乗れたは良いが海の男どものやっかみを受けて、掃除夫を押し付けられた。


 ゲーリッヒなんて言ったの?







 この時、ゲーリッヒが言った言葉を同僚になった掃除夫の爺さんがそっと教えてくれた。


 彼はこう言ったのだ。


 アレはドリームチームを追い返した化け物No.0だ。見た目と違うから、さっさと船に乗せてゲフタルから追い出せ、だった。


 こうしてゲフタルでも、No.0の伝説はさらに広まっていくのであった。


 なんでやねん!

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