世界最強、その名はランクNo.0彡☆

第103話さらば魔王、姿を見なかったけど。

　魔王城に聖剣が突き刺さり、魔王の居たであろう城を吹き飛ばす様子は多くの者が見る事が出来た。

　白い聖なる光を放ち飛んで行く聖剣を見た者は、そこに神の奇跡を感じたかもしれない。

　ドリームチームを含む魔王討伐軍は大歓声の中、ゲシュタルト王都に帰還した。

　この時、人々はドリームチームの姿は確認出来たが、その中に彼女らを統率したはずのNo.0の姿を見つけることは出来なかった。

　魔王城が破壊されたことで魔獣の大襲撃はなくなった。

　まだ多数の魔獣は存在していたが、それによりゲシュタルト連邦王国に限らず、国々が滅びるような危機は去った。

　海を封鎖していた魔獣も散り散りになり、海路の選定を慎重に行えば、他国に行き来も出来るようになった頃。

　ドリームチームを含む魔王討伐軍が帝国に帰ることとなった。

　この時もまた、誰もがNo.0の姿を見つける事が出来なかった。

　ただ魔王城に突入し、誰一人欠ける事なく帰還したドリームチーム全員が口を揃えて証言した。

　魔王を討伐したのは世界最強No.0である事を。

　こうしてゲシュタルト連邦王国の人々はNo.0の姿を確認することが出来ず、世界最強のNo.0の伝説が1つ増えただけにとどまった。

　なお魔王討伐軍の中で銀髪の髪をした男が居たらしいが、彼が忽然と姿を消したとかでそれを探す大騒動が起こったが、それはNo.0の伝説とはなんら関係がないだろう。

　ただその騒動の時、剣聖の担い手と呼ばれたエルフがポツリと、私は悪魔に魂を売ってしまった、と言ったとか言わないとか。

　その言葉の真意は誰も知らない。

　ドリームチームの各メンバーもそれぞれの国に戻りその本来の役割に戻った。

　帝国皇女カレン姫は、用意された見合い話を全て蹴り、物憂げな表情をするようになったとか。

　ツバメとその親友チェイミーは、帝国皇女親衛隊兼近衛隊のメンバーになったとか。

　帝国の秘宝ソーニャ・タイロンは、ついに自身のファンクラブの存在を知ってしまい動揺しているとか。

　世界ランクNo.1ハムウェイは、コルラン国に戻り自身の修行不足を恥じて、様々な人に教えを請いているとか。

　イリス・ウラハラは、留守にしているカストロ公爵アレスの名代として、領地を支えているとか。

　キョウ・クジョウは、エストリア王国の秘宝を使い女性の姿のまま異世界に帰還したとか。

　なお、誰も知り得ない事ではあるが、元の世界で親友と再会し、1つのロマンスが発生しているが……それはまた別のお話。

　メリッサ・レイドは、帝国諜報部としての仕事の傍ら、姿を消した『ご主人様』なる人物を探し旅をしているとか。

　エルフィーナは、気ままに何処かに行ってしまったとか。

　世界は平和を取り戻した。

　……かに思えた。

　それは各都市にある世界の叡智の塔。

　その塔から、世界にあるメッセージが発信された。

　世界の諸君。

　世界ランク、そして、魔王の余興は楽しんで貰えたかね？

　君たちが最後まで希望を失わず、魔王を倒してしまうとは少々意外ではあったが楽しめた。

　そのご褒美に私自らにより、この世界を崩壊へと導こうではないか。

　世界の叡智の塔を通じ、諸君らの欲望を刺激してあげよう。

　人の欲望による破滅を楽しんでくれたまえ。

　邪神より。

　その日、世界は震撼する。

　世界ランクを始めとした魔王の件は序章に過ぎなかったのだと。

　だが邪神にすらも考えつくことは出来なかったはずだ。

　人々が希望を失わない理由について。

　この世界には、世界最強と呼ばれる存在がいる。

　曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

　曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

　曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

　曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0

　だが、その正体は一切不明。

　男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵様だとか、転生者とか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、数え上げたらキリがない。

　それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。

　世界の叡智の塔に、刻まれることのない最強の名。

　それが、世界最強ランクNo.0彡☆

「おい、ゴンザレス。貴様、いつまでここに居るんだ？

　魔王討伐軍はとっくに帰ったぞ？

　貴様も早く帰れよ」

　休憩中に平原でごろ寝していると、シュバインが現れ俺にそう声を掛けた。

「え〜、シュバイン。つれないこと言うなよ。

　俺はここでエッリンちゃんと暮らすんだ」

「エッリンはゲーリッヒと結婚しただろうが。

　それと迎えが来たぞ？」

　迎え？

　なんで？　誰が？

　身体を起こすとヒラヒラ〜っと、エルフ女が俺に手を振っている。

「あれ？」

　取り付けた『何でもする』というお願いを使い、エルフ女の協力の元、連中から見事に抜け出すことに成功した。

　それでゲフタルでのんびり暮らそうとしてた訳だが……。

「邪神が出たんだって〜」

「へ、へ〜」

　それって俺に全く関係ないよね？

「このままじゃ世界が滅びるらしいから……行くよ」

　ガシッと腕を掴まれる。

「あれ……？

　見逃してくれたんじゃなかったっけ？」

「見逃したよ？　約束通り。

　捕まえないなんて言ってないでしょ？」

　さ、詐欺だ！！

「待て！　エルフ女！

　俺が動いても本当に何にもならんぞ！」

「うん、知ってるよ？　当たり前でしょ？」

「へ？」

「良いじゃない。

　滅び行く世界でもアンタとなら。

　それはそれで面白おかしく過ごせそうだから迎えに来た。

　ということで！　

　邪神退治に出発だ〜！！」

「待て！　エルフ女！！　お前！　

　ノリと勢いだけで言ってるだろ！

　俺は行かんぞ！　行かないからなー！！」

「エルフィーナだってば。気にしない気にしない。

　今度こそ、『此処からがアタシの人生の始まりだな』よ！！

　行くわよ〜！！」

「は、はなせー！　シュバイン！！

　ハンカチ振るな！

　俺は行かんぞ！　聞けー！！

　力付くで連れてくなぁー！！！！」

　こうして、とある詐欺師(自称)の新たな冒険が……また始まった。

　なお、彼は世界最強No.0の物語とは何の関係もない……かもしれない。

　ただ一つ、詐欺には十分ご注意しましょう。