第102話ゴンザレスと魔王⑨

「だって、どう考えてもおかしかったじゃないの!


 カストロ公爵領に滞在した時も、しきりにカストロ公爵様と何処でお会いに?

 カストロ公爵様は素晴らしいお方でしょ?

 ……とかとか。


 アタシ、滞在している間、あんた以外にカストロ公爵と呼ばれる人なんて会ったことないし。


 ていうか、どう見てもイリスとか領内の人に慕われてるの、あんたでしょ!!」


 エルフ女の猛攻に俺はついにひざまづく。

 そして心の叫びを口にする。


「気付くよ、気付くさ! 気付くに決まってんだろー!

 けどさ! 何処の誰が! 

 ただの詐欺師を公爵様と呼ぶんだよ! 

 訳ワカンねえよ!


 公爵って何!? 貴族で王族の血筋じゃねぇの!?

 詐欺師は普通……、普通じゃなくても公爵にはならねぇよ!

 どうしてこうなった!?」


 その俺の肩にエルフ女は優しく手を置く。

 まるで自首をした犯人をねぎらうように……いや、ダメ押しするように。


「アタシ、思ってたんだけどさ……。

 帝国、エストリア国、コルラン国、エール共和国でカストロ公爵アレスと認められたなら、血筋とか関係なくもう公爵なんじゃない?

 地位とか元々そういうもんだし。


 ……それに結局、カストロ公爵として色々やらかしてたの、あんたでしょ?」


 それは……どうしようもない事実。


 始まりはイリス・ウラハラと行った詐欺。

 でもそもそも亡国の唯一となった王女が、公爵って言えば公爵なんだよね……。


 なんでか知らないけれど、エストリア国内相ケーリー侯爵が土地をくれた。

 これでエストリア国もカストロ公爵アレスを承認したことに。


 その領でイリスが俺に指示仰いできて……でも、領地経営なんて出来るわけないから、思いつくように適当したらなんか有能な奴らが揃ってた。


 そのすぐ後にコルラン国が攻めて来たから逃げ出したら、救国の英雄になってた。


 その後、メメに乗せられ帝国貴族カストロ公爵アレスを名乗って、商業連合国に詐欺……詐欺?


 帝国が承認してるなら、詐欺じゃなくて帝国貴族カストロ公爵アレスが行った会談だよね?


 次にエール共和国での詐欺……あれ? これも帝国貴族カストロ公爵だから、帝国が……以下略。


 この後、何故かエルフ女と一瞬にカストロ公爵アレスとして、エストリア国からまた土地を貰った。


 最後にコルラン国でNo.1に外交に連れて行かれ、カストロ公爵アレスとして参加しちゃった。


「そうだよ! 俺だよ! 

 エストリア国内相から土地もらったのも、領内の優秀な奴ら選んだのも、商業連合国元首からセントラル川周辺帝国に譲渡させたのも、エール共和国代表と話したのも、何故かサルビア大要塞周辺を貰ったのも、ついでにコルラン国に土地貸出の代わりに奴隷譲ってもらったのも、全部俺だよ!!!」


 ポンと、またエルフ女は俺の肩を叩く。

 両手で顔を覆い俺は嘆く。


「なんでだよ!

 詐欺する前に、詐欺師に騙されんなよ!

 もっと、疑えよ〜……」


「アレス……あんた詐欺師に向いてない、ううん、向きすぎてんのよ。

 ……詐欺師、やめな?」


 チャーラーラー♫

 そんな物悲しい曲が、俺の頭の中で響く。


「うう……俺、この戦いが終わったら、詐欺師辞める」

「そんなこと言ってると、またフラグ立つわよ?」


 またって何? またって。

 エルフ女も最後だからって言ったじゃん。





「……あと、ここからは私1人で行くから。

 安全なところまで逃げたらスイッチ押してね」

 エルフ女は階段の先を見る。


「あ、そう? じゃ! 頑張って?」


 俺がシュビッと手を挙げると、エルフ女は寂しそうに苦笑いを浮かべる。

 およ?


「今生の別れだってのに寂しいじゃない?

 まあ、あんたならそう言ってくれそうだからスイッチ任せるんだけどね」

「今生の?」

「そ、今生の。

 剣聖の担い手、意味分かる?」


 分かる訳がない。

 むしろ、意味あったの?


「聖剣をね、刺した状態でになう人。

 ……つまり、あの聖剣は自爆攻撃って訳。

 マーカーもさ、相手が気付いたら外されちゃうでしょ?

 だったら誰かがそれまで時間稼ぎしないといけない。

 その役目が私ってこと。

 勇者が代わりに聖剣を使うのは最終手段。

 エネルギーの全ては勇者でも耐えられるものじゃないからね」


 妙に晴れやかな顔で笑う。


「言いたいことも言ったしね、思い残すことはない、かなぁ……。

 あんたに『此処からが人生の始まりだな』って言われてからさぁ、本当に毎日楽しかった。


 ……ありがとね。

 こんな運命の私でも少しは意味あったのかな? 

 ……そう思ったよ」


 少し泣きそうな顔をするエルフ女。


「ふーん、そっか。

 じゃあさ、せっかくだし、もしも生きてたら俺の言うこと1つ何でも聞いてくれよ?」


 エルフ女は呆れたように泣き笑いの顔に。

「何よ? なんでもって」

「何でも、だ。

 忘れてるかも知れないから先に言っておくが、あの時の契約は期限決めてないから現在も継続だぞ?」


 いよいよ呆れ顔で、でも今度は泣き顔ではなく笑顔で。


「良いわよ。

 『なんでも』

 ……あと、忘れてないわよ。

 契約だしね。

 あの2人、ほんと怖いんだから配慮してよね?」


 それはエルフ女にとってあり得ない未来の約束。

 俺は肩をすくめて見せる。


 ……だけど俺には。


「契約成立だな」

 ニヤリ、と笑う。

 詐欺契約である。


 エルフ女は早まったかなぁ〜っと苦笑いで呟く。


 クックック、もう遅い。

 世の中、迂闊に『なんでも』なんて言ってはいけません。

 詐欺師に、はめられますよ?


「そこの天井の向こうに魔王が居るんだよな?」

「う、うん」


 エルフ女は戸惑いながら頷く。


「あの天井にマーカー貼り付けとけば……良くね?

 そのまま聖剣飛んで来て魔王はフロアごと吹っ飛ぶし。

 エルフ女なら天井までジャンプ出来るだろ?」


 直接、魔王に貼り付ける必要……ないだろ?





 こうして、魔王は滅びた。

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