第101話ゴンザレスと魔王⑧

 歩いて行くと階段がありまして、そこを登るとでっかい扉があった。

 見るからに怪しいの。

 上に行けば行くほど、城っぽい作りなのね?

 どういう理屈?


「どう見ても、ここですね。行きましょう」

 帝国皇女様が俺の隣でニコッとする。


 可愛ぇえのぅ、一緒に帰らない?

 ダメ?


「もう覚悟決めなさいよ。行くか滅びるか二つに一つなんだから」

 それでなーんで俺を巻き込むかなぁ……。


「やめておきます?」

 メメが首を傾げる。


「アレス様。私は最期までお供しますので、ご随意に。

 あの日、貴方に生きる意味を貰ってからずっと、アレス様のご意志が私の全てですから」

 どこか儚げに微笑むNo.8イリス・ウラハラ。


 さっきから言ってる、お供しますってそう言うこと?

 滅びる時でもって?

 そういうのは趣味じゃないなぁ……。

 あの世でとか、次の生でこそ幸せをとか、まーったく俺の趣味ではない。


 そんなことするなら洗いざらい俺に貢いでからにしろ!

 俺は生きるぞぉぉおおおお!!!


「仕方ない、生きるためには進むしかないか。ご褒美忘れるなよ?」

 ある意味、俺は初めて諦めた。

 全ては生きるために。


「はい。ご主人様」

「アレス様、理由が無くても良いですよ?」


 やめてやめて、ちょっとゾクゾクする。

 No.8がカストロ公爵の女だって、忘れそうになるから。


 ま、これでNo.0の役目も終わりだろ? って事で、いくらなんでもこんなS級と関わることも最後だろ?


 ……すっごく今更気付いたけど、No.0の本物どこ行ったよ?


 結局、世界存亡の危機にも現れなかったからやっぱり居ないんだろうな。


「せめてカストロ公爵アレスでも、代わりに連れてくれば良かっただろうに」

 俺がポツリと呟く。


 その声はエルフ女だけ聞こえたらしい。

「あんた……」

 何かを言いかけたが、そのまま黙って扉を開けた。


 あ、エルフ女が開けるのね?

 てっきり俺が開けるまで、待ってるのかと思った。


 むしろ、早く行けとせっつかれる。


 押すなー! 押すなよー! フリじゃないぞ!!!


 中には二体のグレーターデーモン。


「ひーえー!!!」

 逃げようとする首根っこをエルフ女に捕まれる。


「行くわよ!」

 エルフ女は俺をぶら下げて駆け出す。


 やめてー!! 離して、逃してー!!!


「ここは私たちが食い止めます! 走って下さい!」

 残るのは帝国皇女様、ソーニャちゃん、ツバメ、チェイミー、そしてキョウちゃん。


 待てや! こら!! 

 いきなり勇者が脱落してどうする!!


「頼んだからなー! No.0! 魔王退治譲るから必ず倒してこいよー!」


 言い方は粗暴だが、声も態度も可愛らしいので良しとしよう……って、やっぱ良くねぇよ!

 なんで俺に魔王退治譲るんだ!

 大切なものを譲ってはダメよ、キョウちゃん!!


「おい! エルフ女。勇者無しで魔王に勝てるのか!」

「聖剣がぶちかませられればね!」


 しばらく走って階段を登り、またしても扉。

 躊躇ためらう間もなく、エルフ女が開ける。


「ちょ、ちょっと待てやぁあ!!

 少しは躊躇え!」

「時間の無駄ぁぁああああ!!」


 そりゃそうかもしれないが!!!


 扉の向こうにいたのは、でっかいドラゴン。

 あっらぁ〜、イカしたトカゲさんね?

 あら? お口を大きく開けて……。


 ブレスやないかーい!!!


 エルフ女が首根っこを持って、運んでくれなければそこでお終いだった。


「行け! No.0!! ここは僕に任せろ!」


「おー、頼んだぞー」

 ゆる〜い感じにさっさと行く。


「No.0! もう少し何かないのか!?」


 あるか! イケメン!

 さっさとくたばれ!!


 イケメンを置いてさらに進む。

 また階段があって、そこにも扉が。


 バタンっとエルフ女突入。

 運ばれる俺もin。


 すっごく雰囲気のある手がいっぱいの骸骨剣士。


「行って下さい、ご主人様」

「アレス様は魔王を」

 メメとイリスが剣を抜く。


 あー、ここまで来たらしゃあないか。

 進む方が生存確率高そうだしな。


「ご褒美貰わないといけないからな。間違っても死ぬなよ?」


 2人は俺の言葉に震える。

 そして同時に妖艶に笑う。

「「はい」」


 エルフ女は駆け出す。

 俺の首根っこを持ったまま。


 遠ざかる2人が骸骨剣士と切り結ぶ。

 早すぎて光が交差しているようだ。




 魔王倒さないとな。

 俺は生まれて、初めて誰かのために、そんなことを思った。


 そして……。


 一際大きな階段があるフロアへ。


「この階段を登った先。つまりこの天井の向こうに、魔王が居るわ」


 上を見上げる。


 でっかいこのフロアの真上の天井の先に……。


「これがきっと最期になるから、あんたには言っておきたいことがあったの……」


 俺は首を振る。


「……ダメだ。最期なんかじゃない。そんなことを言うと、騙されるぞ?

 ……人生は続くんだ」


 エルフ女は、いやエルフィーナは柔らかく微笑む。


「ううん、今、言わなくちゃいけないの。

 きっと……私だけがそれを」


「ダメだ!! 絶対に言うな!」


 俺はエルフィーナから目をそらす。


「いいえ、言うわ!

 あんた……












 自分がカストロ公爵って、気づいてるでしょ?」


「言うなよぉぉぉおおおおお!!!!」


 ダメって言ったじゃん!!!

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